六十九話 龍の国へ
「着いたな、ニュイは良いのか?もうそうすぐには戻れんぞ」
儂とニュイ、そしてミロは今馬車の前にいる。ここでの問題は解決したので、メルルナやジェリエのところに向かうつもりだ。
「ううん、後はスイラムに任せるよ。キメラの襲撃でも余計な消耗はなかったみたいだし」
儂の質問にニュイはそう答える。
気を遣ってるのか、それともスイラムを信じているのか。どっちにしろ、いいと言うのならこれ以上言うまい。
「父、疲れた。早く乗せて」
「はいはい、さっさと乗ろう.....か?」
儂はミロの気だるげな言葉に呆れつつ、馬車の扉を開ける。そして中を見た儂は思わず固まってしまう、目の前に広がった信じたくない光景に。床や座席、天井まで菓子のカスが飛び散っていた。
そ、そうだった〜!ミロのやつ、ここへ来る時菓子食ってたんだった。しかも油の多いもん食いやがったな、ベタベタじゃねぇか。これ、どうする?
「..........」
「父、何してる?早く入らせ.....何これ、汚い」
黙っている儂をミロは我慢できないといったふうに押し除け中に入ろうとしたが、中の惨状を見た瞬間にその足を止める。
「他人事みたいに言ってるが、これをやったのはお前だぞ」
呆れの混じったツッコミが出た。
「パパ、良かったら私が掃除しようか?」
そこで口を開いたのはニュイ、見るといつの間にかスライム形態に戻っていた。かわいい上目遣いが儂を見つめている。
ニュイはスライムだ、掃除もできる。だが、良いのか?掃除といっても捕食と同じ、そんなことさせるのかニュイに。いや、させるわけにはいかん。ニュイにとってはなんてことないことなんだろうが、娘も同然のコイツにそんなことさせられるわけがない。
「ニュイ、気持ちは嬉しいがーーー」
「流石はニュイ、殊勝。掃除始めて」
儂がニュイの提案を拒否しようとしたその時、儂の言葉に重なるようにミロがなんの躊躇もなく命令した。
おいー!何勝手に、てかちょっとは躊躇え!
「分かった、ちょっと待っててね。すぐに終わらせるから!」
「ちょっ、待て!」
ニュイの承諾、すぐに止めようとしたが間に合わなかった。儂の声が届く前に勢いよく馬車の中に飛び込み、扉を閉めてしまった。
「ミロ、お前な。いくらスライムとはいえ、今まで一緒に育ってきた家族だろ。躊躇なくあんなことさせるのはどうかと思うぞ?」
「部屋の掃除もしてもらってた、今更」
流石にどうかと思い、ミロに注意するもさらに衝撃の事実を知らされた。
あ〜、たまに部屋が綺麗な時があったのはそのせいか。コイツまさか、日頃からニュイをこきつかってんじゃないだろうな?
「パパ、ミロ、終わったよ」
儂とミロでそんな話をしていたら、あっという間にニュイが馬車から出てきた。多分五分も経っていない。見ると中はまるで新品が如くピカピカになっていた、食べこぼしや他のゴミを綺麗に捕食したようだ。
これがスライムをペットにするメリットとして有名だが、やっぱりなんか儂は違う気がするんだよな。
「よくやった、やっと入れる」
ニュイを褒めた後、さっさと中に入って座るミロ。やはりなんか他人事。
「.....まぁ、良い。乗ったな、じゃあ出すぞ」
「はぁーい!」
ミロの態度に言ってやりたいことはあったが、あんまりここで時間を使うわけにもいかない。儂は御者台に座る。元気なニュイの声を背に儂は馬車を出発させる。目指すは龍の国『ヘルクレナ』ーーー
「.....ん?」
道中、何やら背後からバリバリ聞こえてきた。まるで何か固い、せんべいでも割ってるかのような音。
いやいや、ちょっと頭にせんべいがよぎったが流石にな。ニュイに綺麗にしてもらったばっかであんなボロボロ溢れるようなの.....
「一様確認しとくか。ミロ、なんの音だ」
「ぼりぼり.....せんべい」
あ〜まじか、ニュイラムから出て一時間と少し。こんなすぐにしかも掃除したニュイを目の前にして、コイツは鬼か。
「汚すなよ?」
「.....はぁい」
今すぐやめさせたいが、あいにく今は運転中。手を離すわけにはいかない、注意したところで正直不安しかないが言わないよりかはマシ.....だと思いたい。
思いたいが、今の間はなんだ?返事がだるかっただけか?
「本当に勘弁してくれよ?」
期待のできない呟きと不安を抱きつつ、儂は前を向いて馬を操作する。
ーーーあれから大体一日かけてやっと龍の国が見えてきた。
「よし、見えてきたぞ。次こそはゆっくり観光できると良いな。ん?」
儂は後ろの二人に聞こえるように少し大きな声で話していた、があるものを見つける。
「なんであんなところに馬車が?中に停めるところはあるはずだが.....馬車の近くに誰かいるな」
ヘルクレナの入り口前に馬車が一台不自然に停まっていた、そして馬車の近くに誰かが見える。近づくにつれてそれが誰なのか見えてくる。
あれはーーージェリエ?




