六十七話 ジンカイ撃破
「もう一個用意して何ができるようになるのやら」
「まぁ、少し本格的に動けるようになるだけです」
まずは奴の動きを見るために適当な挑発を一言、だが帰ってきたのはクソ真面目な回答。それも挑発を挑発と受け取らずのこの言葉。
分かっちゃいたが、こいつに挑発の類は効かんな。本腰を入れるとか言ってたが、さてどう来るか。
「では、いかせていただきます」
ジンカイの次の言葉の後、キメラが儂の方に突っ込んでくる。
なんだ、何も変わってないじゃないか。じゃあまぁ、とりあえずあのキメラはほっといて本体を叩くとするか!
「はっ、無駄だ!」
儂はまっすぐに突っ込んでくるキメラに向かって同じく真っ直ぐに走り、触れ合う寸前でキメラを躱す。そして向かう先は、
「さっきまでと同じくお前自身が安全だと思うなよ?分かったからには儂も戦い方は変えーーーっ⁉︎」
その矛先はジンカイへ、向かっているはずだった。だが、方向転換したらしいキメラに数秒のうちに追いつかれてしまった。
速い、いや速さだけじゃない。さっきまではこんな切り替え速度は持ってなかったはず、操作精度はしっかり向上しとるわけか。
「僕に近づかせはしません、コントローラを二つ持つ意味は正確には反応速度の同期です。つまり僕の反応によってコントローラを操作する、それを受けてキメラが動くまでの遅延を減らすことなのです」
「だろうな!いちいち説明してくれんでも今ので分かるわ」
ジンカイによる今起こった現象の解説、淡々としているがその言葉に迷いは見えない。何故こいつはわざわざ手の内を全部話すのだろうか。
「失礼しました、ついつい悪い癖が」
ジンカイは儂の指摘に恥じるかのように額に手を当て、また辛そうな顔をする。
「おいおい、目線を隠すな。儂はお前の悩みをいちいち眺めてやる気はない」
ジンカイの動きが止まったその一瞬、儂は一気に距離を詰めた。もう剣の間合いに入るまでに。
このキメラの厄介な点はその速度ともう一つ、慣れだ。下手に長引かせたらその分、キメラの動きは正確になっていくだろう。
「流石はお速い、ですがこの距離でしたらまだーーー!」
儂の姿を見たジンカイはまだ調子は崩さず。ジンカイの言葉の後、床を大きく蹴る音が聞こえる。
「ふ、来たな!」
近い、近いが、もう遅い。ジンカイにこの距離まで接近すればあれが使える。こいつは見たところ鍛えている様子はない、なら確実に効くはずだ。
「い、一体何を!」
「.....ん、魔力反発が効いていない⁉︎」
儂は目と鼻の先にいるジンカイに向かって魔力反発を使った。だが予想に反して何も起きなかった。反発しなかったのではない、反発が起きなかった。
おいおい、魔力反発は魔力の力の差が圧倒的であれば相手を弾き飛ばせる。魔法を一切使用していないジンカイは魔力量はさほどないのは間違いないはず、それなら弾き飛ばせる。全くそれが起きないなんざ考えられるとしたら魔力がゼロ、ゼロならばそもそも反発するものが存在しないから不発に終わる。が、そんなのはあり得ない。人間も魔族も産まれた時から魔力は絶対に持っているはず!
「ーーーチッ!今は考えてる場合じゃなかった!」
儂は即座に視線を移しこっちに向かってくるキメラを確認し、剣を床に刺す。そして飛んできた拳を避けて腕、一歩踏み出し首と掴む。
「なら狙いを変更だ、キメラ!ちょっと邪魔だからな、離れてもらぁうぞぉ!」
腰に力を入れ、キメラを思いきり投げ飛ばす。
「ーーーなっ⁉︎」
「案外軽かったな、いくら早く動かせるつっても浮いてりゃ無理だろ。想定外は起きたが、これで終わりだな」
儂は剣を取り、無防備なジンカイへと振り下ろす。
「.....っ!うぐっ!ああああああっ!!」
次の瞬間、ジンカイの絶叫が上がる。儂の剣はジンカイの肩を抉った、傷口からは血がこれでもかと噴き出している。
「バカかお前は、せっかく一振りで終わらせてやろうとしてやったのに。無理に避けようとするからそうなる」
「は、あ、あああっ!が、あっ!」
痛みのあまり声がうまく出ていない。儂の声が聞こえているのかいないのか、もはや分からなくなってしまっている。
「安心しろ、すぐに終わらせてやる.....ぬおっ⁉︎」
いっときの生存本能で無駄に苦しむ結果になったジンカイ、儂はもう一度剣を構えた。その時だった、儂の腕に鉄の棒が刺さったのは。
飛んできたのは後ろから、間違いなくキメラだろう。ということは、
「はぁはぁ、まだ僕は負けられ、ないんです」
「な、何がお前を突き動かす⁉︎お前はもう限界のはずだぞ!」
「僕には責任があるんですよ、ここであなた一人だけでも留めておけば職員の一人でも無事に逃げてくれるかもしれない、そうでなかったとしても殉職した者が一人でもいるなら僕はそんな簡単に死んではいけないーーーっ!んです、はぁはぁ.....」
ジンカイは肩から血を流しながらももう片方のコントローラは落とさない。が、流石に限界か膝をつき二つ目のコントローラも手放した。
「もう限界だ、諦めろ」
「キメラ作成のキッカケこそ彼女のためですが。始めた当初僕は没頭してしまいました、死体を繋ぎ合わせそれを動かすことに。そのキメラは私のそんな気持ち悪い過去の集大成、もう二度と使わないと捨てたもの」
気絶しないのが不思議なくらいの出血の中、ジンカイはここぞとばかりに語り始めた。話のつながりなど関係なしに言いたいことを喋り続ける。そして、
「魔王様、僕がうちの職員がツツナ君があなた方に申し訳ないことをしてしまいました、本当にすみませんでし.....」
最期のジンカイの言葉はまたも謝罪だった、その途中で息絶えた。最期のその死に様は土下座に似た姿だった。
「..........」
儂の背後数メートルには動かなくなったキメラ、こちらは頭から床に激突している。
「.....なんの威厳も感じられんぞ」
コイツは多分誰かのために謝ったことがない、謝るべき内容は理解していたから謝ること自体は慣れているんだろうが。全く、頼まれてもいない他人の代わりに謝罪なんざお互いに辛いだけなのにな。




