六十三話 ヴィクター
バウたちが戦っていたその時、同時に別の施設内通路にて
「魔王様と別れてから適当に進んでいたが、やたらと人間製のキメラに会うな。困っちゃうね、モテモテだ!」
何体ものキメラにナイフを投げ、ゆったりとした速度で歩くヴィクターの姿。ナイフが刺さったキメラは全て跡形もなく溶ける、何の毒かは分からないがかなり強いようだ。そしてヴィクターが言っている通り、さっきから向かってくるのは反乱軍のアジトを襲ったあれと同じタイプである。
「ふあぁ〜、まぁしかし退屈だ。同じ毒を塗って投げるだけ、しかもーーー」
大きなあくびを一つして、そんなことを呟きながらナイフを投げる。
「..........っ⁉︎」
「当たっても声ひとつ上げない、やってやった感もゼロ。まぁそれももうすぐ終わる、コイツらがいるってことは間違いなくこの先にはアイツがいるはずだ」
投げられたナイフは飛び掛からんとするキメラに見事に命中する、キメラは静かに溶けていく。そもそも喉が付いていないのか、黙って近づいてきては黙ってやられていく。頭はついているというのに。
「おっと、来たね。確か反乱軍のリーダーさん?」
「やーっと会えたねぇ!」
通路の途中、右手の部屋からある男が現れた。髪はボサボサ、服はだらしなく着崩している。そしてこれまでいた人間から作られたキメラたち。この人物は反乱軍のアジトを襲ったキメラと一緒にいた男、そうアヅマである。
「ああ、理由は分かってるよ、オレが目的でしょ?」
「.....?まぁ、確かに人間製のキメラが度々うちに仕向けられてきた過去はある。君を殺す理由づけには足るだろう.....がだ。こちとら反乱軍だ、しかも魔族の国の」
次にアヅマは気怠げにヴィクターが来た理由を推測する、だが当のヴィクターはどうやら違うらしい。
「他でもない魔族に楯突いてんだ、いちいち味方が殺された程度でギャアギャア言ってられない。やるからには全員命をかけてる、だというのにやれ敵討ちだなんだというのは失礼じゃないかね?」
「意味がわかんないんだけど、じゃあさなんでわざわざオレのところに来やがったんだ?」
最もな質問、仲間の敵討ちでもなければここにいる理由が分からない。
「自分たちを散々苦しめてくれた男にみんなの思いをしょってリーダー自ら制裁を、シナリオ的にはこっちの方がアツいだろう。だがやはり、理由づけとしても敢えてそれは選ばない。そもそもそんなの私の柄ではない、なら何故か?」
「だからそれを今オレが聞いてんだがね、あんま待たせんなよ」
長々と説明するヴィクター、段々とアヅマは腹が立ってきているのか声色が強まる。
「あっちはかなり重い話になっているらしい、ならばこちらは楽しく行こうじゃないか!」
「はは、くだらねぇ理由だな。だがまぁ、嫌いじゃないぜ。意味なく死んでくやつを見るのは楽しいからな」
アヅマが言うが早いか、背後からさらに多数のキメラが現れる。
「いやいや、これから楽しい楽しい遊戯をはじめようとしていたのだ。邪魔な外野さんにはご退場願おう」
次の瞬間、アヅマの周りを無数のナイフが抜けていく。あっという間に後ろのキメラは全滅する。
「..........なっ⁉︎」
今の一瞬で用意していたと思われるキメラの全滅、アヅマは驚愕の表情を浮かべる。
「ゲストが何やら固まっているようだが、話を進めさせてもらおう。ここに取り出したるは五本のナイフ、この内一本だけ毒が塗られていない」
「インチキじゃないのか?そんなものお前が有利すぎるだろ」
さっきまでの様子はどこへやら、何故かアヅマは勝手に進めるヴィクターの言葉に乗っかっている。しかし、それはそれとして不公平については指摘している。
「まぁまぁ、話は最後まで聞きたまえ。こちらのナイフ、もちろん私はどれが当たりかは分かっている。だから四回、あなたが選ぶ。私はそれを自分に刺すとしょう」
「良いのか?じゃあ、遠慮なく右から二番目」
次のヴィクターの発言を聞いた瞬間、躊躇なく選ぶ。
「飲み込みが早くて助かる、こういうの慣れてるのかな?」
ヴィクターは言われた通りのナイフを自分に刺し、あろうことか相手に問いかける余裕を見せる。ちなみに何も起きない、外れである。
「そうだな、お前ほどにイカれたやつは会ったことはないが。一番左のやつ」
こちらもこちらで容赦がない、相手が死ぬというのに何も思わないのだろうか。そして外れだった。
「.....真ん中だ」
ーーー外れ。
「右、だ」
最初こそ、余裕たっぷりだったアヅマ。しかし外れるごとに顔が真っ青になっていった。最後は、外れだった。
「ざんねーん、全部外れ。君運ないね、じゃあーーー」
「ちっーーー!」
アヅマは突然逃亡を図る。だが、
「おいおい、しらけることをするんじゃない。大人しく死んどきな」
「がっ⁉︎.....あ、あああああっ!」
そう言い投げられたナイフ、アヅマは他のキメラ同様に溶けていく。
「全くよそ者があまり出過ぎた真似をするからだ」
溶けゆくアヅマの前で静かに呟くヴィクター。
「だが、しかしまさかあんなに厄介なのが魔族にいるとは。.....まぁ今はそれは良いか、目的は遂行した。戻るとしよう、私を知らない場所へ」




