六話 娘とまた
「はぁ.....全く、やっと終わった」
ただ四人ばかり呼びつけて話し合いをしただけなのにドッと疲れた。
「お疲れ様でした、魔王様」
疲れ果て椅子にもたれる儂の前にルイナが姿を現す。
「なぁ、ルイナ。毎度のことだが、儂には魔王なんて大仕事は向いてないと思うんだがな。あいつらは一向に直す気がないしな、娘とすら上手く接することが出来ない儂には荷が重い」
儂はルイナを前にしてそう問う。
全く、儂は何を言っとるのか。疲れたせいで口が軽くなってるな。
「いえ、あの方々をまとめられるのはあなた以外にいないかと。今も従っているということは少なくとも自分の上司としてある程度は認めているからでしょう」
うーむ、思っていたよりも真面目な回答が返ってきた。困ったな、もっと冷たくあしらわれると思っていたのがこう反応されるとこっちが申し訳なく思えてくる。
いやいや、儂もただ面白半分に言ったわけではない。儂だってしっかり不安に思っているし、真面目に悩んでいる。だが、分かるか?同じことについて自分よりも真面目に考えているやつを見るとなんとも言えない不甲斐なさを感じるあれだ。
「だ、だがなぁ、やはり儂は家族すら纏められないようなやつには魔王なんて務まるのか。それに儂は昔のように娘たちと.....」
「分かりました、ではお嬢様方との好かれることをお望みということですね」
儂が口ごもるとルイナは一切の躊躇もなくいつも通り冷静に返してくる。
儂はまだ昔のようにとしか言うとらんのにそこまで察するとは。流石ルイナだな、伊達に長年儂の側近をしておらん。しかし、好かれるまでは望まない。ただ普通に接してくれる程度に距離を戻すことさえ出来ればそれ以上はーーー!
「駄目です!望みは高くあるべきです、あなたは魔王様なのですから!」
「な、どうした⁉︎」
いきなり声を荒げたルイナに儂は不覚にも驚き、体が大きくはねてしまった、気がする。
こいつ、今儂の心を読んだか⁉︎それにしても何故そこまで声を荒げた?こいつもこいつで訳がわからん。
「申し訳ありません、魔王様。つい取り乱してしまいました。つまりお嬢様方との関係を改善する何かを考える必要があるかと」
「とは言ってもなぁ、そんな方法があるか?」
なんか話を切り替えてきたルイナ、ということはあまり詮索はして欲しくないんだろう。なら、儂はこれ以上言うまい。
「そうですね、家族旅行などどうでしょうか。魔族の十カ国を観光などすれば魔王様の存在を再認識するかもしれません」
ルイナは儂の質問にそう答える。
なるほどな、旅行か。良いかもしれん、だが大きな問題が一つある。
「メルルナはともかく他の二人をどうやって連れ出すか。ただ説明しても拒絶されるのは目に見えているぞ」
そう、問題はミロとジェリエだ。あいつらが旅行なんぞに着いてくるか?いや想像もできんな、悲しいことに.....
「それに関しては私にお任せください、必ず皆さんを揃えて参ります。ニュイ様もお呼びしますか?」
「そうだな、あいつも家族だ。儂は先に準備が終わるだろうし、先に外で待っておくとしよう」
家族旅行なのだからニュイを連れて行かない理由はない。
「かしこまりました、では行って参ります」
ルイナはそう言い、儂の前から消える。
「家族旅行か、そういえばそういったことは初めてだ。それに魔族の国を旅行というのはあれをするにはちょうど良い、この際に決めるとしよう」
儂は誰もいなくなったこの場所でそんなことを一人呟く。やはり、疲れているかもしれんな。
まぁ、とりあえず着替えるか。こんな重いもん着て外を出歩くわけにはいかんしな。
「はぁ.....ルイナはああ言っていたが本当にあいつらが来てくれるのか。気が重い」
儂は玉座の間を離れ、そんなことを呟きながら自室へ向かう。
また無駄に長ったらしい廊下をしばらく歩くと何の変哲もない普通の扉が見えてくる。娘の部屋は可愛く飾り立てたが、儂の部屋に豪華さなど不要だからな。
「さて、服は.....まあ鎧じゃなければ何でも良いか。そうだ、髭は剃っとかんとな」
魔王としてなら髭が必要だがお父さんとしてなら不要なものだ。
「こんなもので十分だろう、ただのお父さんならこれ以上必要あるまい」
数分程度の時間だったが、途中から年甲斐もなく楽しみになってきてしまって長く感じてしまった気がする。
「.....娘が来るとも限らんのにな」
儂は準備を整えて、魔王城の外へーーー行く前に会いに行くやつがいる。
旅行といえば馬車、らしい。馬車と言えば御者がいるだろう。御者役はルイナで良いとして、もう一つ欠かせないものがある、それは護衛だ。護衛役に適しているやつといえば断然あいつしかいない。
「ただ会いに行くだけじゃあ、了承は得られんな。さて、どうするか」
ここまでで察しているだろうが、魔王だからと言って全ての魔族が言うことを聞くなんてことはない。人間のように立場を重んじるやつの方が少ない、何をさせるにも対価を要求してくる奴らばかりだ。
「だが、まぁあいつならあれで食いつくか」