五十九話 キャウと再会?
「あら?随分とうるさい侵入者だこと、扉くらい静かに開けられないの?」
バウが勢い任せに開けた鉄の扉の先、そこには新しい白衣の女と一体のキメラの姿が。その女だが、薄い紫色の髪で長いそれを後ろで一つにまとめている。それなりに若く見え、格好もシャツにズボンと白衣以外はあまり特筆するものはない。
まぁ、予想はしてたが別の奴か。アヅマとか言われてたやつは人間で作り出したキメラだったしな、バウが迷いなくここに来たあたりここにキャウはいるだろう。そういう心持ちでいたってのにーーー
「ぐ、ぐるじいぃぃぃっ!」
「助けてくれぇぇっ!」
「あああぁぁぁぁっ!」
あの女の前にいるキメラがとめどなく絶叫している、材料にされた生物と思われる多数の声がこの部屋に響く。その中に一貫性はなく材料にした生物が思い思いに苦痛を叫んでいる、聞いているだけで不快感しかない。
狂気としか言いようがないな、死体じゃなく生身をわざわざ自我を残した形でキメラにしてやがる。だがそんな製法は聞いたことないな、まぁでもできるとして思いつく時点で狂ってるだろ。こんなの嫌でも正気にさせられるわ!
「今のところ、キャウの声は聞こえんな。あいつの中にはいないか」
「いえ、大主人。います、あの中に確かに」
儂が胸を撫で下ろそうとした瞬間だった、バウの方から否定の言葉が飛んできた。匂いか感覚かは分からないが、即座に否定された辺り確信があるんだろう。
「.....そうか、ざんねーーー」
「あああ〜〜〜!良い、良いわぁ」
儂の言葉の途中で突然嬌声が響く、見るとまさに恍惚という言葉が正しいくらいの緩み切った顔に両手を当てよがる姿があった。最初に入ってきた時に見たやれやれといった落ち着いた様子はどこへやら。
っ⁉︎いきなり変な声あげやがって、一体何にそこまで興奮したんだ。
「やっぱり聞くなら悲鳴か絶叫よねぇ!」
どうやらキメラが上げている苦痛の叫びに対してのものだったらしい、あれを嬉々として聞く奴がいるとは信じ難い光景である。
「何あれ、頭おかしいよ」
あまりの光景にニュイも嫌悪感を示している。多くの個体に叫ばせているため、必然的にキメラの見た目は顔の集合体のようになっている。頭部はさることながら胸から腹部にかけてびっしりと顔が敷き詰められている、不気味を通り越して恐怖しかない。
「キサマァッッッ!!」
次の瞬間、巨大な声が場の全てを吹き飛ばした。タガが完全に外れたか、いやどちらかというと扉を開ける時点であれだったのによく我慢したというべきか。
ふざけた奴に怒りを覚える節が強いバウの前であんなことしたらな、儂は恐怖さが勝ったがバウは怒りが勝ったか。魔族らしくない真っ直ぐさだな。
「ヒッ⁉︎.....あなた、うるさいわね。でも、声は結構良いじゃない。叫び声はさぞ良いものにーーー」
「ふざけるなぁぁぁ!」
相手の声の途中でバウが怒りを叫ぶ、そしてキメラの方へとゆっくりと歩き出す。
「このワンちゃん、バカかしら。これはすぐに悲鳴が聞けそう」
女はそんなバウの姿を見て、小馬鹿にした後何故かちょっと頬が赤くなる。
「も、もう嫌だあぁぁぁっ!」
「やめでぐれぇ!」
「..........っ!今黙らせてやる」
バウはとめどなく叫び続ける目の前のキメラ、いやキメラの材料にされた魔族に対して静かに憤りを表すかのように唸り声を上げる。そして、静かに呟き剣を構える。そして、
「もう許し、でっ!」
次に叫んだ頭の少し下、喉の辺りを斬った。もちろんそんなことをすれば、キメラから攻撃がくる。だが、動きにぎこちなさがあるキメラの攻撃にバウが当たるはずもない。そこからはキメラの攻撃を避けつつ頭一つ一つの首を斬り続ける。一つまた一つと響く声が消えていく。
見たところあいつのただのご機嫌取りのためだけに痛みを継続的に与えられ、なのに身体を自分の意思で動かすことすらできない状況に見えるからな。んなことに付き合わされてる同族を救ってやってるんだろう。
「な、何やってるの?」
しばらくして一切の悲鳴は聞こえなくなった、場は一気に静まり返る。そこで開いた女の口から出た言葉はさっきまでの音が一気に消えた影響かいつもよりもスッと耳に入ってきた。
何やってるはこっちのセリフだがな、正直最初から不愉快極まりない。バウがここにいなければ、秒だろうと我慢などできんかっただろうな。
「これで全ての頭は逝った.....おかしい、キャウがいなかった。まさかーーー!」
全ての頭を眠らせたバウは少しの間考え込んだ後、剣を振りかぶりキメラに対して振り下ろす。
「「「ーーーなっ⁉︎」」」
次の瞬間、バウだけでなくニュイも儂も思わずそんな声を上げてしまう。何故なら、いたからだ。バウの剣によって表面にくっついていた頭が剥がれたことで中に埋もれていたキャウが。




