五十二話 反乱軍の現状
長い沈黙が部屋を包み込む、ヴィクターの言葉はそれほどにチンプンカンプンだった。嬉しそうに自分の処遇を話したかと思えば堂々と脅迫、最後には強力とか抜かしやがった。脈絡がなさ過ぎて理解ができない、一体どういうつもりだ?
ただの挑発か、それともこの状況を楽しんでいるだけか。こいつの場合どっちもありそうなんだよなぁ、そう思うと考えるだけ無駄な気もしてくる。
「貴様!黙って聞いていれば、訳のわからないことを次々と。ご主人をおちょくるのも良い加減にしておけ!」
そんな沈黙を破ったのはバウの怒号だった、静かな空間ゆえにその声はよく響いた。
おぉ、よく届く。訳がわからん過ぎてちょっと考え過ぎてたから助かる。
「そうよ、それそれ!もっと早く君の声が聞きたかったね」
バウの声を聞いたヴィクターは何故だか嬉しそうに口を開いた。
「ふざけるな!何度も言わせるな、良い加減にーーー」
「待てバウ、お前の言葉は正しいが今はパパの判断を仰ぐ」
「は、私としたことがとんだ失態を!」
バウの言葉でもまだ舐めた態度を止める様子のないヴィクターに対し、またも怒りの言葉をぶつけようとしたバウをスイラムが諌める。バウは我に返った様子で前に出した足を下げた。
いや、待て。バウを黙らせたところまでは良かったが、そのあとがいただけんな。注意したよな、なーんでまた儂の方に投げるんだ!.....まぁ良いか、突っ込んだところで無駄そうだし。
「そうだな、まず聞かないといけないのは。おい、ヴィクター!あれだけめちゃくちゃな言葉を並べておいて今更従うなんざ言われてもな、その言葉をこっちはどう信用しろと?」
なんでまた儂に聞いてくるんだ、というツッコミは飲み込んでヴィクターに向き直り問いかける。
「それもそうだ、簡単に『はい、そうですか』といったら驚きのあまり変な声が出てしまっていたところだよ。.....さて、おふざけはここまでにして。ここからは真面目な交渉の時間だ」
儂の問いにヴィクターは最初はまだふざけた態度だったが、一転し雰囲気が変わる。
あー、最初からそうしてくれないか?.....て言ったところでまた面倒なことになりそうだから本当に言いはせんが。
「交渉とは言ったが、私の方が明らかに不利なこの状況。まずはこちらが全て話そう、信じる信じないはそのあと決めてくれるとありがたい。まず私たち反乱軍というのは今や名前だけのただの人間の集まりに過ぎない、最初こそこの国を取り返そうと度々衝突を繰り返していたがーーー」
なんか本当に真面目に語り出した、ただただ違和感がすごいな。
「今から四年前にあった最後の衝突、反乱軍は敗北しだが撤退には成功した。が、その時点で反乱軍を仕切っていた反乱軍の存在意義とも言える『国を取り戻す』という考えを持つ連中は軒並み討死した。まぁ、そういう考えを持つ者だけで形成されていたなら量が足りるはずもなかった。元々そういう考えを持つ奴らはごく少数、ほとんどは自分たちが『安心して生活していく環境を作るため』だったわけだ。んで、例の戦いで残ったのは後者のみ」
「今の反乱軍に反乱の意思を持った者はいないと?」
ヴィクターがそこまで話したところでスイラムが口を開く。
おいおい、スイラムは今のをよく普通に聞けたな。儂なんかヴィクターの切り替わりの違和感にばかり意識がいって、半分くらい内容が入ってこん。しかも、態度を切り替えて真面目な話をしてるのに喋り方はタメ口のままなのも気になるし。
「ええ、その通り。そちらさんの知る反乱軍は四年前の時点で崩壊した、今じゃ訳もなく集まってだべるだけのただの人間の集団だ。じゃあ現状の次は何故暴動を起こしたか、を説明しよう。これは広場でも言ったがあの化け物のせい、あれはつい数ヶ月前ほどからだ。いつも通り、適当に集まり会話に華を咲かせていた時だった。あれが現れたのだよ、ま・さ・に!反乱軍であることすら忘れかけていた矢先の出来事だった」
うんうん.....ん?段々言葉に勢いがで始めたぞ、さては話してる間に楽しくなってきてやがるな?.....自分の立場が〜、いや分かってないのはもう十分に理解したわ。
「もちろんはなからそちらさんを疑ったわけじゃあない、だって現れたのはそちらさん方とは似ても似つかない異形だったんでね。しかしだよ、しばらく様子見を続けていたらだよ?な・ん・と!私たち反乱軍のみしか襲っていないことがわかったのだ、それも存在すら国の魔族の誰にも認知されていないときた。それで国ぐるみで何かがあると判断したわけだ」
「では、あの暴動は抗議のためだったと」
長かったヴィクターの説明がようやく終わった、いや長かった。
.....っていうか、それだけしっかり説明ができるなら尚のこと最初の茶番はなんだったんだよ!
「良いね、話が早くて助かる。自分の言葉棚に上げるがね、私のこの性格はどうにもならないのでぇ!はっはっは!」
真面目な話が終わるや否や途端に調子にノリだすヴィクター、この状況で笑うまできたらもはやどっかでネジを2、3本抜いてきたな。
「で、話はわかったがお前の言った言葉が真実かどうかはまだ証明できてないぞ」
あ、ちょっと腹が立って思わず声が出てしまった。
「おぉ、そうだったそうだった。私が今から指定する場所、アジトのことなんだが。そこにこれを持っていけば自ずと分かる」
ヴィクターは儂の方を向き、何かを差し出してきた。
「これは、サングラスか?」
「そう、そして誓おう。何も事情を知らない反乱軍の面々、彼らは絶対にそちらさんを攻撃しない。例えば、それを出して私を殺したと言ったとしても。おっと、くれぐれも無くさないでくれよ?予備はそれしか持っていないのでな」




