五話 四天王召集
「分かった分かった、グランガ。お前はもう良い、次だ」
「あらぁ〜ン!もう、そんな無下に扱わないでぇ〜ン!」
儂が早くグランガとの話を終わらそうとしたらそんなことを言い出した、もうやめてくれ!
「貴様、魔王様が次とおっしゃっているのが聞こえなかったのか?死体風情が魔王様に意見してただで済むと思うなよ、流石にこれ以上は許さんぞ」
そんな時だった、グランガに対して女性のきつい言葉が飛んで来た。儂はその方向に目を向ける。四天王最後の一人で、今の今までずっと跪いて沈黙を貫いていたが口を開いた。
「怖いわぁ〜ン、ベラちゃん。女の子がそんな怖い顔しちゃダぁ〜メン!可愛い顔がダ・イ・ナ・シ、よ?」
そんな怖い声の主に対してグランガは一切悪びれないどころか、挑発とも取れる言葉を返す。
まじかこいつ、ガチトーンの声のやつにそんなことが言えるとは。
「.....そうか、今すぐ墓に戻りたいようだな」
グランガにベラちゃんと呼ばれたそいつは静かに、しかし明らかな殺気を発しながら腰の刀に手を伸ばす。
ベラ・ガルドラド、種族は龍。真っ赤な髪を後ろで括って和国風の鎧に身を包んでいる以外は特に何も着飾ることはしない女の子。いや、女性としておこう。そして腰には立派な刀が両サイドに一本ずつ、合計二本下げられている。しかし、そういったことに疎い儂の目から見ても相当な美人だ。こいつらの中で一番忠誠心が高く、四天王としては十分すぎる人材だ。
「おい、儂の前で争う気か?」
「申し訳ありません、魔王様」
儂の言葉を聞き、武器を収めて再度跪くベラ。
うーん.....忠誠心が強いのは良いことだが、こいつは堅すぎていかん。もっと肩の力を抜けば良いものを。後、争うのは断じてごめん被る。こいつらが争ったら魔王城もただではすむまい。建物の修復なんざ面倒この上ないからな。
「とりあえず答えろ、ここまでの流れで何が聞きたいかはもう分かっているはずだ」
「はっ、まずは提案を飲んだ理由ですが相手は正々堂々と真正面から決闘を申し込んできたため、武人としてそれを受けないわけにはいきませんでした。魔王様からの命は重々承知しておりましたが、決闘を断ることはやはり魔王様の威厳にも関わると判断しました」
ベラは至極真面目に淡々と儂の問いに答える。儂のことを思っているのは分かるが、なら儂の命令に背かんで欲しいものだ。
「そして決闘相手ですが、剣士だったかと」
「ほう、剣士か。で、その剣士は.....ん?」
儂は跪くベラを見下ろしてあることに気づいた。ベラの鎧から赤黒い何かの液体が垂れていることに.....こいつまさか!
「その質問でしたら問題なく、魔王様のお手を煩わせることがないよう、こちらに」
ベラはそう言いながら懐に徐に手を突っ込み何かを取り出す、それは人間の頭だった。
やっぱりか、なんてもんを懐にしまってやがる⁉︎予想通りであってほしくはなかったな。あーあー、目が開いたままじゃないか。
「なるほどな、首を刎ねたか。お前の報告はよく分かった、とりあえずそれはさっさと処分しておくことだな。儂は死体に興味はーーー」
「あらぁ〜ン、駄目よ!ベラちゃん、せっかくの生首がそれじゃ台無しよぉ〜ン!」
儂の言葉の途中で遮るかのようにグランガが割り込んできた。
こいつ、それでなくても状況を悪くした後なのにまだ掻き回す気か⁉︎勘弁してくれ。
「やはり埋め直すべきか、その腐り切った頭を今すぐ落としてやろう」
案の定、ベラは殺気を漂わせる。刀に手を伸ばしてこそないものの目はさっきよりもキツイものとなっており、いつ抜いてもおかしくはない。
「せっかくの生首なんだから顔はやっぱり恐怖に歪んでないとねぇ〜ン。ね、ベラちゃん」
一切怯むことなくベラに近づいていくぞ、こいつ怖いもんなしかよ。これ以上ベラを怒らせるのはやめて欲しいんだがなぁ。
「..........」
うわぁ〜、ベラが刀に手を伸ばし始めたぞ。無言だがものすごく怖い、ここは一つ黙らせるか。
「おい、グランガ。お前への問答は終了した、これ以上口を開くな」
「.....っ!わ、分かりましたわぁン」
儂の言葉に不満そうな表情をしつつも了解してくれたグランガ。
良かった、これでベラも手をもど、し、て.....
「貴様、魔王様のお言葉に何の不満がある。もういい、言って分からぬのならば」
儂がベラに視線を移した時、もう片手に刀を持って今にも襲い掛からんとする姿が目に映る。こいつ、いつの間に刀を抜きやがった⁉︎
「ちょっと待て、ベラはそれ以上動くな!」
「ぐ.....ご、ご命令とあらば」
儂の言葉を聞き、ベラは刀を収める。ち、ちょーっと取り乱してしまった気がするがなんとかなったか。刀を収める前、ベラが歯を食いしばっていたような気がするが.....
いや、気のせいだろ。まさか本気で味方を殺そうするわけがないだろう、こいつらは四天王だぞ?争えばどんなことになるかぐらいは弁えてくれている、はずだ。まぁ、どちらにしろこれ以上こいつらをここに留めておくのはやめておいた方が良いな。
「これ以上つまらん話を続けるようでしたら我輩は戻らせていただく、陛下」
儂が何かを言う前に先にバロガードが口を挟んできた。
言ってくるとは思っていた、なら最後にこれだけは聞いておくとしよう。
「バロガード、お前は本当にアサシンを殺したか?」
「.....さあ?どうでしょうなぁ」
バロガードはニヤッと怪しい笑みを浮かべ、そうとだけ言い、出て行った。
「そうか。じゃあお前ら今回の召集はこれで終わりだ、全員持ち場に戻れ」