三十九話 千歳京の勝利
「でっっっかっ!」
儂は思わずそんな言葉を漏らしてしまった。陰陽師とかいう爺さん、康弘が召喚したガイコツ。そのデカさは鬼を遥かに凌駕していた、この防壁がそもそも高いのにそこから見上げても顎までしか見えない。しかもこれまだ下半身しか出ていない、今ゆっくりと腰が見えてきた。デカさ故に召喚も遅いのだ。
いや、でかいでかい!あの爺さん、主張が薄いくせにとんでもないもん召喚しやがった。.....にしてもまあ、迫力はすごいがスッカスカだな。骨だからまあ、でもなんの骨だ?出てくる時に見えた頭蓋は人間っぽかったが。こんなでかい人間は流石におらんだろうし。後、ドクロの前についてるガシャ?てのはなんだ。
「おぉ、魔王殿!あれはなんだ、スケルトンか?ははは、迫力だけは一丁前だが細すぎて話にならんな!」
なんか儂の隣で楽しそうに笑う巌忽、もう楽しそうで何よりだ。
「はぁ.....いや、あれは悪魔の類だろう。スケルトンはそもそも魔族や人間が死んだ時に稀になるものだからな。そもそも存在しない生物の骨にはならない」
まだまだ楽観的な巌忽に呆れつつ、儂は答える。スケルトンだけでなく、ゾンビやゴーストといった奴らは皆元々生きていた何かである。
で、ここからだ。ああいう召喚で呼び出すタイプで出てくるのは悪魔か精霊系統、怪異とかいうのはよく分からんが精霊には見えないから悪魔だろう。だがおかしいな、名前もそうだがこんなデカブツいたら流石に儂が知らんなんてことはないはず。今度バロガードにでも聞いてみるか?いや、あいつは信用できんな。
「にしてもどうするか、一番簡単なのは召喚者を殺してしまうことだが流石に逃げて.....ん?」
そんなことを呟きながら顔を落とし康弘を探していた時、あるものが目に入る。それはうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かない康弘の姿。しかもそれだけではなかった、同じく召喚を行っていた陰陽師の奴らも同じ状態だった。
は?気を失ってる.....とか考えるのは幼稚か。あんなもんを召喚した後ってことを考えるなら命を落としたってのが自然.....てことはあいつら自分の命を代償にしたのか⁉︎いや、んな馬鹿な!命を代償にする悪魔召喚なんざ聞いたことないぞ。
「そもそも悪魔召喚は召喚されてから契約が結ばれるはず、召喚自体に命を代償に取るってことはつまりその時点で召喚者の望みを叶えるという絶対的な責が課せられる。どれだけ実力に自信がある悪魔でも、んな馬鹿なことはしないぞ!」
「魔王殿、何を一人で喋っておるのだ?よく分からんが今から面白いことが起きそうだぞ」
あまりに困惑しすぎて途中から声を出して呟いてしまうというめちゃくちゃ恥ずかしいことをしてしまっていた儂に巌忽がそう言い、指を指して促してきた。
その先にはーーー
「良いじゃん良いじゃん!まだまだやり足りなかったところよ、デカくてちょうど誰かさんのせいで溜まった怒りも発散できそー!」
なんかこっちに走ってくるやつの姿があった、蹴鬼だ。子供の如く目をキラキラさせながらものすごい勢いでこっちに突っ込んでくる。
「その支えてるぶっといの蹴り甲斐ありそうね、ヤーーー!!」
さほどと経たずガシャドクロの元へと辿り着き、背骨に思い切り蹴りを入れる。ピシッという音が聞こえると共にその巨大な体?が儂と巌忽がいる方向に倒れてきた。
げ、こっちに倒れてきた。おいおい、ちょっとは後先考えろよ!やっぱ鬼はこうなのか、全く.....ん?
「蹴鬼よ、やはりいささか精神が幼い。そちらに倒せば我らの国が危ない、遺憾ではあるが子供の醜態を修正するのも大人の務めよ」
倒れ始めた瞬間、儂の目の前を飛んでいく斧の刃部分。今度は斧鬼であった、それは顎を弾いて倒れる方向を前から後ろへと変える。
「ほう、御二人は拙者に止めを譲ってくれるのか。これは、遠慮は無作法というもの」
その倒れる先、頭蓋が落ちるちょうどの地点に立つ斬鬼の姿。静かに呟いたのち、地を蹴り飛び上がる。おそらく狙いは首、間合いに入るまで刀を構え待つ。そして来るその瞬間に一気に引き抜き、一閃。
「これが俗に言う『いいとこ取り』というものか、なかなかに気持ちがよい」
斬鬼の着地とほぼ同時、斬られ離れた頭蓋とその下の骨が地面に落ちる。その間、わずか三分にも満たない決着だった。
はっや⁉︎いや、なんかもう呆気ないの一言だな!あんなに仰々しい登場したんだからもうちょっと持つかと思ったが.....ん?
「なんだ、倒れた骨が振動し始めた?」
なんか嫌な予感がする展開、まだ終わりでないのは容易に予想がつく、ついてしまう。その予想の通り、だんだんと離れたはずの骨がくっついていく。
なるほどな、あの人間が命をかけるだけの実力はあったということか。どれだけ再生できるのかは分からんが、これは長引きそうだ。
「お、面白い、面白いぞ魔王殿!やはり吾も出るか!」
なんか隣でアホなことを言い出す巌忽。だが、
「その必要はない、もう終わる」
はやる巌忽を止め、前を見る。そこには紫色の泡に包まれていくガシャドクロの姿、そうあの時の魔法だ。
「やっと戦争が終わりそうなんだ、これ以上長引かせるわけにはいかない。敗北したのなら大人しく帰れ」
それが無様ならば尚更だ、デカさ故か動きは鈍く簡単に包むことができた。泡は弾け、そこにはガシャドクロの姿は綺麗さっぱり消えていた。




