三十七話 援軍参戦
「鬼の援軍が来たぞ、終わりだ!逃げーーーがはっ⁉︎」
「弱者のくせに声だけは一人前だね、全く耳に響くからやめてほしいよね」
今戦意を消失した武士を容赦なく蹴り飛ばしたのは、真紅の着物に身を包んだ美しく長い脚の女の鬼。長い茶髪、おでこの左側に生えた細く長い角。蹴りで戦うゆえか、裾の丈がかなり短い。ショートどころの話じゃない、大人びた顔をしていながら言動も格好もかなりはしたない。
なんかカタカタ聞こえると思ったが、木の板を履いとるな。確か下駄とか言うんだったか、歩きづらそうだがよくあれだけ動けるもんだ。
「いくらでもかかってきな、どこに手を出したのかたっぷりと教えてあげる」
鬼の上位種特有の機動力を兼ね備えたその肉体、それをこれでもかと有効活用した戦闘体系。その蹴りを受けた人間はその時点で意識どころか命を持っていかれる、ついでとばかりに周りを大きく巻き込んで飛んでいく。宙に舞うその身体からは心臓の鼓動はとうに失われている、むしろ生きていたら人間かを疑う。
「蹴鬼を見ておるのか?」
儂が戦場の奥の方に意識を向けていたその時、背後から不意に話しかけられる。しかもなんか聞き覚えが.....
「あ、あの鬼はそんな名前なのか.....って、巌忽⁉︎」
一瞬、普通に答えた儂だったがすぐに気づいて振り返る。そこにはなぜか元気な様子の、腕の繋がった笑顔の巌忽の姿があった。大剣は流石に握ってはいない。
驚いた、鬼の生命力の高さは知っていたがこんなに早く戻ってくるとは。こんなデカブツの足音が聞こえなかったって、やっぱり補聴魔法の対象の声が聞こえやすくなる代わりに近くの音が全く聞こえなくなるのは少しリスクがあるか。っていうか、今のはわざとだろ!
「何をそんなに驚くことがある?吾にとってあんなのは重症でもなんでもない、柳縁のおかげも少しはあるがな。柳縁は.....逝ったか」
驚いた儂の姿が面白いのか最初の方はふざけた様子だった巌忽だが、柳縁の名が出てきた途端に表情が曇る、静かに防壁の下へと目を向けたのちに哀愁混じりに呟いた。
まぁ、流石に思うところがあるか。巌忽があんなだったところをみると、ろくに怒られたこともなかったんだろう。巌忽にとって柳縁は唯一かどうかは分からんが、数少ない自分を叱ってくれた相手。戦場に飛び出すことなく、儂のところまできたということは少しは柳縁の言葉から考えた結果だろう。もっと早くに言っとくべきだったとは思うがそれは置いといてだ、惜しい奴を失ったのかもしれん。
「おい、浸るのはいいが戦争は終わってないぞ?」
「言われずとも分かっておる、八鬼衆がきたからには.....お、次のやつが来たぞ。あいつは斧鬼だな」
儂の言葉に答えつつ、戦場に目を向けた巌忽。次に発せられたのはおそらく八鬼衆の話、どうやら二人目が到着したらしい。
言いたいことは多々あるが、これが終わった後で時間は十分ある。ここは飲み込んで話を合わせるとしよう、どれどれ?
「蹴鬼、相変わらずの足捌きよ。いつ見ても見事なもの、流石!しかしはしたなし、もう少しばかり優雅にできぬものか」
そこには巌忽と同程度のデカさ、の割に落ち着いた雰囲気の男。白を基調とした軍服のような服に身を包み、手には手袋と肌の露出は皆無に等しい。頭に被っている帽子からは布を垂らしており、顔以外はほぼ見えない。図体の割にきちっとした印象を受ける、そしてその手に握られているのはその図体にちょうど良いバカデカさの両刃の斧。ちなみに角は二本帽子を貫いている。
いや、でかいな!巌忽と同じくらいか?にしてもゴツいな、あの服の下から相当な筋肉が浮き出とる。
「うるさいよ、いちいちウチのやり方に口出ししないでくれる?」
「言って聞かぬのも相変わらずよ、美しき肢体を手に入れながらこれ如何に」
鬼同士の会話、正直どうでも良いちゃどうでもいい。しかし話を聞いていたら何やら二人の雰囲気がおかしな方向に向いてきた。
ん?なんかあの二人の様子がおかしいぞ、大丈夫なのか?
「やだやだ、そうやって自分の理想を押し付けて。鬱陶しいんだよ、ね!楽しいの、それ?」
「.....そうか、そう聞こえたか。鬼といえど年相応の所作や態度を心掛けるべきという意味合いであったが、やはり精神が体に追いついておらぬのだ。であれば!その精神の年相応の対応、それすなわち折檻!」
二人の言い合いの後、初めに蹴鬼の方が斧鬼に対して人間を蹴り飛ばした。斧鬼はそれをまったく意に介さずその身で受けた後、静かに淡々とした口調で喋ったかと思うと次の瞬間、手に持った斧を大きく右から左へ振り抜く。流石に距離的に厳しいかと思われたが、なんと棒の部分と刃の部分が外れて飛んでいく。二つはワイヤーのようなもので繋がっており、まるで鞭のような軌道を辿る。
あれじゃあ、長さ的に届かんように見えるが.....ん?外れ、は⁉︎
「そう簡単に思い通りになると思わないでよ、鬼のくせに頭が硬すぎてやんなる」
周りを大きく巻き込んでの大ぶりの斧、蹴鬼はいとも簡単に足で止めた。だが、当然そのぶつかり合いで衝撃が発生。これまでの比にならないほどの数の人間が塵の如く宙を舞う。




