三十六話 結界の崩壊
空に亀裂が入ったのを皮切りにそこを起点としてボロボロと崩れていく、その先に現れたのは全く変わらない空模様。
「あー、言ってた結界ってのはあれか」
結界の存在、一応会議では聞いていた。敵の軍が張った閉じ込めるためのものらしい、これで内から外だけでなく外から内にもあらゆるものを通さない。
空と瓜二つ、ていうか雲とかもしっかり流れてなかったか?
「随分凝ってるな、しかも結界を閉じ込めるものとして使うってのもなかなか面白い考え方だ」
元々結界はバリアみたいなもの、つまりは身を守るためのものだ。どう間違っても閉じ込めるためのものじゃない。
だってそうだろ?敵を閉じ込めたとしてどうやって倒すって話だ、たとえ自分諸共閉じ込めたとして魔法使いが近距離でどうやって戦うんだ?だからこそ守るもの、しかしこんな使い方があった。
「いや、こういう意外な発見というのは人間ならではって感じだな。あの忍者もそうだったが、斜め上の発想は見ていて楽しいな。にしてもあんなに広範囲結界を張れるってのは、まぁ十中八九複数だろうが一体どんな奴が」
そもそも一人で張れる結界の大きさには限界がある、一つの国を大きく囲うとなるとそれなりの人数が必要なはずだ。
それに儂らが特に障害なく到着できたところを見るに、多分結界にはなんらかの条件を設定してるみたいだな。鬼と近くの国の種族ってところか、外に出てる鬼がゼロってことはあるまい。巌忽は異例だったが絶対に気づいたやつは援軍に来るはずだ、それがないのが良い証拠だ。うーむ、見渡した感じそんな連中は見当たらんが.....ん?
「藤光殿、我々の結界が破られました。外より援軍が流れ込んでくるのも時間の問題かと」
なんか藤光の元に一人の男が現れたのが見える、その服装は他の武士たちとは明らかに違う。黒の着物に薄灰色の袴、筒状の帽子を被った爺さん。長く白い髭を蓄えており、この軽装も相まって心許なさを感じる。
なんだあいつは、なんというかあんまり特徴がないな。ただの爺さん?いや、勇者に話しかけてるしそれはないか。一様格好も他と違うし、にしても髭以外がパッとせんな。
「ああ、見えている。しかし某は指揮官にあらず、どんな状況だからと言ってやることは一つ」
「かしこまった、であれば不肖この私愛玖部康弘そして我が『陰陽師』部隊、これより前線にて藤光殿の援護に回らせていただく」
何やら二人の間で話が進んでいる、そして康弘とか名乗った爺さんの言葉の終わりと共に同じような衣装を纏った集団が突如どこからともなく現れた。
うわぁ、ゾロゾロと.....しかもあの爺さんとほぼ同じ格好してやがる。違いは一様あるみたいだが灰色と白でちょっと違う程度だぞ、わっかりにく!それにしても陰陽師か、聞いたことがあるようなないような。結界を張ってたのがこいつらなのか?
「.....ん?ちょっと待て、相手には援軍が現れたな。で、こっちは?」
ふと儂は改めてこちら側の戦力を確認する、上にいるジェリエ、下にいるのは.....
「メルルナだけかっ⁉︎これはまずいぞ、勇者パーティがあれだけかどうかはまだ分からん。儂も出るか、待っていろメルルナ、すぐにーーー!」
「いえ、その必要はないかと」
メルルナ一人なことに気づいた儂は即座に戦場に参戦しようと意気込んだその時だった、ある人物が制止してきた。
「.....ルイナ、どういう意味だ?」
「先ほど結界が壊されたのはご存知ですよね、そして壊れたということはおそらくすぐに彼らが到着するでしょう」
儂の問いにルイナは淡々とした冷静な態度で答える。
.....あー八鬼衆か、確か会議で結界の破壊に手間取ってるらしいこと言ってたな。それにちょうどこの時、三分の二くらいの戦力が出払っていたらしい、ちょうどそこを狙われたんだろう。
「.....お?噂をすればってやつか」
「では私はメルルナお嬢様に下がるよう伝えて参ります」
ルイナと話していた時だった、遠くが何やら騒がしくなってきた。ルイナはそれを確認するや否や、壁から飛び降りていった。
どうやら本当に儂の出番はないらしいな、まあメルルナが退くなら儂も戦いに出る理由はなくなる。
「さて、じゃあ儂はあのうるさくなってきた方でも見てみるとするか。八鬼衆は前々から知ってはいたが、一人一人の詳細はあんまりだからな」
メルルナの方にはルイナが行ったため、暇になった儂はとりあえず騒がしくなってきた方に目を向ける。もちろん補聴魔法も使って。
「ぐあっ⁉︎」
「くそ、もう現れやがった!」
相手の武士たちの絶叫が聞こえる。それと同時に、
「ヤーーー!弱すぎ弱すぎ、こんな奴らに苦戦してんの?」
なんか武士を次から次に蹴り倒す女の姿が見えてきた。




