三十五話 剣士対決の結末
「ぬぅ、はぁはぁ.....この程度で。拙者も歳には敵わぬか、思うように動かなくなっていく体が口惜しい」
あれからしばらくの斬り合い、先に息を切らしたのは柳縁だった。
最近の方に比べて速度も精度も落ちてきたか、鬼が剣術と笑っていたがもう馬鹿にできんくらいにはしっかりしてたな。それにしてもあの勇者おかしいな、なんで柳縁の刀はスパッといかんのだ?巌忽の腕はスッと斬ったのに、おかしな話だ。儂は武器に関して詳しくはないが、巌忽の腕よりは柔らかいと思うがな。
「鬼の剣士、某とこれだけ長くやり合って一度も入らなかったのは貴様が初めてだ。強い力もそうだが、そこに確かな技術がある。敵ながらあっぱれと言わせてもらう」
「戯言を、勇者などに褒められる謂れはない。拙者は殿の脅威をただ斬るのみ、たとえそれが己が身を滅ぼす結果を招こうとも本望!」
柳縁は息も絶え絶え、顔は汗がとめどなく流れている。それに対して藤光の方はというと、未だ平然で眉ひとつまで何も変わった様子はない。
聞いてるうちじゃあ、息も一定。爺さんとはいえ鬼相手に体力勝負で優位を取ってる、これは夢か?これが本当なら何百年に一度現れるかどうかの化け物みたいな勇者だぞ、かなり危険だな。
「そうか、だがしかしそろそろ限界ではないか?貴様は確かに強い、よって勇者である身としては斬らねばならない。全く、もったいない話だ」
藤光はほぼ満身創痍手前の柳縁に対し、寂しげな表情を浮かべる。斬りたいのか斬りたくないのか藤光の考えはよく分からない、育ってきた環境もあるのだろうが。
「心配はご無用、その首をとるのは拙者だ。先の話はあくまで最終手段にて、たとえどのような状況であれ拙者は勝ちを疑うことはない」
「時間の問題とはいえ、まだまだ続けられそうだ。某の刀を受けられるのは貴様だけ、せいぜい踏ん張ることだ」
何度も何度も刀を振るい、何度も何度も鍔迫り合いが起きる。しかしその数に対してどちらも決定打どころか、傷一つつけられる様子もない。
.....こいつら、やり合いながらよくそんなに喋れるな。相手が格下ならそりゃあ、余裕な時に喋ったり出来るだろうが。二人の実力はほぼ互角、んなもん儂なら焦りとか不安で口を動かす暇なんざ無いと思うがなぁ。ま、そんな状況にはあまりなったことがないから実際のところは定かじゃあないんだが。
「はぁっ!まだ止められるか.....ぬぅっ⁉︎肩が外れたか」
刀を振り、藤光に防がれてしまったところで柳縁は苦い表情になる。だが、刀は緩めない。しかし、
「ーーーっ!隙だな」
「.....っ⁉︎そうはさせぬぞ!」
そこには少しばかりの隙ができてしまっていた、藤光はそれを見逃さなかった。それを見計らって近づき間合いに捉え、刀が振られた。その矛先は一寸の狂いなく首を狙っていた、しかしすぐに気づいた柳縁は即座に体を逸らして避け.....ることは一様できた。
「.....ぐっ!おのれ、まさか攻撃を許すとは」
「間に合ってしまったか、まぁ良い。完全に回避されたわけではない、首の代わりというにはいささか軽いが」
首への攻撃は回避できた、しかし刀自体を避け斬ることまではできなかった。次の瞬間、藤光曰く首の代わりが地面に落ちた。それは腕であった、それも肩から落とされてしまった。
あー、まぁ流石にか。あれだけやり合って両方無傷だったんだから、いざどちらかの攻撃が入ったらそりゃあ重いダメージになるわ。
「さて、一様聞いておこう。負けを認めこのまま首を斬られるか?もしそうであるなら某が痛みなく逝かせてやろう、某は人間故に貴様の痛みがどれほどのものなのか察することは難しいが痛くないことはあるまい」
「ぐっ.....ふぅ。先ほどの拙者の言葉、聞いておらんかったのか?せいぜい肩が落ちた程度、拙者は敗北すらまだしてはいない。すなわちこれは、認める認めない以前の話!」
肩からはとめどなく血が吹き出す、しかし当の柳縁は少し顔を歪める程度でもう片方の腕で今も刀を離さない。意気込みながら刀を構え、藤光に向かって突っ込んでいく。
「貴様と某は腕二本で互角以下、かたや片方の腕が落ちてしまった。しからば、もう終わりだ」
自分に向かってくる柳縁を前に藤光はあろうことか瞳を閉じ、静かに刀を構える。そして、
「技術はもはや不要!首を落とされるのが時間の問題となりし老兵なれば、せめて共に連れて行こう!」
「いや、そうはいかぬよ」
柳縁は最後の足掻きとばかりに刀に全ての力を込めて刀を振るう、しかし藤光は至って冷静な太刀筋で柳縁のその身に一太刀浴びせて即座に背後へと移動する。すると次の瞬間、柳縁が振った刀から巌忽の力任せな大ぶりと同じように広範囲を抉る斬撃が発生した。
「殿、申し訳ありませぬ。先に逝く無礼をお許しください.....」
「鬼の剣士、見事であった」
しばらく経って柳縁がふとそんなことを呟いたかと思うと力無くその場に倒れた、首ではなく胴が斬られていた。
うわぁ、すごいもん見たな。剣術対剣術はそうは見れないぞ、いやぁ楽しかった。とはいえ、柳縁が破れたか。あれじゃあもう無理だろう、あいつとはほとんど面識がないが思うところはあるもんだな。
「.....ん、なんだ?」
儂はそこでふと空を見上げる、空からパリンと何かが割れる音がしたからだ。見上げた瞬間、亀裂の入った空が目に飛び込んできた。
ーーーは?




