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三十三話 巌忽vs勇者

「な、何が起きた⁉︎」


 儂は今目にした光景が信じられず、ただただそんな言葉が口から漏れでた。


 .....いや、実際には見えていたから何が起きたかはわかる。巌忽が大剣を振り切るより早く奴が下から刀を巌忽の左腕に入れた、それから滑らかに上に振り抜いた。バカ言え、どんな筋力してやがる!巌忽の腕はそこらの木なんざ比べものにならんくらいの太さをしてるはず、それをまるで紙でも斬るみたいに。


「ぬぅ.....ぐおぉぉぉっ!」


 切り口からは大量の血が吹き出し、巌忽は顔を苦痛に歪めてうめき声を上げている。鬼でも流石にこれは効いたらしい。


 巌忽のあんな顔は初めて見たな、あの様子じゃこの戦いで命を落としそうだな。まぁ、それも良いだろう。慢心は死に直結する、たとえ鬼の王だろうが例外しゃあない。自業自得だし助ける義理はない、巌忽の死は後の鬼の良い教訓になってくれるだろう。


「貴様の負けを認めるか?某は鬼ではない、潔く認めれば苦しまず逝かせてやろう」


 苦しむ巌忽を前に余裕の態度で静かに語りかける藤光。


 それにしてもあの勇者何者だ?あの太刀筋、技術だけじゃなく素のパワーがなくては到底できはしない。それもとんでもなく異常な力がなくては、儂でもあれはかなり難しい。あれだけの異常な強さ、儂の耳に届いていてもおかしくない筈だが。


「.....ぬ、は、ははは、認める?吾が敗北を?阿保を抜かすなよ、小娘!」


「.....はぁ、そうくるか」


 巌忽は何をとち狂ったか突然笑い出し、藤光に大剣を振るう。しかし藤光は驚く様子もなく易々とこれを回避、さらにため息までついて見せた。


 今の瞬間、もう一度同じように刀を振えば奴が勝っていた。だがそれをしなかったな、ハンデのつもりか?


「懲りぬ奴よ、力の差がまだ理解できなぬか?某にはもう、貴様への興味が無くなった。死にたくなくば、次の攻撃には気をつけよ。次はない、隙が見えらば首を落とす」


 藤光は懲りない様子の巌忽に警告をする、もはや勝ち目は無しか。


「お前こそ、受けないんだな?甘いな、吾の本気はまだまだよ。腕が落ちた?鬼にとってそれは焦るようなことでもない、吾の恐ろしさをその身に刻み込んでくれるわ!」


 巌忽は何故かまだ余裕たっぷりに笑っている、ここから一体どうするというのか?


 確かに鬼は腕を落とされたくらいじゃ動じないほど頑丈だが、流石にここからの逆転なんざ見えーーー


「ーーーなっ⁉︎」


 突如巌忽は藤光の前で大剣を横に振るう、もちろん藤光はそれを避けたわけだが問題はその後。大剣自体は避けれてもそれによって発生した衝撃は凄まじく、あたり一体全てを飲み込んで吹き飛ばす。


 あの巨大から繰り出される早すぎる大ぶり、それから力をさらに強めて無理矢理速度を上げて必ず当たる広範囲の衝撃を作りだしたか。うん、めっちゃバカみたいな作戦に出たな。


「ぐっ.....うぅ!」


 あまりにも無茶苦茶な作戦、それが案外藤光には効いたらしい。顔を歪めて膝をつく。


 いや、待て。巌忽の前に扇状に抉れた跡が分かりやすくくっきり残っとる、あの衝撃でなんで生きてんだ?まぁ、魔法もあるから一概に肉体で耐えたとは限らんが魔法でなんとかしたとしても精度は相当だ。


「あの一発で決まったと思ったが、お前はやはりただ人間じゃないな?」


 流石の巌忽も異常さに驚き、問いかける。


「某は人間だ、とは思っているがな。化け物に面と向かって言われると少々自信をなくす。だがそれは某にとってとるにたらない謎、知らなければ某は人間のままであるのだ」


「あ〜やめろやめろ、吾の前で難しい言葉を並べるな」


 長々喋り出した藤光を巌忽は面倒くさそうにあしらう。ちなみに藤光の顔は巌忽の問いを聞いて表情が戻った、それからは一切曇らなくなった。その切り替えはあまりにも異質、あの表情が演技かと思ってしまうほど。


「よって、某が今考えるべきは貴様を早急に斬ってしまうこと。であれば問題は解決した、問答のうちに回答は出た」


 藤光は巌忽の言葉はそっちのけで一方的な解説じみたことを喋り切り、いつのまにか結論を導き出していた。


 .....全く気味が悪い女だな、やっぱり勇者には見えん。肝が据わっているとはまた別な感じがするが、一番近い言葉はやはりこれな気がする。


「ほう?吾を斬るか、剣を振れば近づけんお前が?」


「簡単な話だ、貴様の反応を超えてしまえばーーー」


 巌忽が嘲笑ったその瞬間だった、藤光の姿が一瞬で巌忽の目の前に移動。刀はもう振られる直前、それに対して巌忽は余裕の態度で大ぶりの構えをしていたため間に合うはずがない。しかし、


「.....貴様、何者だ?」


 その刀は突如飛び出してきた何者かに止められた。


「これでもこの国の長なのです、この方の首は取らせはせぬぞ」

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