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三十二話 天月都の勇者

「と、とりあえずは全員無事か」


 甲斐樹郎とかいう人間が飛んでいってから儂はメルルナたちに近づき、そう話しかける。


 あの人間が防壁を走って登って、今度はメルルナがジャンプで超えて。目の前で思考が止まるようなわけ分からん展開を二回、しかも連続でされたせいで色々反応が遅れてしまった。儂としたことがメルルナが強かったからどうにかなったものの.....


「えぇ、心配は無用よ〜」


 儂の言葉にいつものフワッとした調子で答えるメルルナ、特に問題はなさそうだ。


 う〜ん.....無事なのは嬉しいことだが、勇者パーティの一人を倒してそれだけの余裕か。魔王としては後々が楽しみだが、父親としては少し恐ろしい。


「..........」


 そして忘れてはいけない、もう一人。ジェリエは相変わらずの鋭い眼光で儂を睨みつけてくる、加えてだんまりなのがさらに怖い。


 勘弁してくれ、今回は儂に非があるのは理解してるが.....やっぱり無理!本当に何も言わずに無言で圧を掛けてくるのはやめてくれ、きつい!


「ふふ、お父様、ジェリエのことよろしくね〜」


「ああ、.....って、はっ⁉︎」


 ジェリエの様子に苦い顔をする儂にメルルナは微笑んだかと思ったら突然その場で後ろ向きにジャンプ、そしてそのまま下へと消えた。しばらく後、衝突音が聞こえ、下を覗くと元気に敵に向かっていくメルルナが。


 待て待て、何の説明もなくいきなり飛び降りるな。ま〜た変な声が出た、大丈夫なのは分かってるし防壁を越えるほどの脚力を見せられたから疑問にも浮かばんかっただろう。だが!だからと言って突然は駄目だろ、突然は!怖いだろ、流石に。


「ジェリエをよろしくって言われてもな〜」


 儂は半分諦め気味に呟き、ジェリエの方に恐る恐る顔を向ける。


「助けにこようとしたことには感謝してやる、でも俺に父さんの助けはいらねぇ。また離れるから着いてくんなよ、分かったなぁ!」


 ジェリエは案の定というかなんというか、やはり儂を拒絶した。しかもしっかり宣言し、その通りに儂から離れていく。


 そ、そんなに拒絶せんでも.....今更ではあってもあのジェリエの拒絶はくるものがある。あー、いかんいかん!とりあえず別のことでも考えて気を紛らせねば。


「そういえば今回の勇者はパーティがバラバラだな、あの忍者も赤鎧の武者も全て別行動。今は戦争中だからああなのか?まぁ、良いか。.....ん?」


 なんとか心の痛みをかき消そうと色々頭の中で考えていると、突然一つ頭に浮かんだ。しかし、その後すぐに目にある光景が映った。


 あれは巌忽と勇者か、なんか見合ってるな。ちょっと聴いてみるか。


「ほう、次に吾の相手をしてくれるのはお前か?あの道化よりは楽しみたいものだな」


「貴様、この戦場(いくさば)で好き勝手に暴れているようであるな。(それがし)は立場上は勇者ゆえに貴様の屠った隊絶の仇討ちくらいはせんと面目が潰れてしまうわけだ、覚悟してもらう」


 先に何か話していたのかは分からないが多分途中からの会話を聞き取る。その際、その二人の様子も見るわけだが何倍も大きい鬼を前に防御面が頼りなさそうな布の着物を纏った女性が刀一本で対峙している。忍者の時よりはマシとはいえ、十分珍妙な光景だ。


 控えめに言ってもあの勇者が勝てる未来が見えんな、側から見たら無謀そのもの。本の中でもこんな展開は無いんじゃないか?儂はあまり物語は読んでこなかったから自信はないが、儂だったらそんな本は多分読まんだろうな。生身の人間一人が鬼と戦って勝てるわけがない。


「ははは、生きがいいな。その目、なかなかに楽しめそうだ。だが吾に挑むなら名乗っておいたほうが良いぞ、お前ら人間は華のある死が好きなのだろう?」


「華に興味はないが名乗りは上げておくべきか、某の名は天城藤光(あまぎふじみつ)。数分間、すぐに忘れることになるだろうが」


 勇者はそう名乗り、刀を構える。なんとも女性らしからぬ喋り方、淡々としていて気味が悪い。あっちの国ではそんな口調もあるのだろうが、こっちからしたら違和感しかない。


 今、普通に会話の一部みたいな感じで数分で決着がつくみたいなこと言わなかったか?


「そうか、お前の言う通り忘れていそうだな。数分後には!」


 巌忽は藤光の言葉に応えつつ、途中で突然大剣を振るう。勢い任せな大ぶり、一見回避など簡単そうだが速度が尋常じゃない。避けようと身をよじろうとした瞬間には体が真っ二つになっていることだろう。


「.....他の鬼よりも力が強い程度か、であればそれは某には当たらぬよ」


 藤光は静かに呟き、驚くほど滑らかな動きでスルッと避ける。そして、


「.....ぬっ⁉︎」


 巌忽が大剣を振り抜いたと同時、持っている方とは逆の方の腕が地面に落ちた。

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