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二十八話 押し返しの始まり

 がたいのでかすぎる鬼、巌忽の前に大量の同じ人物たち。相手の宣言の後、巌忽しばらく沈黙を続けている。


 忍者と鬼の対決、世の中広しと言えどこんな珍妙な対峙は他じゃ起こり得ないだろう。まあ、見たいかと言われたらそうでもないが。


「.......ふふ、ふははははっ!何だ、手品か?見せ物としては面白いが、殺し合いでは楽しめん!」


 巌忽は突然笑い出したかと思うと、そんなことを言いながら大剣を横向きに大きく振るう。目の前の分身、その全てに向けて。


「「何っ⁉︎拙者としたことが!」」


 隊絶と名乗った忍者は巌忽の予想外の行動に驚き、そんな声を上げる。分身しても元は同じ、こういった時はタイミング何一致するらしく全ての声が重なった。そしてその次の瞬間には隊絶の上半身と下半身が離れた、一人残らず全て。その直後に剣の風圧を受けて砂が舞う。


 あーあ、まぁ鬼に搦手で挑んだらそりゃあそうなるだろうな。鬼の特性は魔族の中でも常軌を逸した怪力、ただの馬鹿力と言ってしまえばそれまででただそれだけ。だがーーーん?


「呆気ない、やってしまえばこんなものであったか。これでは吾の渇望は癒えぬ、このような道化ではな!」


 巌忽は目の前の惨状を見ながら物足りなさに対する怒りの言葉を叫ぶ。だが、儂は気付いていた。巌忽の背後に忍び寄る影に。


「道化、とは聞き捨てならぬな。変わり身の術、上手く騙されてくれたな。終わりだ、鬼よ」


 なんと、隊絶が生きていた。先ほどは間違いなく真っ二つだったはず、そう思って見てみれば砂埃が晴れたそこには真っ二つになった丸太が転がっていた。隊絶はそう言うや否や巌忽の首目掛けて刀を振る。だが、


「.....甘い!」


「.....っ⁉︎な、に.....」


 隊絶の刀が届くより早く、巌忽の大剣が隊絶の首を切断した。隊絶はそんな声を出した後、頭が落ち身体は力無く倒れた。


「吾の後ろに回ったならば喋るべきではなかったな。.....今度は本体か、やはり呆気ない、やはり道化よな」


 巌忽はしばし倒れた隊絶を観察、完全に動かないところを見てつまらなそうにそう呟いた。


 鬼の力は馬鹿にはできん。能無しの怪力バカではない考える必要がないほど肉体が発達している、こっちの方が合ってるな。振り下ろされた刃も通らなければ避ける必要はない、どんな策略も正面突破で崩せてしまえば突破法を見出すため思案を巡らせる必要はない。単純、しかしそれゆえに強力。というのは、このことを言うんだろうな。


「ぐぁぁぁっ!」


「な、なんだあの女?鬼か?」


「いや、角がない。あれは別の魔族だ!」


 そこでおそらく敵軍の武士と思われる絶叫と騒がしい声が聞こえてきた。


「ん、女?まさか!」


 儂は武士たちの言葉を聞き、あることを察する。


 やっぱりメルルナか、巌忽を見ていたせいで完全に忘れていた。なんで気付けなかった!あんなゴツい爺さんより我が娘だ、次からは気をつけんとな。


「さぁ〜、どうしますか?ここから先へ進みたいのであればわたくしがお相手いたしますよ〜」


 メルルナはそう言いながら両手のハンマーを振り、周りの武士を蹴散らしている。


「ぐっ.....あの怪力で本当に鬼じゃないのか?」


「鬼意外にこれだけ力が強い種族がいるなんて、俺は信じたくない」


 メルルナと対峙した武士たちが口々にそんなことを言っている。と、


「っ!.....え?」


「な、何だ?なにが起きた、倒れたぞ!」


 何やらまた別の場所から混乱の声が聞こえてきた。そっちに目を移してみる。


「おい、大丈夫か!何をされーーーっ⁉︎」


 倒れた武士に駆け寄った男が言葉の途中で突然倒れた、儂には見えたあの武士が倒れる直前に切り傷のようなものが出来たことを。剣か何か鋭利な刃でつけられた傷なのは分かった、だがそれをやった奴が見当たらない。いや違う、最初から見ていたのだから武士の近くで刀を振った奴がそもそもいない。


 案外目を凝らせば見えるもんだ、こっちの勢力が壁際まで押されているから近いだけかもしれんが今はちょうど良い。


「さてと、やっと動いたか。前線で戦う姉に触発されたか、ジェリエ?」


 儂はそう呟きながらジェリエの方に視線を向ける、ジェリエは黙って戦場を見下ろしている。


 儂はすぐに気付いたぞ、あれは間違いない。


「でも、その瞬間を見れてないな。しっかり見ておかんと儂もジェリエの能力はいまいち理解が追いついとらんからな」


 儂は再度そんなことを呟いて斬られた武士の方に視線を戻す、今度はジェリエにも意識を置きつつ。


「斬られてる、駄目だもう事切れてる」


「嘘つけ、俺は見てたが誰もこいつに近付いてないぞ。それに当然だが魔法も見えなかった」


「ま、まさか完全に姿を消せる奴が敵にいるってのか?」


 声をまた拾って見たらなんか面白いことになっていた、透明魔族が軍に紛れ込んで暴れてるみたいな話になっている。

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