二十七話 鬼の国防衛戦
「いやぁ、高いな。遠くまで良く見える」
千歳城からしばらく、儂は今防壁の上に立っている。その高さは鬼たちを基準に作られているためこっちからしたら過剰、もはや人間が拳くらいの大きさに見える。
登る前から大体予想は出来てだが、これじゃあ一人一人の動きまでは見えんな。出来るのはせいぜい相手軍全体の動きを把握するくらい。だが、儂はそんなことはどうでも良い。
「これでは娘の姿が見えんじゃないか!」
儂は壁の上で叫ぶ。
メルルナが下で戦争の前線に立つ、その姿が確認できんのは非常に困る。会議の時、出たいと言った時はまぁ大丈夫だろうと許可したが.....するんじゃあなかった。これは聞いてないぞ!
「はぁ、まぁそこはまだ良いか。それよりも」
儂はそこまで呟いたところでふと左を見る、その視線の先かなり遠くにフリルやらやたら豪華に飾られたドレスが見える。ジェリエだ、白薔薇の剣を抜いていた。
まさかジェリエもやりたいなんて言い出すとは思わなかったな、ほんと驚いた。メルルナのためらしい、これが姉妹愛というやつか。まぁ、ミロは一様もしかしたらと思って聞いてみたが当たり前のように拒否したな。
「まあ、ジェリエの今の実力を知れる良い機会だ。それにしても、儂の近くは嫌って.....こんなに離れんでも」
儂は心の中で悲しみつつ、ジェリエを見守る。と、
「......!、っ!(キッ!)」
ジェリエが儂の視線に気付いた、かと思ったら鋭い睨みを利かせてきた。
.....こっわ!こ、これ以上はやめておこう。視線だけで殺されかねん、精神の方は数回死んでる。
「と、とりあえず〜下でも見てみるか、うん」
儂は誰に対してか分からん誤魔化しをしながら再度下の戦場に目を落とす。当たり前ではあるが、敵兵が陣を張っている。兵の格好は一律黒い鎧、それも他の国の騎士がつけているものではなく何とも古風な感じがするもの。武士特有の鎧というか、騎士鎧よりも空きが多い。鬼側も同じで色は赤である。
確かにこっちがかなり数が減ってるな、一体誰の.....あれはーーー
「なるほど、あちらさんの勇者か」
儂は相手軍の最前線にいる一人の人物に目を向ける、そこには他とは一線を画す雰囲気を醸し出す女の姿がある。長い黒髪を後ろで一つに括っており鎧は着ず、全く防御力を感じさせない白い着物を着用している。何一つ飾る様子がないといった印象、手には刀が一本静かに握られている。
まあ、当たり前だがキリールとは雰囲気も性別まで違うな。別の国の勇者だから当然か、佇まいは強者そのものか。
「それにしても勇者が複数いるのはまだ分かるが一国に一人の勇者というのはちょっとやりすぎじゃないかなぁ。おっと、あの人もいるな」
そこでもう一人の人物の姿を見つける、でかい図体に立派な髭と一本角。巌忽だ、いつから持ったのかふっとい大剣を振り回して敵兵を蹴散らしている。
「うーん.....見えにくいのは良いとしてやっぱり聞こえんのは不便か。あれを使おうか、あんまりこういったことに魔力を使いたくはないが」
儂は戦闘音や声などの音が聞こえないことに不便さを感じ、ある魔法を使う。耳に手を当て、魔力を流す。
補聴魔法、魔力は豊富にあるしケチる必要もないがなんか地味な魔法に魔力を使うのにはちょっと抵抗があるんだよな。聴きたい音を聴きやすくする、なんざまさか活用する時が来るとは。
「はっはっは!雑魚どもがいくら束になろうとも吾の渇きは癒せんぞ!」
早速耳が痛くなる声が聞こえてきた、間違いなく巌忽の声。それと一緒に大剣が人間の身体を斬る音と悲痛な叫び声が多数耳に入る、豪快にやっているようだ。
あーあー、全く慈悲なしだな。まぁ、見ている分には爽快感があって楽しいな。心配は無さそうだ、もとよりする気もないが。
「なかなかの暴れぶり、危険な者は早々に摘むが吉。拙者が相手をいたそう」
そこで何やら聞き覚えのない声が、これは巌忽に向けられたものだ。そっちに目を細めると真っ黒な黒装束を纏った人物が立っている、顔は黒い布でほとんどを覆っているが声からして男だろう。背中には刀らしきものも見える。前線にいるのを見るにおそらく勇者パーティの一人だろう。
ん、あの格好は覚えがあるぞ。天月都特有の職業、確か名称は忍者だったか。忍術と称して独自の魔法形式を確立して一時噂になったやつだ。姿が複数に増えたり、土に埋まったりとかだったはず。
「ほう、お前は少しは楽しませてくれるのか?」
「それが望みならばそのように、覚悟せよ!」
その忍者はそう言うと、手を前に合わせて握り、指を立てるよく分からんポーズを決める。すると次の瞬間、その姿が複数に分かれていく。
おお、増えるやつだ。本当にそのまま増えるんだな、分身魔法は知ってるがあれは分身が姿を似せただけの色が一律のスライムになって分かりやすいんだよな。
「雲魔一族、雲魔隊絶の分身の術。拙者を捉えられるか!」




