二十六話 千歳京の主
「..........巌忽、何してる?」
案内され、千歳城の天守閣と呼ばれる一番上の階まで訪れた儂はあまりの光景に思わずそんな問いを投げてしまう。ちなみにここには儂の娘三人とルイナ、ニュイを連れてきている。もちろんレンセツは留守番だ。
あの鬼の大変そうな様子から一転、何でこの人はここで酒をあおっとるんだ?
「ん?何だ、来ておったのか。なら、早く話しかけんか」
巌忽はやっと酒を飲むのをやめたかと思ったら、こっちに理不尽な言葉が返ってきた。そこには余裕が見てとれる、少なくともあの慌てた様子の鬼に通された先とは思えないほど。
「ここに案内してくれた鬼がかなり焦っとったが、その様子じゃあ何もないのか?」
儂はそんな様子の巌忽に問いかける。そしてやっとこっちを向いてくれたおかげでしっかり見えるようになった。髪の毛一本見当たらない頭、真っ赤な着物を見に纏った巨大な体。立派な白い顎髭を携えて、威厳は儂など足元にも及ぶまい。額にはこれまた立派な一本角、鬼の象徴である。筋骨隆々だが、背自体はさっきの鬼ほどはなくせいぜい儂の二倍くらい。肌も違い、こっちは赤すぎず薄いピンクっぽい色だ。
相変わらず存在感だけはすごいな、威圧感は嫌でも感じる。儂の目指す威厳ある人物そのものだ、外見だけは。それにしても毎回見るたびに思うがゴブリン、オーガ、鬼という風に大きくなるにつれて強くなるのは分かるが、何で鬼の上位種は人間に近くなるのかがどうも納得いかん。
「ん?あぁ、大したことではない。勇者がうちに攻め込んできただけだ」
そう言ってサラッととんでもないことを言ってのける巌忽。
「ああ、そうか。勇者が攻めて.....って、勇者が攻めてきただと⁉︎」
巌忽のあまりの様子に儂は一瞬流そうとしてしまった。
とんでもない事実をサラッと言いやがって、全くこの人には調子を崩される。勇者が魔族領の国を攻めてくるなんざいつぶりだ?勇者はほとんどがパーティを組んで魔族領を進むやり方で続けていたはずだが、一体なぜ?
「何をそんなに驚く?」
巌忽はキョトンとした様子でんなことを宣う、むしろこっちがおかしいとでも言いたげに。
そもそもおかしいのはこの人なはずなんだがな、攻めてきたとなればもちろん軍を引き連れてきているはずだ。そうなれば戦争になる、そうなったもしくはなりそうなら報告義務がある。というのに、この人は!全く、あの鬼が焦っていた理由が分かった。勇者の件もそうだが、一番は巌忽だろうな。
「あのな、戦争になるなら儂への報告義務があったはずだぞ。後、一大事に悠長に酒なんぞ飲むな」
「はっはっは!何を言う魔王殿、一方的な蹂躙は戦争とは言わぬよ」
儂の言葉に豪快に笑う巌忽、かなりの自信だ。
ジェラールといい巌忽といい、何で危機感が皆無なんだ?ゴーストはまだ分かる、もう死んでしまっているため死に対してあまり抵抗はないんだろう。だが、鬼は違う。いくら力に自信があろうと自惚れ、準備を怠れば敗北する。それをこの人は理解しない、強すぎるのも考えものだな。
「んなこたぁ関係あるか、国と国がぶつかればそれは戦争だ!とにかく発覚したからには今からでも報告してもらうぞ、まず攻めてきた国はどこだ?」
「知らん、興味もない。吾の国が誇る武士どもに相手させておる、もう時期終わる頃だろう。そんな話より吾は非常に気になっておることがある、そこの娘たちはまさか魔王殿の娘か?」
巌忽は何故か儂の問いにおかしな回答をしたのち、儂の後ろへと視線を向けてそんなことを聞いてきた。
嘘だろ?この状況で話を逸らしやがった、状況分かってんのか!だめだ、拉致があかん。
「ルイナ!」
「分かっております、もう呼んでおきました。別の階にて勇者対策会議を行なっていた、軍の代表です」
儂が名を呼ぶとルイナは予想通りといった感じで現れる、後ろには白い着物に身を包んだ壮年の男、額には角が二つ見えることから鬼であることがわかる。黒く長い髪を後ろに流しており、腰には刀が一本。巌忽とは違い、全体的に落ち着いているような印象を受る。
「申し訳ございません、魔王殿。拙者、名を柳縁。拙者としたことが来訪に気づくのが遅れておりました、どうかお許しを。そして戦況の説明を、まず攻めてきたのは『天月都』であり、現在の状況は我々武士は劣勢でございます」
柳縁と名乗った鬼は適当な巌忽とは裏腹に丁寧に説明してくれる。ちなみにだが、武士というのはこの国の帯刀している者たちの総称だ。
ん?今柳縁とやら、何て言った?
「おい、今劣勢と言ったのか?どういうことか詳しくーーー」
「ほう、劣勢とな?ではここは吾の出番ではないか、うちの武士が押されているとは久方ぶりに腕が鳴るではないか!」
儂の言葉の途中、馬鹿でかい声にかき消されたかと思うと巌忽は勢いのままに城から出て行ってしまった。




