二十五話 千歳京
「ルイナ、どういう意味だ。何かあるのか?」
何やら不穏なことを口にしたルイナに儂は詳細を問う。
「普通であれば、門は開いた状態のはずですが閉まっています。かなり近づいていますが、開く様子もございません」
「なるほど、確認してみよう」
ルイナの言葉を聞いた後、儂は確認のために馬車を降りる。目の前には儂の背の十倍はあろうどでかい木造の門がそびえ立っている、この先にあるのは次の目的地である国。名前は千歳京、簡単に説明するなら鬼の国だ。
うーむ、ここまで近づいても全く開く様子がないな。そもそもいつもいるはずの門番も見当たらん、何かあったのか?こっちは裏門だが、誰もおらんのはおかしい。
「ルイナ、頼めるか?」
「かしこまりました、今繋げてみます。少々お時間をいただきます」
儂がルイナに促すと、ルイナはそう言いながら右手を耳に当てる。それから待つこと数分、
「繋がりました、どうぞ」
ルイナはそう言い、左手の手のひらを儂の方に向けてくる。ゴスラークでもやった通信魔法だ。
繋がったということは少なくともはんのうは返せる状況にあるらしい、まずはよかったと言うべきか。
『おやおや?ルイナ殿、吾に何か用があるのかい?』
向こうから何とも低く、野太い男の声が聞こえてくる。随分と気さくな話し方、しかしまあ違和感はない。同じく鬼の誰かさんのおかげで。
「儂だ、巌忽」
『ああっ⁉︎魔王殿であったか、いやはや直々に話してくるとは思ってもみなんだ。して、一体全体ご本人が吾に何用であるか?』
儂の声を聞いて驚いた声が聞こえた後、やはり気さくな感じで問われる。
.....今のところは普通か、だが嫌な予感がする。門番がたまたま今休憩中とか、そんなのであってほしいものだが如何に。
「門番がおらんのだが、門を開けてもらうことは可能か?」
『門?.....あぁ、裏門か!いやすまぬ、不測の事態ゆえそちらに手を回すのを忘れておった。今、部下に行かせよう。しばし待ってくれ』
儂がそう問いかけた後、巌忽の慌てた声が聞こえた後に通話は切れる。
今、不測の事態とか言ってたな。まぁ、通信魔法に対応できてるところを見るに大したことじゃあなさそうだな。お言葉に甘えて待たせてもらおう、すぐにくるだろうし。
「はぁはぁ.....申し訳ございませぬ、魔王殿!ふぅ、はぁはぁ.....」
巨人でも歩いているのかと思ってしまうほどのドタドタ音の後、巨大な門が重々しい軋み音を上げながら開かれた。ここまで一分と経たなかった、流石に早すぎる。中から姿を現したのは大男、真っ赤な皮膚にいかつい顔、デコには二本の角に口からこぼれ出るほどのデカさの牙。そして袴に身を包み、腰には刀。長い黒髪を後ろで一つに括っている。間違いない、鬼だ。
出たな、鬼。相変わらずデカいな、儂の五倍くらいはある。何でも相対してきたが、ここまで近いと威圧感はそれなりだ。にしてもこいつ、どれだけ急いできた?肩で息してるぞ。
「そこまで急いでこんでも良かったんだがな、大丈夫か?」
「はぁはぁ.....いえいえ、そういうわけには.....いきません。と、とりあえずどうぞ中へ」
その鬼は何をそんなに急ぐことがあるのか、息を整えるまもなく話を続ける。
いや、ちょっと深呼吸をだな。気になって話が入ってこんわ!
「分かった、入るからとりあえずその後に深呼吸をしてくれ」
儂は少し呆れつつ、そう返す。どうも早く入ってほしいらしく、すぐに馬車を中にいれる。すると、鬼は焦った様子で門を閉めてしまった。
「.....ふぅ、申し訳ございませぬ。焦っていたとはいえ、何の説明もなく」
そこでやっと深呼吸をしてくれた、これでようやく落ち着いて話ができる。
「何かあったのか?」
「ええ、それは我らが王より説明させていただきたく。ぜひ、城まで」
何と落ち着いたと思ったらまた急かすかのような態度を示してくる。その時鬼が促したのがこの国のど真ん中に聳える大きな城、他の国にはあまり見られない瓦と木で造られた古めかしさを感じさせるデザインで名前はこの国と同じ千歳城。ちなみに周りを見渡せばこれまた稀な木造建築の家々が立ち並んでいる。
何か急を要する事態なのか?いや、でも通話の時はかなり余裕がある感じだったと思うがな。まぁいいか、流石に無視するわけにはいくまい。
「分かった、馬車はどこへ置けば良い?」
「いえ、何なら馬車ごといらしてください。城までの道は広いので」
儂の問いにそう答える鬼、どうやら馬車を止める時間すら惜しいらしい。
「かなり急ぎの要があるのか、今は無駄な問答はやめておこう。全て含めて巌忽に聞くとしよう」
「おお、ご理解感謝いたします」
よく分からないが、あちらの事情もあるだろうし儂はとりあえず従うことにした。




