二十四話 二つ目の国へ
「.....ルイナよ、次の国はまだか?もうそろそろだと思うんだが」
儂は今にも消え入りそうな声で馬車の御者席の方に話しかける。
嫌だ、嫌だ。この空気は本当に耐えられん、特に身体に異変は感じないが酔ったみたいに頭がクラクラしてきた。何故かジェリエは前より睨んでくるし、いや何故かは予想はできてるが。ミロは休むことなく菓子を貪り食っとる。ゴスラークを離れたおかげで外が明るいのが唯一の救いか。
「さほどは掛からないかと、もう見えてはおりますので」
儂の言葉にそう答えるルイナ。
「なぁ、次は儂もそっちに乗って良いか?」
「ご冗談を、この旅行の目的をお忘れですか?もし本気だとしてもお勧めはしません。魔王様から距離を取ってしまわれては本末転倒でしょう」
儂の弱音はルイナによって至極丁寧に切り捨てられた、あまりにもバッサリと。
ぐ、ぬぅ.....正論すぎて何も言えん。だが、儂の辛さを少しは考えて欲しかった。
『...パ、パパ.....パパ!』
「ぬわっ⁉︎な、何だ!」
儂がルイナの言葉でしょげてしまっていたその時、どこからともなくある声が。
「.....っ⁉︎な、何だよ。いきなり大きな声出しやがって、うるせぇな」
「むぐ.....んぐ.....父、うるさい。お菓子が喉に詰まったりしたら、もぐ.....むぐ.....どうするの?」
「あら〜お父様、今のはわたくしも驚きましたわ〜」
今の儂の声に一番驚いたのはジェリエ、ビクって体が少し跳ねた。とても可愛かった、が今はとてつもない顔で儂を睨んでいる。次に反応したのはミロ、相変わらず菓子を口に含んだまま気怠げに注意してきた。最後はメルルナであった。
正直メルルナはよく分からん、いつも通りで驚いたそぶりもなかったしな。ルイナは無反応か、信頼があるのは良いことだが何か反応はすりゃ良いんじゃないか?まぁ、良いが。
『私だよ、ニュイだよ。今パパの右耳から話しかけてるの』
そう、その声の主はニュイだった。旅が始まった最初のあたりからずっとジェリエに抱かれているため、今の今まで喋っていなかったが何故か話しかけてきた。
あー、そういえばいたな。全く喋らんから存在をすっかり忘れとった。まあ、それはともかく、
「おい、その話し方はやめろと言ったはずだ。片方の耳は違和感だし、口をなるべく動かさないようにしながら声量も抑えにゃならんからキツいんだ」
儂は膝にいるミロにすら聞こえないような声を出す。これ、どうなっているかと言うと。まず儂の右耳に触手状に伸ばした身体の一部を突っ込んだ状態、そしてニュイは突っ込んだ触手の先から声を出している。身体を構成するすべてがすべての機能を有しているスライムだからこそできる芸当。
言ってしまえば通信魔法の下位互換、使い勝手は最悪だ。他の奴には使わないらしく、他からはじゃれているように見えるらしい。昔はかなりの頻度でされたから娘たちからは遊ばれてると思われてるから疑問に思われたことはない、現に娘たちも別に不思議がることなく注意してきた。これが幸か不幸かは分からん。
『あんまり喋ってないから忘れられてるかなと思って、後ちょっとパパと聞きたいことがあって』
「ん、何だ?儂に何か気になることでもあったか?」
儂はニュイの聞きたいことに全く覚えがなく、頭には疑問符が浮かぶ。
『あの時襲ってきた悪魔、バロガードのとこのだよね?』
「ああ、そうだったな。あの後、直接本人に聞いたからは間違いはないだろう。相変わらず、反省どころか罪悪感すらなかったぞ。それがどうした?」
ニュイも儂と同じくバロガードの仕業だと気づいていたらしい。
だが、何だ?わざわざ確認することでもなかろうに。後、少し声に怒りが混じってるように聞こえるのは儂の気のせいか?
『ねぇねぇ、あの悪魔食べちゃっても良い?』
.....なっ⁉︎まずい、気のせいじゃなかった。こいつがここまで何の躊躇もなくサラッとこんなことを言うのは初めてだ。
「待て、駄目だ。それは我慢しなさい、この問題は儂が片付ける」
『やっぱり駄目か。分かった、パパが言うならやめとくね』
儂の言葉を聞いたニュイは特に反論することもなくそう言うと、儂の耳から出ていった。
危なかった、ニュイの分裂体は今や数えきれんほど散らばっている。あの言葉を聞くにもうその中の一体がネリを捕捉していたんだろう、流石に身内同士で削り合いたくはないからな。
「魔王様、着きました」
ちょうどニュイとの会話が終わると同時くらいにルイナの言葉が聞こえてきた。だが、心なしか言葉が.....
「着いたのですが、何やら様子が.....」
ルイナは少し躊躇うような声でそんなことを言う、一体何があったと言うのか?




