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二十三話 後ろめたさの残る出発

「.....何か言うことはないのか?」


「え〜とのぅ〜、何と言えば良いのかのぅ?」


 馬車に戻ってきて早々に儂はレンセツを前に問いただす羽目になっていた。その理由はーーー


「儂も正直驚いた、馬車に戻ってきてみれば何故辺り一帯更地になっとるんだ?」


 そう、訪れた時まで確かにあった周りの馬車や魔族たちが見る影も無いくらい静かになっていた。元々馬車を停めておくところというのもあり、それなりに広く平面な場所ではあったがそれでもこの静けさはおかしい。先に来ていたジェリエとミロに聞いてみたら戻ってきた時にはもうこの状態だったらしい。


 まぁ、そんなことより明らかに辺りに血まみれで倒れとる奴らがおるんだが?どこを向いても嫌でも目に入ってくるくらいかなりの数の死体が転がっとる、見たところ全て魔族か。


「先に言っておくが、仕掛けてきたのは奴らじゃぞ?我はただ馬車を守るために戦っただけじゃ、他意はない」


「ほう?なら聞き方を変えよう、本当に防衛しただけか?それだけならこんなに広範囲で死体が転がっとる訳ないだろ」


 よく見たら馬車の残骸と思しきものも転がっている、襲われたからといって周りのものまで綺麗さっぱり壊す必要は無いはずだ。相手が壊した可能性もあるかもしれないが、この戦力差だわざわざ自分から遮蔽物をなくすような馬鹿な真似はしないはず。


 問いただしては見たが、だいたい理由は想像できてる。こいつは多分、


「いやぁな、かなりの数で我に襲いかかって来てな。ちまちま斬るのが面倒になってのぅ、雑魚のくせに隠れたりするから」


「だろうな、お前のことだ。まぁ良い、いや良くはないが。こいつらが何かは分かったのか?」


 少しとはいえ口ごもったレンセツの口から発せられたしょうもない理由、儂からすれば予想通りすぎてため息が出そうだ。


「ああ、それは分かっとるぞ。ここへくる前に襲いかかってきた賊がおったじゃろ?あいつらの残党どもじゃったわ。ガーゴイルの奴が率いとったぞ、首は落としといたから安心せい。全壊させた分、誰一人逃がしとらんわ」


 儂の問いにそう答えるレンセツ、そこには安堵や悪気なんてものはない。元からふざけ交じりの適当さ、騙せようが見破られようがどっちでも良かったのだろう。


 本当どこまでも適当な奴だ、責任感もなければ背負う気もないのだろうな。呆れなどとっくに通り越してしまっとる。


「にしてもどうするか、メルルナの方でもかなりやってしまっとるのにお前まで。まさか留守番すら満足にできんとは思わんかったわ」


「はっはっは!さすがはレンセツ殿ですな、ワタシは好きですぞ。とても面白い方だ、もちろん請求などは致しません。笑わせていただいたお礼にこちらのワインなどいかがでしょう?」


 儂が呆れる中、一人楽しげに笑うのはここの統治者ジェラール。部下の鎧騎士がジェラールの合図とともに一本のボトルを取り出す。自分の街が悉く破壊されているというのに何故この人はここまで陽気でいられるのか儂は甚だ理解に苦しむ。


 この人は神か何か?と儂の立場からすれば問いたくなるが、一度頭を整理するならやっぱりこの人は生きてた時代に頭のネジを置いてきてるんだろうな。


「お、ジェラールか。相変わらず気前が良いのぅ、ありがたくいただいてとくぞ。いやぁ、得した得した!」


 ジェラールの部下が差し出したワインを何の躊躇もなく、受け取ってさらにこの態度。もはや罪悪感がないことを隠す気すらかけらも無い。いくら魔族といえどここまでのやつはそうはいない。


 こいつは、全く。やらせてみればちゃんとやるかと期待したが、無理なものは無理なのかもしれん。儂の判断は間違っていたんだろうな。


「ジェラール、あのワインはーーー」


「ああ、ご心配なく。うちの中でも上等なものをご用意させていただきました!」


 儂の言葉を遮るようにして答えるジェラール。


 そうじゃない、そうじゃないんだジェラール!街の半壊、待機場の全壊。ここまでのことをしておいてさらに土産の品までもらうなんざ、言語道断。借りどころの話ではない、これはもう負債だ。


「あ、あ.....」


「魔王様の言いたいことはワタシ、重々承知しておりますとも。ですが、こちらの気持ちも分かっていただきたい」


 事の恐ろしさに声も出ない儂の後ろから何やら語り出すジェラール。


「命を落としたにも関わらず、ゴーストになってなおもこの地に縛りつけられる苦痛。することのない永遠の日々の中で消費こそが我々にとっての唯一の喜びなのです」


「ああ、悲しいのぅ!これは貰ってやるのがこ奴らのためじゃ」


 それに有無を言わせず乗っかっていくレンセツ、全くもって立場を理解していない。


 まじか、こいつ!せ、せめてワインがどれだけ高価なものか確認せんといかん。ジェラールは聞いても答えんだろうし、ラベルを.....読めん。そもそもワインを飲まんから読めても分からん。諦めるしかないか、せめてさっさと出発して罪悪感を弱めるか。


「もう出るとするか。ジェラール、また機会があればよる。じゃあな」


 儂はそう言い残すと、足早に馬車に乗り込む。幸い他の奴らはもう乗っていたため、すぐにでも出発できる。


「ええ、ぜひまたいらしてください!では、良い旅を!」


 馬車が出る直前、ジェラールの見送りの言葉が耳に届いた。

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