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十九話 長女の実力

「え?お姉さんが戦うんだ?」


 ジェリエの前に出たメルルナにネリは意外と言わんばかりの言葉を返す。


 え、メルルナが戦うのか?いやいや、そんなものジェリエが許さんだろう。あそこまで怒らせたんだ、いくら姉の言葉でもーーー


「.....分かった、姉様に任せる」


 そう思っていたのだが、ジェリエは案外すんなりメルルナに譲る。


 嘘だろ?かなりキレてたはずなんだがな、姉だからか?やっぱり儂には娘の考えていることは全く分からん、少なくとも儂なら誰にも譲らんだろう。そういえば、馬車の中でもジェリエはメルルナの言葉をおとなしく聞いていたな。


「へぇ、引き下がるんだ。ま、私はどっちが相手でもなんなら二対一でも構わないんだけど」


「あら〜、余裕そうね。安心ね、思いきりストレス発散できそう」


 相変わらず舐めた態度を貫いているネリにメルルナは背中の二本のハンマーを抜き、両手に握る。まるで重さなど感じさせないくらい軽々しく行う一連の動作、何度見ても騙されそうになる。


「巨大なもの背負ってると思ったけど、本当に武器なんだね。良いよ良いよ、面白いじゃないか!」


 ハンマーを構えるメルルナを見ても余裕の態度は変わらず、むしろ楽しそうに笑ってみせるネリ。


 あいつ、相当肝が据わっとるのか自身との差が測れんただのバカか。どちらにせよ、戦力差は歴然といったところか。贔屓なしでも明らかに差がある、儂の娘が勝つと断言できる。でも何故だろうな?今の儂はメルルナを止めようという気が全くおきんわ!


「じゃあ、いくよ!もう退屈してきちゃってたんだ!」


 ネリがメルルナの言葉を待たずに突然仕掛けてきた。杖の先に魔法陣が現れ、そこから頭ひとつ分くらいの火の球が射出される。もちろん、メルルナに目掛けて。


「........っ!」


「危ねぇな、いきなり卑怯だろうが!」


 メルルナは一切驚いた様子もなく、右のハンマーを振って火の球をかき消す。さらに勢いがあまり過ぎていたのか、残った風圧が周りの建物を吹き飛ばした。ネリの行動に意を唱えたのはジェリエ、勢いのまま身を乗り出そうとまでしたがメルルナがハンマーで遮った。


「良いのよ〜、魔族だもの。卑怯や騙しは当たり前でしょ?」


 メルルナは優しい声で言う、声の雰囲気はさっきまでと一緒だがさっきまでと同じようには見れない。


 メルルナ、かなり怒ってるな。さっきも力の制御が上手くできていなかった、メルルナのことだから大丈夫だとは思うが。


「分かってるじゃん!お姉さん強そうだから、私も本気でいっちゃおうかな!」


 ネリはメルルナの言葉にそう返すと、杖を前に掲げる。すると、今度はネリの周りに無数の氷の槍が出現する。


 先の攻撃は様子見だったか、魔法の形を変形させるとは高度なことをするな。しかも火と水の二属性を操るのか、まあまあだな。


「串刺しにしてやるよ!」


 ネリはそんなことを叫んで意気揚々と杖をメルルナの方へと向ける、それと同時に周りに浮いた氷の槍が一斉にメルルナへと飛んでくる。


「ふふ、その程度かしら?」


 メルルナは微笑み、ハンマーを振るう。氷の槍は悉く砕け、周りの建物が倒壊する。そろそろ周りから悲鳴なんかが聞こえてきそうだが、周りはみんな不気味なほどに無関心。


「わあ、すごいね。なんて馬鹿力だ、風圧だけで周りが真っ平らだ。じゃあ、こんなのどうかな?」


 メルルナの異常さにネリは楽しそうにそう返す、一体どこにそんな余裕があるのか甚だ疑問だ。ネリは空中に浮くと、また杖を空に掲げる。すると、空に大量の剣が出現する。しかも、全てが魔法だ。


 一度にあれだけの数の魔法を剣の形に出来るとは、かなりの腕前だな。ん?ちょっと待て、電気に岩に水に火に風も見えるぞ。まさか、魔法の五大属性全てに適性があるのか⁉︎


「どんな力も数の前には負けちゃうんだよ、これで終わりだ!」


 勝ち誇った笑みを浮かべ、ネリは杖を振り下ろす。全属性の魔法が辺りに降り注ぐ。


 さて、そろそろ儂が出たほうが良さそうか.....いや、


「.....あら〜、わたくしももう少し解放しても良さそうね」


 そんな絶望の空を見上げてメルルナはそんなことを呟いた。その次の瞬間、メルルナは両方とものハンマーをおきく振りかぶり、


 ーーーまずい!


「ジェリエっ!」


「ーーーわっ⁉︎」


 儂は後の展開を察知し、即座にジェリエを抱き抱える。その次の瞬間だった。


「そ〜れっ!」


 なんとも言えない掛け声と共に両方のハンマーを上空に向かって振り抜くメルルナ。上空へ向かって巨大な衝撃波が飛ぶ。地面が抉れ、雲が弾ける。この国を覆う瘴気が、生暖かく気持ちの悪い空気がこの一帯から消えた。ネリの魔法など言わずもがな。


「........っ!」


「え、えっ⁉︎」


 儂はジェリエを庇うようにして守る、ジェリエは状況が理解できず困惑した表情。


 おいおい、メルルナってこんな構わずこんなことする子だったか?て、日の光強いな!


「綺麗な天気ね〜」


 メルルナの穏やかな声、が聞こえたのも束の間瘴気と生暖かさが数秒としないうちに帰ってきた。


「あーもー!その力、反則じゃない?私の魔法、全部消えちゃったんだけど!」


 ネリがメルルナの前に現れた、どうやらまだ生きていたらしい。何故かご立腹の様子。


「あら〜、生きてたのね。逃げていれば良かったでしょうに」


「いやいや、それはできないよ。私だってまだまだ楽しみたいんだ」

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