十六話 寂しい観光
「.....何故、半数だけになったんだ?」
ゴスラークに入ってさほど時が経っていないというのに儂はそんなことを呟いていた。
さっきまで、ついさっきまで一緒だったのにもう娘二人がいなくなったぞ。はは.....今更だが嫌われとるなぁ。
「父、聞いてなかった?ジェリねぇが別れたいって言って、心配だからメルねぇが着いていった」
儂の言葉に答えたのはミロ、しっかり説明してくれた。
「いや状況は儂も理解しとるから説明は大丈夫だぞ、ミロ」
儂は落ち込みながらもそう返す、落ち込みのせいか声を上手く発するのが難しい気がする。
頼む、詳細な説明は儂の心が抉られる。今の儂の言葉はむなしい独り言と無視して欲しかった。ああ、なんかこの辺りの暗い雰囲気が儂の心をさらに落としていく.....
「.....サマ、魔王様、もしご気分がすぐれないようでしたら一度馬車に戻りましょうか?幸いご一緒なのはミロ様なので」
「いや、大丈夫だ。せっかくミロが自分から外に出てくれたんだ、儂の都合に付き合わせたくはない」
儂の今にもどこかへ飛んでいきそうだった意識をルイナの声がギリギリ留まらせた。
.....ん⁉︎今、ルイナの言葉が最初聞き取りづらかったぞ。まさか、思い詰めて至近距離の相手の声が遠く聞こえるなんてことが起きるとは。
「.....!構わない、父と馬車帰る」
「おいおい何考えてるのか知らんが、儂は大丈夫だ。だから、服を引っ張るな」
その手が、みたいな顔をしたかと思ったら服を引っ張り始めたミロに儂は言う。
「失敗、もっと早く思いついていれば」
ミロは悔しそうにしながら服から手を離した。
「そんなに残念そうにするか?」
たまたまの思いつきが外れただけだろう、ていうか実現性はカケラもなかったと思うんだがな。
「では、どうなさいますか?」
「まあ、適当に歩くか。酒も買わんとならんしな」
ルイナの問いに儂はそう答える。
.....あ、そういえば、
「ルイナ、さっきの普通の観光の話の時にいつ察した?最初はわかってなさそうだったろう」
どうせ何もすることが決まってなかったため、儂はちょっと気になったことを聞いてみる。
察したこともそうだが、ルイナはいつもあんなに喋らんはずなのにいきなり喋り始めたのも気になる。
「あれですか?察したと言いますか、ただ言ってみたかったと言いますか。魔王様の言葉から適当に考えたことをそれっぽく話しただけです」
「ん、適当?」
ルイナから帰ってきた思わぬ言葉に儂は思わず聞き返してしまう。
幻聴でも聞こえたか?ルイナの口から適当に話したなんて言葉が聞こえてくる訳がない、魔王城じゃあそんなことは一度もなかったしそんなそぶりも見せたことはない。
「はい、それらしい理由と説明口調で信ぴょう性を持たせました。もし、間違っていたとしても魔王様のツッコミが飛んでくればひと笑い起こせるかと考えていました。どうでしたか?」
「そ、そうか」
およそルイナの口から出るはずのない単語が数秒のうちにいくつも、儂は混乱のあまりそんな言葉しか返せない。
な、何だ?じゃあルイナはその場の勢いであんなことを言ったのか?すごいな.....じゃない!あのルイナが?明らかに様子がおかしいぞ⁉︎
「父、考えすぎ。今のはルイナなりの冗談、ツッコむか笑い飛ばすのがちょうど良い」
儂がこんらんするなかミロがサラッと言い放つ。
こいつはあっさりし過ぎじゃないか?まあ良いか、おかげでちょっと冷静になれた。
「.....少しでも場が和めばと思ったのですが、失敗だったようですね。慣れないことはするべきではなかったようです。辺りを散策されるのでしたら私も用事があるのですが良いでしょうか?」
「ああ、構わん」
「.....感謝します」
儂が許可を出すとルイナは目の前から姿を消した。
悪いことをしたかもしれんな、いつも驚くくらいそういったことをせんかったから気づいてやれんかった。
「よし、いくかミロ!欲しいものがあったら何でも言え、お父さんが買ってやるぞ!」
儂は切り替えてミロに元気よく話しかけてみる。
「父、うるさい。そのテンション、見てて痛い」
ミロは少し不愉快そうにそう返してきた、相変わらずの冷たい反応。
うーん、元気よく話しかけてはみたがやっぱり冷めた反応しか返ってこんなぁ.....
「でも、買ってくれるなら遠慮なく。あれ、欲しい」
お?意外に乗り気か?さーて、一体何がーーー
「あ、あれが欲しいのか?」
儂は思わず聞き返す、ミロが指した先は菓子屋だった。
いや、ミロは菓子好きだしおかしくはない。が、馬車の中であんだけ食っておいてまだ欲しがるか?しかも、馬車の中にまだいっぱい菓子残っとるし。
「父、何でも買ってくれるっていった」
「分かった分かった、買ってやる」
そこで儂は失言だったと後悔した。




