十三話 盗賊殲滅
声が聞こえてすぐ、馬車からメルルナが降りてきた。巨大な二本のハンマーをそれぞれの手に握って。
相変わらずデカいな、あれメルルナの身長と同じかそれ以上だぞ。
「メルルナ、お前が行きたいのか?」
「はい、ぜひ」
儂の確認の言葉に静かに、しかし一切の躊躇なく答えた。
儂の娘があんな雑魚に負けることは万に一つもないだろうが.....うーむ、出来ればあんな奴らと戦わせるのは嫌だな。だが、メルルナの言葉は聞いてやりたい。
「分かった、好きにやれ」
「ありがとうございます、お父様」
儂は娘の要求を断ることはできなかった。
まぁ、万に一つがありえた時は儂が出れば良い。その時馬車が空いたとしてもまだ中にはニュイがいる、問題はなかろう。それにあれのためにもちょうど良い。
「ただし、やり過ぎるなよ。後が面倒くさいことになるからな」
「えぇ、承知してるわ」
次の儂の言葉にメルルナはそう答え、微笑んだ。
うん、素晴らしい。まさか娘のあんな顔が見られるとはーーー!
「へぇ、嬢ちゃんが俺たちの相手してくれるのかい?」
「はい、お手柔らかにお願いね」
ん、しまった⁉︎娘の微笑みに感激している間にもう盗賊のところに移動していただと?まさか、儂が娘から目を離すなど!
「へぇ、嬉しーーー」
盗賊の一味の一人の言葉が途中で途切れる。何が起こったか、簡単だ。メルルナが一瞬の内に距離を詰め、ハンマーでそいつを殴り飛ばしたのだ。ハンマー二本握った状態で、さらに片手で振り抜いている。
「「「ーーーなっ⁉︎」」」
その場にいた盗賊全員がその異常事態に怯んでいる。魔族である盗賊たちが驚愕しているのを見ての通り、たとえ魔族でもこれは異常なのだ。
「う〜ん、あんまり殴った感覚が無かったわ」
そう言いながら、首を傾げるメルルナ。
さすがはメルルナだ、その仕草だけで儂を殺すことも可能だろうな。
「ふ、ふざけた女だ。全員で仕掛けるぞ、あんなのそんな何回も触れねぇだろ!」
「はは、その通りだな!一気に仕掛けりゃ良い」
「おう、それで行こう!」
それを見た盗賊の一味の一人がそんなことを言い出し、他もその意見に賛同する。その言葉の後、その場にいた盗賊の一味が一斉にメルルナへと襲いかかる。
「えぇ、えぇ、その方がわたくしも殴りがいが合って良いわ」
メルルナはそんな盗賊たちを前に優しくも不気味な笑みを浮かべハンマーを構える。そして、
「くらいな!嬢ちゃーーーぐはっ⁉︎」
最初に近づいてきたやつを遥か遠くへと殴り飛ばす。それからは早かった、自身に近づいたやつから順にまるで作業のように飛ばしていく。中にはあまりにも強く振ったのか体がその場で弾ける奴もいた。
「ば、バケモンかこいつ⁉︎」
あっという間に半数以上を制圧、流石の恐れ知らずの魔族も本能で恐れ始めた。
「あら〜、わたくしに対する勢いがなくなってきたわね」
周りの様子に気づいたメルルナはそう呟く。声にさほどの起伏は感じられないが、残念そうには思っているだろう。
「まぁ、当然の結果と言ったところか」
鬼との力比べで勝てる自負がある儂だが、あのハンマーは一本両手で持ち上げるのが精一杯だ。振り回すなどもってのほか、やろうと思えばできるかもしれないがまず確実に腰をやる。前は一本だったが、さらに鍛えていたのか。
メルルナは魔族の中でも筋力が普通の二倍以上、さらには生まれつき身体強化の魔法が常時かかった状態という特異体質だ。戦闘においてはこれ以上ないくらいに最高の能力だが、良いことばかりじゃあないんだよな.....
「じゃあ、わたくしから〜」
全く寄ってこなくなったためか、メルルナは自分から向かっていく。
「く、くるな!がっ!」
「待てまっーーー」
「ぐはっ!」
それからしばらくの間、メルルナによる一方的な蹂躙が始まった。もはや誰も抗えないし、逃げられない。あたりは鈍い音とさまざまな悲鳴で満たされ、瞬く間にその場にいた盗賊たちは一掃された。
「ふぅ、終わりましたお父様」
メルルナは息を整えると儂の方へと帰ってきた。
「馬車に乗る時に二本持ってきていた時は予備かと思ったが、その重さを二本も持ってあそこまで動けるようになってたのはお父さん驚きだったぞ」
戻ってきたメルルナに儂は労いの言葉をかける。
よく考えたらハンマーは結構丈夫だ、予備などいらんだろうことは容易に想像できたことだった。ハンマーは前にも戦闘訓練で見ていたし、それよりも別に驚きがあったせいで完全に頭から抜けていたな。まぁ、どちらにせよどうでも良い話だったな。
「えぇ、わたくしもただ魔王城で生活していたわけじゃないのよ〜」
いや、嬉しいことだ。儂の知らないところで強くなってくれたのはとても良いことだ。
.....っていうか、
「レンセツはどこまでいきやがったー!」




