十一話 初めの道中
魔王城を出て、馬車に揺られながら魔族領の最初の国を目指していた。
そして、馬車の中では一家団欒の楽しげな声が.....なんて夢物語は現実には存在しない。なぜなら、
「「「...............」」」
今、まさに重苦しい沈黙が馬車の中に流れているからな。儂の隣に座ったミロはさっきから黙々とちゃっかり持ってきていた焼き菓子に手を伸ばし、斜め向かい側に座ったメルルナはにこやかに微笑むだけ。
ここまでは良い、ここまでは良いんだ。問題なのは儂の向かい側に座ったジェリエだ、馬車が動き出してからずっと儂のことを睨んでる。しかもーーー
「な、なぁジェリエ、予定では最初に訪れることになるだろう国だがどんな国かは知ってるか?」
「知らねぇし、興味もねぇ」
何か話題を振ろうとしても今のようにバッサリ切り捨てられる。
「す、すまん.....」
本当にジェリエは儂のメンタルをえぐってくる、泣きたい。ルイナは御者役だから外だし、レンセツは囲まれるのが好かないとか言って馬車の屋根の上。外の景色を見てもここら一帯は崖だらけかつ瘴気のせいで暗くて陰鬱、こんなの見てたら余計にやさぐれる。最初こそ娘たちが来てくれたことに舞い上がっていた儂だが、今はただただ誰か助けてくれ。
儂はそう思いながらこれ以上メンタルが削られるのを防ぐため、とりあえず視線を落とす。
「..........」
そこであるやつと目が合う。プルプルしたピンク色、うるおいのある上目遣い。スライム状態のニュイだ、ジェリエの膝の上にちょこんと居座っている。
この重苦しい雰囲気、ニュイはそんな場の雰囲気など気にも止めず元気に喋ってくれる。はずだった、いつもなら。失念していた、そういえばスライム状態の時にジェリエの前ではどういうわけか一切言葉を話さなくなるんだった。こいつが喋ってくれさえすれば!
「ふふ、ジェリエ〜、あんまりお父様を困らせちゃダメよ?」
永遠とも思えた沈黙、それを破ったのはそれまで口出しをしないで微笑んでいたメルルナだった。
「姉様には関係ないだろ?」
「そうね〜、でもせっかく可愛い子が膝の上にいるんだから。お父様ばかり見ているよりその子を構ってあげて」
「あ、うん.....」
メルルナの言葉で儂から目を離すジェリエ、助け方にちょっと異論があるが助かった。ジェリエは黙々とニュイを触り始める。
「.....はぁ、ん?」
安堵と疲れ、己の不甲斐なさに対する呆れの混じったため息をもらしたその時だった。
儂は気づいてしまった、儂の膝に大量についた菓子の食べカスに。
「おい、ミロ。まさかとは思うが.....」
「ん、何?父の膝で袖、拭いたことを言ってる?」
まるで悪びれる様子なくさらっと白状するミロ、こいつの態度は意に介さないにも程があるだろ!
儂の言いたいことが分かっているところを見るに絶対分かってやってるだろ、こいつ。しかも、よく見たらもう袖が菓子の油でシミになってるじゃないか。
「全く、菓子を食う時くらい袖をまくれ」
もう呆れたが、注意はせねば。
「嫌、袖が長いのは手を使うのが、むぐ.....めんどくさいから、もぐんぐ.....それは父も知ってるはず」
「そんなこと言ってたな、で?それが袖をまくらないのと何の関係がある」
「袖がまくれたら、もぐ.....わざわざこんな袖をしてる意味がない。んぐんぐ.....それくらい、父でも予想できるはず、もぐむぐ.....」
.....あー!さっきから合間合間に菓子を口に含みやがって、わざと無視したが逆に内容が全然入ってこんわ!
「とりあえず落ち着いて話せ、全く話が入ってこん」
「私は、もぐむぐ.....ずっと落ち着いてる」
儂の言葉に驚くほど淡々と返してくるミロ、ただし手は忙しなく動いている。
ええい、話が進まん!こいつは絶対に直球で言わないとダラダラ続けて一向に終わらないから困る。
「その手を止めろと言いたいんだ、儂は」
「最初からそう言えば良い、父は分かりにくい」
今の儂の言葉でやっと手を止めたミロ、しかし何やら小言も聞こえた。
「うるせぇな、父さんはちょっとは黙れねぇのかよ」
今のでジェリエの気分も害したようでキツイ言葉が聞こえてきた。
「あ、すまん」
思わず儂は謝ってしまう、儂は悪くないはずなのに。
「ふふ...四人で一緒なのいつぶりかな?こんな状態だけど久しぶりでわたくしは嬉しいわ〜。いや、今は五人だったわね」
そこで今度はまたメルルナが口を開いた。
確かに娘たちと集まったのはいつぶりだろうか、メルルナも何とか場を和ませようとしてくれているのだろう。と、
ギイィぃぃぃぃっ!!
「「「........わっ⁉︎」」」
「な、何だっ⁉︎」
突如、大きな音と共に身体が前へと引っ張られる。
き、急停車か?外で何かがあったか、ルイナに確認を。
「魔王様、申し訳ありません。もう少しゆっくり行うつもりだったのですが、馬の操作は久しぶりでしたので」
儂が席を立とうとしたところで外からルイナの声が聞こえてきた。
「それより、何があった?」
「囲まれています、おそらくは盗賊かと」




