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一話 魔王のお父さん

 ここは人々から魔界と呼ばれる危険地帯のそのさらに深い場所。知名などもとより存在せず、濃い瘴気によって並の人間はまず立ち入れない。そんな場所に建つ禍々しくも立派な城、人々からは魔王城と呼ばれている。


「うーむ......そろそろか」


 そんな魔王城の玉座にて一人の人物が立派な椅子に腰掛けている。その顔は長い黒髪におっさん感のある少々の口髭、その姿は真っ黒な鎧で覆われていて残念ながら顔以外は分からない。


 まぁ、なかなかに整った顔立ちをしているとは思うぞ。


 さて、みなさんお察しの通りこの人物こと儂が魔王だ。名前はガラディ・ギースゴール、名前だけはなかなかそれっぽいだろう?それから肝心の力の方は.....もうじき見られるだろう。


「魔王様、まもなく勇者が来ます」


 儂が口を開いてから数秒と経たなかっただろう、一人の人物が前に突如として現れ跪く。


 真っ黒なローブをまとっており、あまり詳細は分からないが、暗く陰気なこの空間で一際輝く長い銀髪がフードの隙間からちらついているのは確認できる。声色やブーツを履いていることから女性だということは予想出来る。.....まぁ良いか、こいつのことも教えておこう。名はルイナ、簡単に説明するなら儂の側近だ。


「ああ、だろうな。もう気配がそこまで来ている」


 そう言い、扉の方に目を向ける。


「今回は私が殺りましょうか?」


 ルイナは静かにそう言うと、懐から何か光るものを取り出そうとする。話の流れからしてそれは刃物の類いだろう。


「いや、その必要はあるまい。お前は儂のことは気にせずいつも通りのことをしておけ。どうせ、すぐに終わる」


「かしこまりました、お気をつけて」


 ルイナはその言葉を聞き、そうとだけ言うとその姿が一瞬にしてどこかに消える。


「おい、魔王!ついに辿り着いたぞ、この俺アルメロ王国の勇者キリールがお前を倒す!」


 ルイナがいなくなってすぐであった、勇者が玉座の間の扉を開け放ち堂々とした態度で名乗りを上げる。目が痛くなるほど輝く鎧に無駄に装飾に凝ったゴテゴテした剣を握った金髪の20くらいの青年であった。


「ほう?儂を倒す、か。ならばやってみろ、できるものならな」


 儂はキリールの言葉を聞き、そう言いながら腰を上げる。


「遅いっ!俺の剣を受けよーーー!」


 儂がゆっくりと立ち上がっている間にキリールはもう儂を間合いに捉えてしまったようだ。大きく叫びながら大仰に剣を振り下ろす。が、


「.....なっ⁉︎」


 次の瞬間、キリールの顔が驚愕のものとなる。それもそのはずキリールの剣は儂に届くことはなく、途中で止まってそれ以上動かなくなったのだから。


「はぁ、この程度か」


「な、何故だ!何をした!」


 ギャアギャア騒ぐキリールを前に儂は失望が隠せず、思わずため息を漏らしてしまう。


「お前は魔力反発も知らんのか?」


「それくらい知っている、バカにするな!魔力の放出で自分よりも弱い魔力の者を弾く、こ、と.....まさか、そんなこと今まで一度も見たことがない」


 言葉の途中で何かに気づいたような顔をしたと思ったらみるみるうちに青ざめた顔になっていくキリール。どうやら気付いたようだ。


「これで一つ賢くなれたな、そのままでは儂には絶対に勝てない、やり直しだ」


 儂はそう言うとキリールに向かって手をかざすように手のひらを突き出す。すると、キリールが紫色の泡に包まれていく。


「な、何だこれはーーー」


 キリールは最後まで叫んでいたが、やがて完全に泡に包まれてその声も聞こえなくなった。そして数秒と経たずに泡がその場で弾ける、中にはキリールの姿は跡形もなくなっていた。


 これは儂が創った魔法だが我ながらなかなかに面白い魔法だ、あの泡に包まれた奴は強制的に旅の始まりの街に戻される。包むのに時間が掛かるからその間に逃れることが出来るのが欠点か。


「次に会う時はせめて殺す価値を感じさせるくらいにはなって欲しいものだな。まぁ、期待は出来んか」


 儂はいなくなったその場所を見つめ、静かに呟いた。


「お疲れ様でした、また見逃したのですか?」


「ああ、あいつは儂と対峙するには早すぎた。そんなことより儂は行くところがある。それとお前は儂が戻るまでに四天王を集めておけ」


 儂はそう言い残して玉座の間から足早に出ていく。


 何をそこまで急ぐことがあるか?そんなことは決まっている、あの子たちに会いに行くのだ。頑張って平常を保とうとしたがおそらく今の儂の顔には隠し切れず笑みが溢れでてしまっているだろう。


「ここだ、今回こそは」


 しばらくの間、意味があるのかと思うくらい無駄に長い廊下を早歩きで進み、ある扉の前で儂は止まる。その扉は他の扉とは違い、ピンク色に宝石のように輝く石が嵌め込まれたなんとも可愛らしくも異色を放っている。


「おーい、お父さんだぞー!」


 儂はそう叫びながらドアを開ける。さっきまでとは一転、優しい声に精一杯の笑顔を作って。


「む、うるさい。父、何の用?」


 何やら部屋の奥から眠そうな、気怠そうな声が聞こえてくる。儂はこの声に愛らしさを覚える。


「どうした、どうした?さてはお前また.....って、うおっ⁉︎」


 そう言いながら部屋の奥に入った儂は思わず素頓狂な声を出してしまう。服が脱ぎ散らかってゴミが散乱したとんでもなく汚い部屋。


「父、いくら父でも勝手に入るのは許さない」


 また愛らしい声が聞こえる、儂はその方向に目を向ける。


 そこには一人の少女の姿があった、人間でいうところの10歳くらいだろう。栗色の長い髪を無造作に括っていてボサボサ、オレンジ色を基調とした服は半分はだけている。袖も通り切っておらず、先がダランとしているがこれは服のデザインなので問題はない。そして儂には似ず可愛らしい顔。儂の三人の娘、その末っ子。名はミロ、儂の可愛い可愛い娘の一人だ。

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