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暁はプリントされた、書類を捲りながらうらうらと考え、珈琲を飲むと刻が走ってきた。
「はー、尽さんとこ行ってきましたよ。はい。どれどれ」
書類を見て、ゆっくり言う。
「議員ですか、この人確か亡くなってませんか?」
「いや、確か外れて、今はゆっくりしてるはずだよ」
ほお、と言って、刻はプリントされた3D写真を見る。
「参りましたねー、上にあげると揉めそうで」
「御身柱だしな」
「与位祖母さん言ってましたよ、右足の骨無くてって」
うん、と言いながら、暁はプリントされた写真を捲る。
「裏はNNN+1+2か」
刻は、お茶を飲む、ひそかに眉を寄せて言った。
「毒死だし、ね、捜査してんですけどね、衛さん防犯カメラでもあればなー」
「自衛隊に頼んでも、揉消されそうでね」
「うーん、この毒」
「いや、指紋の欠片」
「尽さん言ってました、引っかからないんですーって」
「参ったね、お蔵入りにしたくないな」
暁は、珈琲を音を立てて飲む、正面の刻に書類を渡す。
「何時、何処で、誰が、何をして亡くなったか、だな」
刻は、書類を受け取って、眼鏡を外す。んー、と言いながら、写真と睨めっこし始めた。時計は五時二分を指していた。
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夜の静寂に紛れながら、千鶴は槻樺に言った。
「白髪抜き有難う。お財布っと、お駄賃あげちゃう。あら、珍しい」
千鶴は、五十円玉をマジマジと見ながら言う。
「平成31年だんしゃ」
与位祖母さんが、よっこらしょと言って、白い紐を引っ張って来る。これをこうやって、と言いながら紐を二つに折り、硬貨の穴に通して、潜らせて引っ張り結んで槻樺に渡す。
「お守りにせな」
「へっへーん、私なんて五百円だもんねー」
迩菜が踏ん反り返ると、槻樺は舌を出して迩菜を見て、座敷に走って行った。
「祖父ちゃーん、お守り貰ったー」
槻樺が座布団に正座して、鐘を叩く。良い音がして静寂を割いた。
「南無南無、衛祖父ちゃん。お守り有難う。大切にします」
手を合わせると、ガタリと鴨居が鳴り、槻樺がビクッと身体を固める。振り返って見ると、遺影が傾いていた。
「お父さん、お写真が外れたー」
泣き声で叫ぶと、文男が現れる。
「おめ、電気もつけねーがら」
と言って、蛍光灯をつける。鴨居に掛かっている遺影を直すと、座布団に正座して鐘を鳴らし手を合わせた。
「あい、仕方ね、ほら、槻樺」
「南無南無って二回言ったんだけど」
槻樺が文男に抱き着く。「大丈夫だんて」と言って蛍光灯を消した。
夜の静寂が、座敷を覆った。