5
向日葵が空を向いて、入道雲が見えれば、柴犬に似た大きい犬が鎖につながれている。
「ただいまー暑い、なんか飲み物頂戴」
「迩菜ー麦茶ね」
千鶴が言って、ガラスコップに麦茶を注ごうとする。
「氷入れて、汗かいちゃった」
はいはいと言いながら、千鶴がコップを渡す。迩菜は勢いよくコップを開けて一息ついた。
「カラシ散歩行くよ」
わんと吠えられて、迩菜が与位に言った
「宿題は帰ったらするね」
「んだば、ちょいと気になるんたいんに、大回りしてければいいばって」
「はーい」
迩菜のランドセルを寄せ乍ら千鶴がコップを片付ける。
「槻樺は依普のとこだから」
「どーりで玄関あーなってた、カラシー行こうね」
茶色の大きい犬にリードを着けてあげると、途端に走り出した。
「待ってカラシ、待てってば」
てくてく歩き電柱にマーキングをする、水足りるかなーと言いながらペットボトルの水を電柱にかけた。芳雄ママがいた。
「あら、お散歩ー?どこ廻るのー?カラシ良い子ですねー」
「あっちから大回り」
迩菜が言うと芳雄は犬の背中を撫でて笑う。
「気を付けなねー」
「はーい」
大通りの交差点の信号待ちで、カラシと一緒に迩菜が待っている。リードを手に三巻きして横断歩道を渡る。通りを超え、奥のT字路を左に折れると田んぼに畦道をてくてく歩いていく。
「はーカラシ、ちょっと休憩」
犬は踏ん張りながらくぅんと鳴いた。
「さーてーとっと、大回り遠いんだよなーもう。暑いったら、カラシ大丈夫?」
犬の様子を見ながら歩き出す。木陰を探して一息つきながら、畦道の先の交差点に出た。そこに暁刑事と刻が寄って行った。
「お、迩菜ちゃん、お散歩?」
「うん、祖母ちゃんに頼まれて大回り」
「道理で、白いシャツ着た男の人に遭わなかった?」
刻がしゃがんで、カラシの背中を摩ってごそごそする。
「ありました」
「迩菜大回り、気をつけてな」
暁と刻と別れて左に曲がって迩菜がカラシに言う
「そういうことか、道理で大回り」
カラシが走り出した。
暁と刻は警察署に戻っていく。これですね、と言いながら、駐車場でふふふと笑う。暁が言った。
「尽に3Dを頼もう」
「了解、東北だけですかね」
「いや、コロナも考えないと」
暁はハンカチを取り出して、汗を拭った。