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ーーキンコンカンコーン・・・下校時間になりました。忘れ物をしないで速やかに帰りましょう。
放送が鳴るのを尻目に、槻樺は依普と一緒に帰り道を歩いていた。
「なあ、花火、買わない?祭り行ったし」
「神社に悪い、それにお金ないし」
剥れた槻樺に依普が覗き込んで顔を見る。槻樺の瞼は、膨れ上がってしまってすごい顔になっていた。依普が手を取って走り出す。
「おかんー、花火買ってー」
海美母さんが、十字路で黄旗を持って待っていた。依普が海美に抱き着くと、一緒に槻樺まで抱き着いた。
「暑いのよ、もう、なんで花火?」
「追悼するの」
「あ、衛祖父さんか、参ったわね、今日も泊まらせてくれるかしら」
蝉が鳴く林を抜けながら、三人で歩き始める。
「この道を通ると、危ない人が出るからこっち歩いてね、車に気を付けて、ほら右見て、左見て」
林から右に曲がり、交差点で海美が言った。槻樺と依普が、手を上げて横断歩道を渡る。少し歩くと、コンビニが見えてきた。茶トラの猫が、日陰で涼んでいる。槻樺が走り出した。
「花火ー!」
槻樺がコンビニのドアにぶち当たって叫んだ。こらこらと言いながら海美と依普がやってくる。自動ドアが開くと、目の前の花火を見て依普が言った
「なんぼ?」
「値段、見てや」
二人に選ばせてから、海美が店員をさがす。箱部とすれ違って「ありゃま」と言って頭を下げると、箱部は帽子を少しずらして頭を下げた。
「ゆぅびんきょっくでやどかりに♪」
少し汗臭い匂いを漂わせながら、箱部が自動ドアを潜って行く。店員の褌芭楓子が、サンドイッチを出していた。
海美が近づいて、挨拶すると褌芭がネームプレートを逆様にして振り返った。
「海美さん、こんちは。真さんに伝えといて、ふたふたいつものとこで」
はいな、海美が言うと依普が走って来る。
「フウさん、こんにちは。おとんに言ったんだけどねえ、ねえ、三分の二ってことはさ、あれだと百人位だよ、学校で授業中に計算したんだ!」
こら、と海美が言う。槻樺が花火を手にして焦れるようにしてレジに並ぶ。海美と依普が槻樺の元へ行くと褌芭は言った
「すごいねー、えらいねー、でも勉強してね」
「あら、電話、槻樺ちゃん、電話出て」
スマートフォンを操作して、海美が槻樺に渡す。少し腫れぼったい目を擦りながら槻樺が電話にでると、海美があれとあれと、と言って清算を済ませる。依普がマルボーロを持って笑った。三人で自動ドアを潜ろうとすると、ザザッと無線の音がして鈴の音が聞こえた。依普が振り返ると、褌芭が手を振っている。依普が頭を下げて槻樺の手を握った。冷房で冷えた身体に暑さがここちよく、涼んでいた猫が一声鳴いて歩いて行った。
角の薬屋が、水打ちをしていた。