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2024年夏ーーーー。
「いやー、寒い」
「白湯飲んでけれ」
ジワリと暑く庭に咲く向日葵に陽が射し、縁側の上の風鈴がちりんと鳴ると、礼服を着て黒ネクタイを緩めた、外外真が礼をして、茶請けを取った。割烹着姿の与位祖母さんが言った。
「話なげぐなるんて、手短にな」
「わ、さも、けれ」
箱部証が隣に正座する。
「ほうじ茶あるな」
「あい、ほうじ茶な。母さん、ほうじ茶」
「もう槻樺が泣いてしまって」
「あい、仕方ね、依普ー、槻樺のとこさ行って来い、迩菜ー」
与位が叫ぶ、母さんがほうじ茶を持ってくると、与位祖母さんがポットの蓋を開けた。
「あい、切らしてしまった、これで最後なんだよ」
「あい、仕方ね、迩菜ー、砂糖買ってきて、白砂糖」
「はーい」
子供らが走って行くと、座布団に座った箱部が言う。
「いやー、参ったな。うちらのせいだべが」
「おい」
真が制す。箱部がほうじ茶を飲み、二人とも悔しそうな顔をしながら頭を深々と下げた。
「いいお湯でした」
「ありがとうございます」
与位が割烹着の端をたもって目頭を押さえた。泣きじゃくる槻樺に依普が抱き着いてよしよしながら畳の敷居を跨いだ。祭壇の片付けも終わり、葬儀屋が鴨居に遺影を取り付けている。
「お祖父ちゃん、し、死んじゃった、ひっく、もう会えないの?」
槻樺がしゃくりあげながら、叫んで泣く。依普が言う。
「会えるよ、心の中で」
「本当?本当に?」
「大丈夫。大丈夫、遭えるよ」
依普は大きく頷いて、真を見る。
「ちゃんと想ってやんなね」
風鈴がちりんと、また鳴った。迩菜が走って戻ってきた。母さんがお釣りと白砂糖を受け取って台所に行こうとするとぱたんと崩れ落ちた。
「うわー母さん、倒れた!海美おばさーん、うちの母さん倒れた!」
「あい、せわしね、大丈夫かや?」
海美がかけより、顔を叩く。その時だった。玄関に2人の男がやってきた。
「すみません、忙しい所。警察なんですけどもね」
黒スーツ姿の男二人がハンカチで汗を拭きながらバッチを見せる。与位がよっこらしょと立ち上がり、玄関に向かった。長く話をしていたが、与位が座敷の方を見て叫んだ。
「真さん証さん、ちょとちょと」
二人とも顔を見合わせてげんなりした顔をして言う。
「ハコさん」
「おいアカ、よっこらしょ」
「お二人にお話し聞きたくて、これ、みませんでしたか?」
二人とも玄関に向かうと、子供たちが遺影に向かって話そうとか言い出して手を合わせだした。その様子を見ながら与位が窺うようにゆっくり言った。
「他殺だべが」
「検案書、みましたか?死因は老衰といいたいところなんですけどもね、パジャマの胸ポケットにこれが入ってましてね、時間かかりましたが、アーモンド臭でトリカブトです。でー」
「こっちが暁刑事さん、この人が刻さんでー、あい、知り合いだべが、でー自殺だべか」
「お、暁」
「ん-?真、刻もってる写真の小瓶、みたことねえ?」
風鈴がちりんと鳴った。それは茶色で蓋がコルクで3センチ程の小瓶だった。
「いやー、出回ってるにしてはね、ちょっとで、指紋もね検出したのが亡くなった衛さんのでね、あと少しがねー、出たんですわ指紋、欠片なんですけどもね」
二人とも顔を見合わせる。与位が「あい仕方ね」と言った。
「与位さん、これもしかして心当たりある?」
「いやなあ、みんな寝でしまってから、あたし風呂っこさ入って寝だもんな、電気消しに行ったときだば、スースー言って寝ってらっけし、鍵だばほれ、掛けた筈なんだばってな」
「まさかな」
「何年前の話や、あの」
「おいハコ」
「心辺りあるんだば、ちょっと教えてもらいってったものなー」
「んー?・・・刻、良い。また来る」
「そしたらばー」
葬儀屋が顔を出した。
「すんません、後は請求に関してなんですけども」
「あい」
迩菜が、駆け寄ってきた。
「母さん気付いた、今気付けに飲み物飲んでらの」
「今日泊っていい?何かあってもやざねし」
「ハコ」
「だってアカ、依普もいるし」
「母さんさ言ってくる」
迩菜が走って行った。ボソボソと二人で話してるのを依普が聞く。あれでねー?まさか、だって液体、どんだけ入ってらっけの、んー揺れたのは三分の二位、何人分やな、あいだばー・・・・
風鈴がちりんと三回鳴った。