序文
じわりと汗ばむ、蒸し暑い夜。一眼レフの望遠鏡を覗き込む。敢えてのネガ使用でセットした一眼レフは、ずっしりと重く手に纏わりつく。遠くで雷の音がした、一雨くるだろうか。準備していた合羽に、視線を落とす。ちりんと、鈴が鳴った。合図が来たので、到着されたようだ。ツツジの葉っぱが痛く刺さるが、盗撮には持ってこいの場所だ。そろそろだ、手が震える。雪議員の、顔が見えた。始まったようだ。何枚か撮影する。すでに飲んで酔っ払ている様子の年老いた小泉濡衆議院議員が手を挙げた。雪議員が七三分けの頭を光らせながら、テーブルの上に液体の入った茶色の小さな小瓶を置いた。何枚かシャッターを切る。雪議員の口が「これを」と言っているように見えた。阿部議員が手に取り、封筒を渡す。シャッターを切った、撮れた。雪議員の秘書がこちらを向いて何か言っている、見つかったか。雷が囂々と鳴った。音に隠れながら、その場を後にする。忘れ物はないか確認しながら、路地裏から300メートル離れた車まで走った。車に到着するとすぐ暗室まで車を走らせる。気付かれただろうか。携帯のメールを確認する、24日20時~と書かれた、メールを削除する。そして写真館の前に車を寄せながら止めた。計画通り、裏勝手口を5回ノックすると、穴の開いたTシャツを着た女が現れた。
「よ、計画通り」
と、一言伝えると、女は何も言わず奥を指さし暗室の方へと誘った。女が鍵をかける音を尻目に聴きながら、暗室に入ってすぐ現像する。現像液の匂いに吐き気を覚えながら、ネガから濾紙に写真を写す。時間をかけながら、いい写真がないかチェックして、一番良く撮れた写真を数枚乾燥させる。これを、あの人に・・・
後日。茶封筒に入れた写真を持って、喫茶店の奥の席で珈琲を飲む。郵送するとか言っていたのに、指定はこの喫茶店だった。さすがに上手く渡せるか分からないが、茶封筒をファイルに挟んで、長椅子にわざと置いて席を立った。見届けるべきだろうか、缶議員の秘書とすれ違う。やばい。手早くお会計をし、走って逃げた。その2日後、俺の携帯が鳴った。無言で電話をとると、電話のスピーカーから一言聞こえた。
「盗まれたよ、失敗」
舌打ちをして、残りの写真を郵送する。ポスト前で一つ溜息をついた。
バレてしまっただろうか、自宅に戻り、何枚か失敗した写真をシュレッダーに差し込む。ゴウと音がして、シュレッダーが写真を飲み込んでいく。溜息しか出なかった。シュレッダーのトレイを空にして、燃やすごみの袋に赤マジックで×と書いて袋を閉じ、ごみ置き場へ向かう。警察が気付いてくれるといいんだけどな。また一つ溜息が出た。
ごみ置き場の横のツヅジに目を奪われながら、スマートフォンで写真を撮る。ツツジが誇らしげに群を生して咲いていた。
想像で書いてますので、マネしないでください。by柊 蒼輝
利子死んじゃったよ