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小学校、恋がすすむ5日前!

作者: 木村友香理


 五日前いつかまえ。〜水曜日すいようび


 

 あ〜さむい。


 今日きょうはなんてさむい日なのぉ! 


 てぶくろのうえからおもわずをこすって、ランドセルをしょったまま、わたしは小学校しょうがっこう校門こうもんまえってっている。


 だれをって?


 もちろん、大好だいすききな親友しんゆうの『みっちゃん』をっているんだ。


 わたしの学校かっこうでは、あさいえちかひとたちとはんになって登校とうこうするのがルールだから、きなひと一緒いっしょ登校とうこうができないの。


 だからあさ校門前こうもんまえでは、教室きょうしつまでなかのいいお友達ともだちとおしゃべりしていこうとわせているひとたちが、こんなにさむくてもあっちこっちっているんだ。


 あ、またひとつのはんがむこうからた!


 あれは! もっもしかして『がっくん』の……。


 わたしのむねがドキンとなって、緊張きんちょうしてきちゃった。


 …………あ、なんだちがうじゃん。


 どきどきがしゅ〜んっておさまったよ。


 え? 『がっくん』ってだれ? っているのは『みっちゃん』じゃないのかって?


 おっと〜! バレちゃあ、しょうがない。


 なにをかくそう、じつはね……。


 わたし、一年生いちねんせいときからずっとおなどしの『がっくん』が大好だいすきなの‼︎ っちゃった!


 もう四年生よねんせいにもなるのに、ずっと片思かたおもちゅうなんです〜。


 でもね、こんなにながこいをしているのにわたし、がっくんとふつうにおしゃべりすることができてないのぉ〜!


 だってだって! がっくんってもうめっっちゃ、かっこいいんだもん!


 いろんなクラスにライバルがたくさんいるくらいなんだよ!


 だからさ、うだけでドキドキして、からだなんてカチンコチンになっちゃうんだって〜。


 しかも去年きょねん一緒いっしょのクラスだったけど、今年ことしはクラスがちがうというだい、だい、大不幸だいふこう! も、さいあく〜。


 あ、じつはね。みんなにはナイショにしているんだけど、いつもあさ、みっちゃんのはんよりがっくんのはんのほうがさきるのをわたしはっている!


 とあるかくじつな情報じょうほうもうからのはなしなのだ!


 ……ウソです、すみません。ただ、いままでていてってるだけです。探偵たんていみたいにかっこつけてみました。はい。


 それでさ、毎日まいにちがっくんのかおたいのと、あわよくば……あいさつでもしてこえをかけてたい!


 とおもってるんだけど、ぜんっぜん勇気ゆうきがなくてすれちがっちゃうだけなんだよね。


 それでも……がっくんがられるだけでも、しあわせ♡


 あ〜『おはよう』ってこえかけてみたいわ〜。


 それにしても、今日きょうゆきりそうなくらいさむいな……あ、鼻水はなみずてきた。


 こんなみっともないかおをがっくんにせられない!


 えっと、ティッシュティッシュ……あ、さきにてぶくろとって、あれ? スカートにけてるポシェットにないぞ? おかしいな。あさちゃんと入れたんだけど。だってママがった? っていてきたからおぼえてる……あ、あった! スカートのポケットのほうだった。えへへ——。


 わたしがよこいてはなをかもうとしたときだった。



 「おは〜。さっつん。今日きょうげきさむだね」



 校門こうもんまできたみっちゃんが、いつもどうりわたしをつけてくれて——。



 え⁉︎ みっちゃん⁉︎ しまった‼︎



 わたしがバッとうしろをふりいたら、いつのにかとおりすぎて、お友達ともだちと笑いながら校舎こうしゃほうあるいていくがっくんのランドセルをつけてしまったのだった。



 「……おはよう、みっちゃん。ふん!」


 くやしくて、めっちゃいきおいよくはなかんでやったさ。

 


 

 四日前よっかまえ。〜木曜日もくようび

 


 やっぱりね、今朝けさゆきがふったよ。


 だって昨日きのうはあんなにさむかったんだもん、ふるとおもったよ。


 おいりりの虹色にじいろのカサをさして、ゆきだろうがあめだろうが、今日きょうもわたしは校門こうもんのまえでわせているよ。


 ほかもおんなじ。


 教室きょうしつまでのおしゃべりはたのしいから、みんなおなじようにながぐつでカサをさして、だれかをっている。


 でもゆきがふってるから、おとこたちが雪玉ゆきだまつくっておたがいげまくっているな。


 さむいのによくやるなぁ。


 教室きょうしつにいくまえにびたびたにぬれちゃうじゃん。


 こないだ二年生にねんせいあめにでっかいみずたまりであそんで、運動うんどうぐつびちゃびちゃにしてたな。あれ、おかあさんとかにおこられないのかな?


 そんなことかんがえてたら——。


 「ぶえ! つめた‼︎」

 「あ、すんませ〜ん」


 おとこたちげているなが雪玉ゆきだまがわたしのかおをちょくげきしたよ!


 あぁもうさいあく! つめたい! 前髪まえがみがくずれちゃうじゃん! えっとハンカチハンカチ——おっと今日はがっくんをのがさないぞ!


 わたしがポシェットから片手かたてでハンカチをとっていたら——。



 「おは、さっつん。さむすぎるね。今日きょう体育たいいくまじかんべんだよね〜」



 水色みずいろのカサをさしたみっちゃんがもうきちゃった!



 え⁈ そんなバカなぁ⁈



 「あれ⁉︎ みっちゃん⁉︎ 今日きょうるのはやくない?」


 「はんのみんながね、今日きょうゆきだからってはやめに集合しゅうごうできたんだって。奇跡きせきじゃない?」


 「……うん。奇跡きせきだ」


 今朝けさはがっくんれなくて残念ざんねんだけど、みっちゃんといっぱいおしゃべりできたから……ま、いっか♡

 


 

 三日前みっかまえ。〜金曜日きんようび

 


 事件じけんこった。



 いままでの自分じぶん歴史上れきしじょう、こんなにぎゃーー‼︎ ってなったことがあったかなっておもったくらいの!


 それはね——。



 掃除そうじ時間じかんになって今週こんしゅう、わたしは理科室りかしつ掃除そうじ当番とうばんだったから、一緒いっしょ当番とうばんのこっちゃんとゆゆちゃんとおしゃべりしながら廊下ろうかあるいていたんだ。


 そのときにゆゆちゃんが、すごい情報じょうほうおしえてくれたの。


 「ねえねえ、明日あしたみんなで深池ふかいけ神社じんじゃにいかない?」


 「え? いつも町内ちょうない盆踊ぼんおどりするトコ?」


 「そうそう。らなかったんだけど、あそこの神社じんじゃ恋愛れんあいうん爆上ばくあがりになる神社じんじゃなんだって!」


 「ええ⁉︎ そうなの? らなかった」


 「なんかね、となりのクラスの子がね、そこでおいのりしたらきなとソッコーで両思りょうおもいになったんだって!」


 「すっごいじゃん! おめでとうだね!」


 「これ、ぜったいくやつじゃん!」


 ね、すごいでしょ。


 そしてみんなで理科室りかしつまえたらなんとなんと!


 ぐちまえに——がっくんがいたの!


 突然とつぜんだったから、ドキ〜ン! って心臓しんぞうくちからふっとんだよ!


 「あれ? どうしたの」


 こっちゃんがぐちまえっているがっくんをれた三人さんにんおとここえをかけた。


 「オレら理科室りかしつからブツをもってこなきゃいけねぇんだけど、ドアにカギ、かかってんだよ。はいれねぇ」


 「え? カギが? 先生せんせい間違まちがえたのかな? 私たちも掃除そうじしないといけないのに」


 おとことこっちゃんがそんなはなしをしていたけど、わたしはがっくんがいるから、こっそりどきどきしていたんだ。


 そしたらがっくんが、きゅうとなり図書室としょしつはいっていったとおもったら、すぐもどってきてみんなにったんだ。


 「ベランダつながってるからそこからはいっちゃえば? 理科室りかしつまどいてたし。はやくしないとやす時間じかんはじまるからさ」


 わたしは、なるほど〜っておもって、図書室としょしつにまたはいっていったがっくんをいかけて、がっくんがベランダから理科室りかしつはいっていったからわたしも一緒いっしょはいって、ロッカーからほうきをして掃除そうじはじめたの。



 がっくんはとうと……。



 たなほう先生せんせいからたのまれたものをさがしている。



 そんなうし姿すがたもカッコいいとかもう、意味いみかんないよこのひと〜。


 そんなことおもいながらほうきでゆかをはいていたら、わたしはあることがついた。


 そして、がっくんも、


 「あれ? なんでほかのみんな、ないんだ?」


 がついた。



 ん? てことは……。



 あれ? じゃあ、いま理科室りかしつではわたしとがっくんが二人ふたりっきり——。



 ぎゃあああああーーーーーーーー‼︎



 こころなかでびっっっくりしちゃったわたしは、ほうきをったままからだが、かちんこちんになってしまった!


 「みんなどうしたんだろうな」


 がっくんがいてわたしにはなしかけてきてくれたのに——。


 「う……うん……」


 わたしってば、うつむいちゃってそんなお返事へんじしかできてない!


 はわわわ! なにか、なにかしゃべらないとわたし‼︎


 がっくんが不思議ふしぎそうなかおでこっちてるよぉ〜。


 はっはずかしい! でもぉ! しゃべりたいぃ!


 ほんとだね〜、みんなこないね〜とか、えばいいじゃん! わたしったらさぁ‼︎


 こうにいるがっくんとのあいだに、いきができないくらいの緊張感きんちょうかんてきてしまった!


 すると、ふいにがっくんが——。


 「………………」


 かお出窓でまどけたと思ったら……小走こばしりに理科室りかしつってしまった。



 「ぶっはあぁぁぁぁーーーー‼︎」



 一人ひとり理科室りかしつのこったわたしは、でっかくいきをはいてがっかりした。


 「あ〜、もぅイヤ……この性格せいかく


 わたしもこっちゃんみたいに、きなひとにはぐいぐい、いっちゃうタイプだったらよかったのに……。


 むっちゃくちゃすんごいだいチャンスがぁ〜。


 わたしはあんまりにもショックで、ほうきをにぎったままうごけないでいたら…………。



 「——ねえ」



 ドキン!



 「さっつんも一回いっかいもどったほうがいいよ」


 がっくんが理科室りかしつ出窓でまどもどってきたぁ‼︎


 わたしのからだ緊張きんちょうしてまたカチンコチンになってしまった。



 「うん……」



 がんばってがっくんとわせたけど、かお筋肉きんにくきつってるよぉ〜。


 どんなかおしてんだわたし⁈ ヤバくない?


 今度こんどはがっくん、すここまったかおになっている。


 そしてまた、図書室としょしつほう一歩いっぽした——とおもったら。


 「…………」


 からだきをえて、出窓でまどから理科室りかしつにもう一度いちどはいってくると、わたしのまえまできてっていたほうきをパッとっちゃった。



 「え?」



 おどろいているわたしをよそに、がっくんはほうきを掃除そうじロッカーへポイッとほうんで、バンッてとびらめた。


 すると、片手かたてでわたしの手首てくびをつかんで——、



 出窓でまどまでっていったのだ!



 きゃぁぁぁぁぁーーーーーーーー‼︎



 わたし、今、がっくんと、手ぇつないでるぅーーーー‼︎



 頭の中がっ白になっちゃったわたしは、このあとの事、ほとんどおぼえてないんだ。


 たしか……一緒に理科室りかしつ出窓でまどからベランダに出て、図書室としょしつ出窓でまどまで来た時には手がはなれたと思う。

 

 だって図書室としょしつの中には、みんながいたからね。

 

 


 二日前ふつかまえ。〜土曜日どようび

 

 わたし、みっちゃん、こっちゃん、ゆゆちゃんの四人よにんは、真剣しんけんかおよこならんでいる。


 午後ごごのわりとあったかい日差ひざしが深池ふかいけ神社じんじゃ鳥居とりいらしていたよ。


 おさいせんも、こころも、準備じゅんびはバッチリ!


 「じゃあ、くよ」

 「うん!」


 四人よにんでおじぎをして鳥居とりいをくぐると、あらって神様かみさままえまできた。



 「おさいせん、いくられる?」

 「十円じゅうえんかな」

 「ふふ〜ん、わたしは『ごえんがありますように』ってことで、五円玉ごえんだま♡」

 「あ! わたしもそれに……うわっ五円玉ごえんだまないじゃん」

 「わたし、たくさんもってるから、かえてあげるよ」

 「ありがと〜♡」



 みんなで五円玉ごえんだまをにぎりしめたら、すずをガランガランらして、おさいせんを入れて、おじぎして、をパンパンらしたら……。


 がっくんとふつうにおしゃべりできますように! 両思りょうおもいになりたいです‼︎


 ぎゅっとをつぶってわたし、真剣しんけんにおねがいしたんだ。


 みんな真剣しんけんになりすぎて、けっこうながくおいのりしちゃってさ、わたしが一番にわって目をけたら、横にいるみんなの顔、ヤバい事になってたよ。


 こうのほう神主かんぬしさんがこっちを見てやさしそうなかおわらってた。


 ん? わたしのおねがい、バレてないよね? 

 



 そのよる


 ママとおにいちゃんとわたしで、ばんごはんのカレーをべていたよ。


 そしたらママがね、


 「今日きょうはお友達ともだちなにしてあそんだの?」


 って、なんとなくいてきた。


 だからわたしは、神社じんじゃったことはなしたんだ。


 もちろん、おねがいはぜったいナイショ♡


 そしたらよこいてたおにいちゃんが、大変たいへんことってきたんだ!



 「午後ごご神社じんじゃっても無駄むだじゃん」

 「ん? なんで?」

 「だって、神様かみさまって午前中ごぜんちゅうにしかいないんだろ?」

 「え⁉︎ そうなの⁈」

 「らん」

 「どっちよ⁉︎」



 わたし、びっくりしちゃっておもわずおにいちゃんのうでをガシッとつかんでからだをブンブンゆらしちゃった。


 そしたらママが、


 「こら、さっちゃんやめなさい。こぼれる。……そんなことないんじゃない? まあ、こころがこもっていれば大丈夫だいじょうぶでしょ」


 ってうんだけど、ママはおおざっぱな性格せいかくだからなんだか心配しんぱいになってきちゃう。


 とりあえずおにいちゃんのうでをはなしたとき廊下ろうかこうからドアのまるおとひびいてきた。


 「あれ? パパなの?」

 「そうじゃない? お風呂ふろはいってからごはんべるって、さっきってたから」

 「あ〜、おふろ——」


 いかけたわたしは……ふと、とんでもないことおもしてしまった!


 そういえばさっきわたしがお風呂ふろはいったんだけど、昨日きのう理科室りかしつでのことおもしちゃって、うきうきしながらからだあらっていて……、チョーシにのってくもったかがみに『がっくん♡ 』 っていた——。



 「ぴぎゃーーーー‼︎ わすれたぁ‼︎」



 あ、あんなのパパにられたら、わたし、ぬぅーー‼︎


 いきおいよくあががったせいでたおれたイスにかないで、わたしは全力ぜんりょくでお風呂場ふろばはしっていくと、いそいでガチャって洗面所せんめんじょのドアをあけた。


 すると——、


 「おわぁ‼︎」

 「ぎゃあ‼︎」


 お風呂ふろはいろうとしてすっぱだかになっていたパパがいて、おもわずおたがいにさけんでしまったよ。


 だけど、わたしはひるまない!


 あわててふくをひろってまえかくしているパパをしのけると、お風呂場ふろばのドアをちょっとだけけて、なかにシュバってはいったんだ。


 やっぱりのこってたかがみ文字もじを、いきおいよくでゴシゴシゴシーー‼︎ ってすと……、


 「ふ〜。あっぶな〜」


 ホッとひと安心あんしん


 「お〜い、さむくてにそうなんだけどぉ〜」

 あっ、そうだった。パパがこおってしまう。


 わたしはお風呂場ふろばて、うしろをきながら洗面所せんめんじょのドアまで、よいしょよいしょとすすんでいると、


 「なんだ。ひさびさにパパと一緒いっしょ風呂ふろはいんの?」


 とかってきたから、



 「やだーーーー‼︎」



 ってさけんでげてやったんだ。

 

 


 一日前いちにちまえ。〜日曜日にちようび

 

 「さっちゃん、ものるから一緒いっしょこうよ」


 「やだ。いま、ゲームちゅう


 「でも、いい加減かげんつぎふくわないと。もうあれちいさくなったんでしょ?」


 「じゃああとでネットでうもん」


 「もう! ……あ、やっぱり一緒いっしょかないと」


 「ん?」


 そうってママがわたしの部屋へやに入ってきて、つくえうえいてあったほんゆびさした。


 「図書館としょかんほん期限きげん今日きょうまででしょ?」


 「じゃあママがついでにかえしてきて」


 「い、や、だ」


 「え〜、いいじゃん! あ、じゃあ、こうしない?」


 ベッドのうえにいたわたしは、ゲームよこいてりると、ゆかにうつぶせになってうでてた。



 「わたしがうでずもうでママにったら、かえしてきてよ」


 「……何言なにいってんの? この十年じゅうねん、あんたたちっこしつづけてきたこのうでに、ゲームのコントローラーよりおもいものをたないあなたのほそほそのうでてるとでも?」



 ママがはなわらってきたので、わたしもニヤッてわらってやったんだ。



 「ふふ〜ん、もうあのときのわたしじゃないもん。こないだ部活ぶかつでみっちゃんに、『高速こうそくでバトンをまわおんな』ってわれたんだよ。ママがったらおとなしく図書館としょかんって、ものもついていってもいいよ」


 「…………」



 ママのかおから笑顔えがおえて、ゆっくりとうつぶせに寝転ねころがると、うでててわたしのをとった——。

 

 


 ピッピッピッ——。


 「はい、すべ返却へんきゃくになりました」



 図書館としょかん受付うけつけで、おねえさんが返却へんきゃくしたほんのバーコードをとおわったので、わたしはあたらしくほんりようと、本棚ほんだなかってあるした。


 ママはおく書庫しょこくからって、さきっちゃってる。


 そうえば、あの大人気だいにんき科学かがくマンガ、つづきないかな〜。


 そうおもいながら、横並よこならびのたなたなあいだとおけてよこいたら——。



 がっくんとった。



 ——って、がっくん⁈ うそ⁉︎


 わたしたちはおたがいにあっ……ってなっておどろいちゃった。



 そして、やっぱりわたしのからだはカチンコチンにかたまってしまったよぉ〜。



 わああ! おやすみののがっくんだぁ! いつでもカッコいい‼︎


 はなしかけたいけど、図書館としょかんなかしずかにしないと……もとよりくちうごかないけどね!


 ど、どうしたらいいんだぁ! あ、あいさつぐらいしたい‼︎ あぁ〜、それならもっとおしゃれしてくるんだった〜、前髪まえがみんでない? でも、こえかけるんだ自分じぶん! やってやれぇ‼︎



 ……でもやっぱりわたしのからだうごかなくて、まばたきしながらうつむいてしまった。


 するとがっくんが……、こっちにあるいてきた!


 し、心臓しんぞうが、ど、ドキドキだぁ!


 そして、そのままがっくんは、わたしのよことおりすぎる——。



 「…………よぉ」



 すれちが瞬間しゅんかん、わたしにちいさなこえであいさつしてくれた!


 はっとかおをあげてわたしはふりいたけど、もうがっくんはたなこうにっちゃった。


 え? これは、おいかけていいのか⁈ でも、へんなやつとかおもわれるかな?


 くぅ〜っ! どうしよう‼︎ あいさつかえしたいよぉ‼︎



 「……こんにちは」


 結局けっきょくいかける勇気ゆうきのないわたしは、いまさらだけど……そのでぼそっとあいさつしたんだよ。

 


 

 そして、今日きょう! 〜月曜日げつようび

 

 ゆっくりとのぼっているおさまがまぶしくなってきたあさ


 わたしは自信じしんにみちあふれたかおで、いつものように校門こうもんまえっている。


 大丈夫だいじょうぶだ。


 今日きょうは……大丈夫だいじょうぶ


 今日きょうこそ…………大丈夫だいじょうぶだ!


 昨日きのうよるまえにいつもの練習れんしゅうをめっちゃした。


 最初さいしょは、大好だいすきなぬいぐるみ。


 つぎにりっちゃん人形にんぎょう


 そして最後さいごに、そのボーイフレンドのれっくん人形にんぎょう相手あいてに、がっくんとのおしゃべり作戦さくせんを!


 勉強べんきょうではまずやらない、『おさらい』をしよう。



 まずは、『おはよう、がっくん』だね。


 つぎは、『昨日きのうったね〜』ってかるかんじで。


 そして、『がっくんって、図書館としょかんではどんなほんりるの?』……だね。



 よし、カンペキだ! バッチリだ!


 今日きょうこそはいけるがする!


 神様かみさま! あとはわたしに勇気ゆうきをください‼︎


 緊張きんちょうしてきたら、なんだかあつくなってきたな。


 わたしがつけていたてぶくろをぬいで、上着うわぎのポケットにねじこんでいると……。



 あっ!

 きたきたきたきたーーーーーー‼︎



 がっくんがはんのひとたちこうからあるいてくるのがえる。


 そのはんちかづいてくるにれて、わたしの心臓しんぞうがドキドキしてきた。


 今日きょうもなんてカッコいいんだ、がっくん! 


 もうすぐそこまであるいてきた。


 『おはよう、がっくん』だ!


 うつむくな自分じぶん! いま、がんばるんでしょ!


 がっくんがお友達ともだちわらいながらわたしよこあるく。


 さあ! ってよーー‼︎ じぶーーーーん‼︎



 「…………お……」



 ちょっとだけこえたけど……。


 づくはずもないがっくんが、とおりすぎていった……。



 あぁ〜。やっぱり今日きょうもダメだったぁ〜。


 せっかくはなすネタがあっても——って、ん?


 わたしがうしろをくと、校舎こうしゃほうあるいていくがっくんが、てぶくろをぬいで、それをポケットにれたんだけど——。



 あっ! がっくん、てぶくろかたっぽとしたぁ!



 ポケットにはいらなかったくろいてぶくろがポトッと地面じめん着地ちゃくちした。


 こ、これは! まさかのチャンス‼︎ 神様かみさまがくれたやつだコレ‼︎



 わたしはとっさにパッと走り出した。



 わたしがひろう! 

 ひろってみせる!


 そして……こえをかけるんだぁ‼︎



 ぱっと、ワンちゃんのおととしものにもえてしまうそのくろ毛糸けいとのかたまりに、まわりの子達こたちづきはじめている!



 ダメだ! わたしがひろうのぉ‼︎



 ちているてぶくろのよことおぎようとしたおんなが、それにがついてばそうとした。



 うおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー‼︎



 わたしはをのばした——。

 

 


 「がっくん!」


 けてあるいていたがっくんがピタリとまり、こちらをふりむいた。


 わたしはちかくまであるいてくと、


 「はい、としたよ」


 ひろったくろいてぶくろをさししたんだ。


 そしたらがっくんが、



 「あっ、ありがと。さっつん」



 そうって、手袋てぶくろをわたしのからうけとって、


 そしてそして——、



 にっこりわらったのぉぉーーーー‼︎



 くぁっこいぃーーーーーー‼︎



 だからわたしも、ここでいま最大さいだいの『勇気ゆうき』を——使つかった。



 これまでに、ひそかに練習し続けてきた。


 かがみにむかって何千回なんぜんかい笑顔えがおつくって、


 ぬいぐるみたち何万回なんまんかいはなしかけて手伝ってもらった!


 おにいちゃんにうっかりられたときは、キモいとかわれてブチれてやったけど。



 だから大丈夫だいじょうぶ



 わたし、うまくできる!



 それにたとえながされてもんだりしないよ!



 よし! いまだ‼︎



 わたしはかるくいきをすうと、



 「おはよ、がっくん」



 そうって、


 めいっっぱい! わらったよ‼︎



 がっくんは、一瞬いっしゅんだけ驚いた顔になったけど、



 「ああ。さっつん、おはよ」



 わたしのて、もう一度いちどわらってあいさつをかえしてくれたんだ‼︎



 や…………たぁーーーーーーーー‼︎



 あたまなかのわたしは、おやまのてっぺんでちょうさけんでしまったよ。


 そしてがっくんは、そのままけてとなりおとこたちとまたおしゃべりをしながら、げたばこあるいていっちゃった。



 「やった……ついにやった……」


 これで明日あしたからふつうにおはよってってもへんじゃないよね。


 わたしがむねをどきどきさせて、そのっていたら……、


 「あれ? さっつん、がっくんのこと大丈夫だいじょうぶになったの?」


 いつのにかとなりにていたみっちゃんが、そうふしぎそうにってきたの。



 「大丈夫だいじょうぶって?」



 わたしもふしぎになってかえしてみたら、


 「だって、さっつんってがっくんがきらいじゃないの?」


 と、みっちゃんがとんでもないことしたんだ!



 「えぇ⁉︎ なんで⁉︎」



 おどろいたわたしに、


 「だってがっくん、よくうもん。『おれ、さっつんにきらわれてんだよね〜。全然ぜんぜんしゃべってくれないし』って。こないだの金曜日きんようびもそう言って、なんかしょんぼりしてたし」


 っておしえてくれたんだ。



 「ち、ちがうちがう! ちが——」



 もう、いきまっちゃうぐらい、わたし、びっくりしちゃって!


 それでね、うっかりみっちゃんをいて全力ぜんりょくはしりだしちゃったの、わたし。


 がっくんのいる、げたばこかって——。



 うわぁ! 神様かみさま! わたしにもっかい『勇気ゆうき』をくださいぃーーーー‼︎ てね。



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― 新着の感想 ―
うわぁ… 心の中ではめちゃくちゃお話し出来てるのに…残念(´・_・`) そして嫌われてると思われて…ちょっと悲しいよね。 好きな男の子を前にすると話せなくなってしまうさっつん。 さっつんのドキドキがい…
[良い点] さっつんの話しかけるような語り口に、冒頭からラストまで惹き込まれました。 校門前でみっちゃんを待っているようで、心はがっくんを待っていたり、お風呂場の鏡に文字を書いたり、一つひとつの様子…
[一言] さっつんの乙女心がかわいいですね。 好きなひとの前だとドキドキして上手く話せなくなっちゃうの、わかるかも。 がっくんもさっつんのこと意識してるのかな、なんて思いました。 甘酸っぱい気持ちにな…
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