第三話 エンシェントドラゴン
――パパパパー、パパパパー、パパパパーン!
「シェリー、いい加減にしなさい。この男は、あなたを殺そうとしたのよ」
「違う! ヒカルは! 本当にお人好しなの! だから、あのサークルは、アタシたちに向けた魔法じゃないわ!」
『皆様、広場にお集まりいただきありがとうございます。まもなく勇者ヒカル様の顔出しです』
――オォォォォォォォォ!
「じゃあ、どうするんだい? 本当にコイツと結婚なんかするのかい?」
「ええ」
(ここは……)
目覚めたヒカルがまず最初に気が付いたのは、小さめのベッドに体が括りつけられていた事だ。
(……逃げ出すのは不可能そうだな)
「ヒカル起きた?」
「むがむがむが」
「じゃあ、みんなに挨拶するよ」
無駄なあがきの中、六畳くらいの部屋の床がどんどん上昇していく。
天井がオープンカーの様に開いて、快晴が顔を出す。
「みんなぁ!」
その部屋にいるのは、シェリーとミトおばさんと俺。
勿論その高さから見える広場には、アリの大群の様な人たちが集まっていて、まさに他人事の様に満面の笑顔だった。
「もしかしてあそこで寝ているのが勇者様か?」
――勇者! 勇者! 勇者!
「ヒカル! 準備はいい?」
「むがむがむが」
(なんで俺、そんなに驚いていないのだろう)
「病める時も健やかなる時も……」
「アタシ誓います!」
「むがむがむが」
(よっしゃ! これで日本にいた時の夢は叶った!)
「ゴホッゴホッゴホ」
「ヒカル?」
(って、俺、何寝ぼけてるんだろう)
「泣いているの?」
「泣いてねーよ。それより……」
『なんだなんだ』
「お前たちよく聞け!」
『なんだ。なんか勇者様がおっしゃられるぞ」
ようやく猿ぐつわを解いた俺は、まだ括られているベッドの上からそこにいる全員に聞こえる様声を張った。
「お前たち馬鹿だわ!」
『はぁ?』
「俺は、勇者じゃねぇよ」
『そんなはずない。そのツートンヘアーは、何千年と続く神々の世界で見つかった古文書の通りだ。……ってアレは?!』
――ギャオーンギャオーンギャオーン!
『え、エンシェントドラゴン?!』
「たまたままえすがいたから一番になれたYouTuberだ!」
(なぁ、まえす? もしお前が俺より後に生まれていたら、お前がヒカルって呼ばれてたのかな? それともYouTubeなんてやってなかったのかな? あーあ、もし、この世界にも神様がいるなら、俺にもう一度YouTubeをやらせてくれ。勿論、カメラを持つのはまえす! お前の仕事だろ? そして俺たちで、絶対一番のYouTuberになるんだ)
「シェリー?」
「何ヒカル?」
「お前は一体誰の転生なんだよ」
「……」
――ギャアギャアギャア
「その前にこのドラゴンをどうにかしないとな」
――きゃー
広場にいた人々は、慌てて、建物の陰に隠れる。
「なんだ。最初っからバレてたか……」
「やはりYouTuberか?」
「いや、正確には、いつかナンバーワンになるYouTuberのカメラマンだ」
ゆっくり優雅にエンシェントドラゴンがヒカルたちのいる城下町一番の塔に向かってくる。
「なら」
「なら?」
「俺とお前で、この世界で一番のYouTuberになるしかないな!」
――サークル!
(もしお前が信じられるものが無いなら俺を信じればいい)
「ヒカル。そんなの分かってるよ」