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聴こえるのは竜の声。  作者: 四季彩竜志
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第二章「覚醒」

 家に帰って、寝台に横たわっても、響の体調不良は治らなかった。

いろんな場所に連れ回した自分の所為かと、酔いが醒めて看病しようとする笹に大丈夫、と表情で教えて家に帰した。

 原因はわかっている。

 あの八咫烏だ。

 濁った目は村で飼われている竜のチョウジも同じだが、八咫烏のが欲に塗れた不透明な眼だとしたら、チョウジは老いながらも包みこむ優しさを持っている眼だった。

 不意に、チョウジに会いたくなり、家を出ようとした時、カァカァという鳴き声が聴こえ、窓からまだ夜中であろう空が真昼間のようにオレンジ色に染まった。

 その時、響は昔、旅人から聞いた言い伝えを思い出した。


「嬢ちゃん、八咫烏は太陽の化身だよ」


 その旅人は様々な知識を持っていて、響が食料を与える代わりに本には書いて無いような難しいことも教えてくれた。

その言葉を、何故か今思い出したのである。


玄関を開けると、いつもは藍色で月が浮かんでいる空とは真逆で、燃えるような赤だった。カァカァというよりもギャアギャアと鳴く声も聞こえる。

それを見て、急いで家の横の竜達が住む湖に向かった。

 竜達は繋がれている鎖をギチギチと引っ張り、断ち切ろうとしていた。

 それを見て、響は、絡まった鎖を解こうとした。

「もう遅い」

 背後からいきなり声を掛けられ、驚いて振り向くと、先程八咫烏を肩に止まらせ、顔にターバンを巻いていた男が立っていた。

 思わず、身構えるが、男はいとも簡単に響を湖に蹴り落とした。派手な水飛沫が上がる。

「どうせ、口など利けぬ童など、竜に喰われてしまえ」

 響が浮かんで来ないのを見ると、男は鼻で笑って、去っていった。





……ひびき。





 響は湖の水底まで沈んでいた。

竜達も、動かない響の衣服を破らないように咥え、水上に戻そうとしていた。





…響。





 チョウジが背中に気を失ったままの響を乗せ、水上に戻す。





「「「「「「「起きなさい」」」」」」」



 響は、パッと目を開いた。口から、肺に入っていた水を吐き出すと、ゴホゴホと大きく咳き込む。

『響、大丈夫か?』

 響がむせながら、チョウジの声に頷く。すると、ヒーラーと呼ばれる癒しの力を持つ水色の目をした竜、ユウリが自分の青白い鱗が輝く身体で響の頬を撫でる。

 すると、濡れていた響の洋服が乾き、むせていた息も治ってきた。

「…ありがとう」

 響の喉から数年振りに言葉が発せられた。

『『不言(ふげん)』の呪いも解けたようだな』

瞳が今の空を覆う炎のように赤く、攻撃的な目つきのミシキが、(ごう)と闘犬のように吠えながら、自分を繋いでいる鎖を千切ろうと身体を振るう。鎖が鱗を傷つけ、赤い色が水面に流れる。

 シャンシャンと鳴る捕獲用の鎖を見て、響は決心した。

 竜は危ない。だから、『捕獲しておくべき』という村の規律を破るということを。

「待って、今離すから。だから、『不言』の呪いって何かを教えて」

 七体の竜を繋ぐ鎖を解きに、大きな紺碧色の湖にドプンと潜る。


『『不言』の呪いは、元々言葉に力を持つ人間に掛けられる『呪い』よ』


 元々、『おしゃべり』だったレイが水中に潜りながら、話してくれた。

『あたしたちがいくら響に声を掛けても、返事を出来なかったのはその所為。もう、あたしがいくら話しかけてもダメだったもの。余程、術の掛け方が上手かったのね』

 レイが、鎖の解くところまで、響を誘導した。

 …あった。鎖が、7つある。

 知恵の輪のように絡まって、解きにくくなっているそれをガチャガチャとやっている内に、息が続かなくなってきた。

 …一回、水上に戻るか、そう思った時、ふわりとシャボン玉のように虹色に光る空気の泡が降ってきた。

『響姉ちゃん!』

 上を向くと、幼い竜コンビのメタとウロが空気の泡を響に向かって吐いていた。

『これなら、息できるでしょ?ボクたち、考えたんだよ!』

 シャボン玉のようにぷかぷか浮かぶ空気の泡の中に入ると、地上にいるよりも、いや、地上よりも呼吸がしやすかった。

「ありがとう!」

 それから、響は空気の泡と鎖を往復しながら、水草の絡みついた鎖を四苦八苦しながら解いていった。


 それから数分後、鎖の絡まりが取れて、鎖を湖底に繋げている杭が露わになった。


 杭は、木で出来ていて、何百年と水中にあった為、腐食していて鎖を解くより簡単に引き抜くことが出来た。

『よくやった、響!早く戻ってこい、逃げんぞ!』

 ミシキが笑う声が聞こえた。響も水上へ戻った。

 

 ぷはぁ、と久しぶりに本物の空気を吸った、そこにあったのは、阿鼻叫喚の地上だった。

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