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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第7話 月が輝く夜に2


「……」

 

 戻らない。

 じゃなかった。

 戻れない、と言った。


「……ちょっと、意味わかんないんですけど」


 私はセオ皇子を見たまま呟く。

 そもそも。

 もう深夜に近い。

 今まで聞かなかった私も私だけど。

「帝都に戻れないって、どうゆう事ですか?」

「……伯爵には、適当な理由で説明がされているだろう。心配することはない」

 話を逸らすようにセオ皇子は立ち上がると、私に手を差し伸べた。

 私はその手を借りて立ち上がる。

(いや、そんな事ではなくて)

「瞬間移動で帰れば、すぐじゃないですっ、かっ!」

 そのまま急に抱き寄せられて、語尾が上がってしまった。

 慌ててセオ皇子を見上げる私の瞳に、彼の真っ直ぐな瞳が飛び込んでくる。

 その真剣な瞳に、胸が大きく高鳴った。

 けどっ。

 そんなことより。

「今は、無理だ」

「……え?」

 はっきり伝えられる言葉に、戸惑う。

浅紅せんこうの月が昇る日は、能力が使えない」

「……使えない?」

「ああ、そのことを失念していた。明日の昼過ぎまで、帰れない」

 はぁ、と、セオ皇子は小さな息をこぼした。

「カッとした感情のままに、ここに連れてきてしまって、すまない」

「……」

 思いがけない言葉に、目が見開いてしまう。

「人の気持ちが読めなくて、ここまで焦るのは初めてだ」

 目の前で困惑するセオ皇子が、信じられない。

 今まで、横柄で、自信たっぷりで、嫌とは言わせない、権力者。

(超能力が使えないってのは、ともかく。戸惑っているのは、私の気持ちがわからないから……?)

「……」

 変だと、思っていた。

 いつもみたいに大きなこと言いながら、どことなく様子を窺われてた。

 普段なら聞える声が聞えなくて、心配してたの?

(自分が、私に、どう思われてるか……?)

「……」

(聞えたら聞えたで良いことないのに、厄介な能力ね)

「だから、怒るなよ」

「え……?」

 思いがけない告白に、油断していた。

 セオ皇子の腕の中に居たのに。

 真っ直ぐな瞳が近づいてきて、引き込まれそうになる。

「ん……っ」

 セオ皇子の唇が、私の唇を塞いだ。

 重なる熱が伝わって、思わず強張る体に変な力が加わった。

 ただ、早なる鼓動だけが私の耳に静かに届く。

「……」

 セオ皇子は私から離れると、そのまま顔を私の肩にうずめる。

「男がいるとは、聞いていない」

 と、ぶっきらぼうに告げられる言葉に、驚いた。

 それがすぐに、スコット様のことだと気が付かないほどに、唐突で。

 傷心?

 落胆?

「ん? あれ……? 嫉妬?」

「っ!」

 私を抱きしめたまま、セオ皇子の身体がビクッと震えた。

「……」

(初めて出来た彼女に戸惑ってる中学生みたいなのに、抱きしめたりキスしたりするのは平気なのかな?)

 ちょっと複雑な心境になりながら、私は苦笑する。

「……図星、ですか?」

「……」

 無言のまま、私を抱きしめる腕に力が入る。

 私は思わず、ポンポンとセオ皇子の背中を軽く叩いた。

「男って言われても、困るんですけど」

 離れようとしないセオ皇子は、顔を伏せたまま、会話を続ける。

 私の顔が見たくないのか、

 自分の顔を見られたくないのか……。

「お前を迎えに行くって約束したんだろ?」

「……」

 スコット様を思い出した時の私の記憶を、セオ皇子も見たのかもしれない。

「それは、幼い頃の口約束でしたし。……そもそも、そんな昔のこと、忘れてましたから。10年も前の事なので」

「……」

「……」

 無言の返答に、どう伝えたら信じてもらえるのか悩む。

(……調子狂うなぁ)

「その、グリーン伯爵の令息との間に、情はあるのか?」

「情?」

「お前は、好意を……愛しているのか、その男を?」

「え?! 愛ですか?!」

 突然の言葉に、つい大きな声を上げてしまった。

 驚く私の体を、セオ皇子はまたグッと抱きしめなおす。

 まるで、逃がさない、と言われているように。

(逃げないのになぁ……)

「好意はあっても、愛はありません。まあ、お父様が話を進めてきたのは、驚きましたけど」

「しかし……、相手は違うようだが?」

「んー……、でも、スコット様は、私を妹みたいにしか思ってないと思うんですよね」

「……信じるぞ」

「はい」

「……」

「……」

(本当に、なんか、弱弱な感じが……。でも、可愛いかも)

「なら、お前は俺を受け入れるんだな?」

「……」

 んー、と、私は頭を傾げた。

「私はまだ、皇子をどう思っているかわかりません」

「……セオ」

「え? ああ……。このセオに対する私の気持ちが、ただの好意なのか、愛に変わっていく感情なのか。まだ判断できません。だから、もう少し時間が欲しいです。……とっても、近いとは思うんですけど」

「……近い?」

 私の言葉の意味を確かめようとしたのか、セオは私の肩をつかんで離れた。

 セオの顔が再び視界に入る。

(……これは、顔が見れないままの方が良かったな)

 紅潮する自分が分かって、ますます恥ずかしくなる。

(全身、ゆでタコだ……)

「い、や、じゃなかったのでっっ」

 そう言って、私は両手で自分の顔を隠した。

「セオとのキス、私、嫌じゃなかったっ、むしろ……っ」

 イヤイヤと顔を隠しながら横に頭を振る私の両手首をつかまれて、セオに手を顔からはがされた。

「っ!」

 あわあわする私に、いつものセオの笑みが飛び込んできて、動けなくなる。

「みないで……っ」

(そんな笑顔のイケメンに間近に迫られたら、キュン死するっ)

 ギュッと目をつぶる私に、

「お前、可愛いな……」

 セオの色っぽい声色が降りかかる。

「っ!」

 再び腰に回された左手で引き寄せられ、セオの右手が私の頭を支える。


 さっきのキスとは違う、深くて甘いキスが、私に注がれていた。


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