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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第44話 懐かしの我が家

 お兄様からの提案もあり、ひとまず私たちはクロフォード伯爵領に向かうことにした。

 伯爵邸に着いた頃にはすっかり日も落ちていたけれど、使用人たちは快く私たちを出迎えてくれる。

 その中で、お兄様が領地の騎士団に警備を十分にするように指示してるのが見えた。

「……」

 お兄様はルーカス公爵から手紙をいただいたと言っていた。

(直接、公爵に会ったわけではないのよね……?)

 ザワつく胸を抑えて、私は伯爵領の自室に向かう。

 考えなくてはいけないことがたくさんあるはずなのに。

 久しぶりのお家は気が緩む。

 しかも、馬車での生活が続いていたから。

「っ!!」

 自室に戻ったと同時にベッドにダイブ。

「は~~~ぁあ。癒される……」

 ふかふかベッドにうずまってしまうと、もうピクリとも動けなかった。

(セオは当分、解放されないだろうし)

 明日からの隣国への護衛をどうするかの相談をするために、セオは一応お兄様と執務室に向かった。

 護衛もいらないし、私たちだけなら隣国に今すぐにでも行けただろう。

 到着するだろう頃に隣国の城門をくぐればいいだけ。

 そうもいかなくなったのは、全部ルーカス侯爵のせいだけどっ。

 一瞬、ムカッとしたものの、

「……」

 久しぶりの我が家への安心感からか、どっと疲れが出てきた。

 ベッドに横になっている私の頭に、セオの『安否確認』の声がする。

 伯爵邸に居れば大丈夫。

 なんてこともないのかもしれないけど、とにかく、疲れた。

 セオの声を聞いたまま、私はゆっくりと眠りに落ちた。


 目を覚ましたのは、まだ薄暗い夜明け前。

「……」

 あのまま、寝ちゃったのね。

 髪をかき上げながら重たい体をベッドの上で起き上がらせると。

「……っ?!」

 いつの間に来ていたのか、私の隣でセオがすやすやと眠っていた。

 同じベッドで寝ていたことにも驚いたけど、それ以上に。

「……」

(セオも疲れてるよね)

 普段以上に熟睡している感じがなんだか新鮮。

 思わず微笑んでしまう。

 その、無防備な寝顔を眺めているのもいいけど、セオを起こさないように、私はそっとベッドを抜け出る。

 近くにあったショールを手に取ると、私はそっと部屋の外に顔を出した。

「リリア様? どうかされましたか?」

 部屋の外に立っていたエースと目が合う。

(やっぱり居るよね)

「夜風に当たりたいのだけど」

 と、私の上目遣いな言葉に、即座にエースの顔が嫌そうにゆがむ。

(相変わらず、すぐ顔に出るのね)

 呆れた眼差しを向けられているのに気が付いて、エースは慌てて表情を取り繕う。

「…庭に出ると? それはセオ殿下がお許しにならないのでは? 辺りもまだ真っ暗ですし」

 と、促される部屋の窓から見える外は、まだまだ暗い。

「……だよね」

 と、もっともな返答に私はため息を付くしかない。

 私の部屋がある一帯にバルコニーはない。

 一番いい場所はお兄様の家族が使ってるから、私の部屋があるここは、かなり簡素なつくりだった。

 部屋の窓を開けてセオが起きるのも嫌だし。

「せめて、殿下が起きるまで待たれては?」

「……」

 エースの言葉に頷いて、おずおずと私はベッドに戻る。

 そんな私を見て、明らかにホッとしたエースには気づかなかったふりをしておこう。

 そんな事を考えながら、セオを起こさないように気を付けてはいたのに。

「っ!」

 ベッドに横になろうとしていたところを急に抱き寄せられて驚いた。

「ごめんっ! 起こしちゃった……?」

 セオの腕が私の腰に添えられるが。

「……」

 セオからは穏やかな寝息しか聞こえなかった。

(……寝てる?)

 本当に、ここまで熟睡してるなんて、珍しいな。

 と、思いながらも。

「……」

(あったかい……)

 セオの体温に癒されながら、私は再びまどろんだ。


 次に目を覚ましたのは。

「……」

 すでに高いところにお日様が居た。

「え-、寝過ごした……?」

 ごそごそとベッドで動いていると、隣で寝ていたセオが寝ぼけた声を上げる。

「……リリア?」

「あ、セオ。……起きる?」

 と、声をかけるものの。

「ん……、もう少し……」

 重たい瞼が開かないようだった。

(本当に、珍しいな……)

 こんな状況下で、セオが熟睡してるのが意外だ。

 いつも、熟睡するのはセオのお母様の公爵邸で過ごしている時ぐらいで。

 ここまで安心しきって……?

 違和感を感じている私の思考を遮ったのは。

「リリア様、起きられましたか? クロフォード様がお見えですが」

 と、部屋の中を探るようにかけられたエースの声だった。

「お兄様が?」

 私は再びショールを手に取ると、そっと扉を開ける。

「おはよう、リリア。よく眠れた?」

 そこには、にこやかなお兄様が立っていた。

「おはようございます、お兄様。少し、ゆっくりしすぎたみたい」

 私が恥ずかしそうな苦笑を浮かべたのを見て、お兄様は満足そうに微笑んだ。

 その手が、私の頭を撫でる。

「もう、小さな子供じゃないです」

 少しムッとした表情を浮かべる私に、お兄様は困ったように笑う。

「ごめんごめん。俺にとってリリアはまだまだ可愛い妹だから」

「お兄様……っ」

 手をひっこめるお兄様を軽くにらんで。

「セオとの話し合いは、どうなったの?」

 と、昨晩の様子を聞いてみた。

「ああ、はぐれた帝国騎士たちも公爵様たちも、リリアたちを残してそんな遠くまでは行っていないはずなんだよね。だから、伯爵領の騎士団の方で探してみることになったんだよ。リリアは今日一日、ゆっくり過ごしたらいい」

 お兄様はそう言って、ここに来た目的を思い出したように告げる。

「久しぶりに、テラスでブランチでもどうだい?」

 お兄様の言葉に、エースの表情がピクリと動くが、

「わっ! いいね。ここで過ごしていたころは、よく外で過ごしてたから嬉しいです!」

 と、私は思わず答えてしまう。

 でも、お兄様はエースの微かな動揺に気が付いたようで。

「大丈夫。伯爵邸の騎士もたくさん庭に居るから」

 と、エースに声をかけた。

「そういうことでしたら……」

 エースは複雑な表情で頷いた。それを見届けたお兄様は、

「では、準備するように伝えてくるよ」

 と、私に微笑んだ。

 去って行くお兄様の背中を、私はしばらく見送っていた。

 


「……エース、交代の時間でしょ? 伯爵領の騎士も居るって言うし、寝てきたら?」

 夜通し、護衛をしていただろうエースを伺いみるも。

「いえ。セオ殿下が来るまではリリア様に付き添います」

「……そう?」

 伺い覗く私に、エースはしっかりと頷いた。

「はい」

 交代できたセドリックは、セオが寝ている部屋の前で待機している。

 私とセオが一緒に行動することで、護衛が楽になるんだよね。

 まあ、セオに護衛が必要なのか、不思議だけど。

(あれだけ熟睡していたら、セドリックが近くに居てくれたほうが安心ね)

 と、考えながらお兄様に誘われたテラスに近づいた時だった。

「……?」

 お兄様ではない人物が、テラスの椅子に座ってお茶をしているのが見える。

 嫌な予感がする。

 そう思った時には遅かった。


「ずいぶんと、ゆっくりされたようですね。あなたには、睡眠薬を仕込んでもらった覚えはなかったのですが……」


 そう言って私を見る、ルーカス公爵が居た。


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