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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
43/46

第43話 …隣国への道のりの中に


「ん……っ」


 馬車の中で、私の吐息が漏れる。

「ちょ……っ、セオ……っ! あ……っ」

 甘い刺激で唇を必要以上に攻められ、

 息切れするほどに深いキスは、抵抗する私に容赦なく何度も降り注がれていた。

 ルーカス公爵が隣国への同行者になったことが決まってから数日後。

 大した情報もなく対策もできないまま、隣国へと出発したのが10日ほど前。

 皇子宮からは、セドリックとエース、ユイが私たちに同行することになった。

 護衛は、帝国の代表として隣国へ行くことになったので、最低限の遠出経験豊富な帝国騎士が10名ほど。

 残りはルーカス公爵の騎士が数人。

 総勢20名ほどの一行になっていた。

 今はその、隣国へ向かう馬車の中。

「んん……っ。苦しい……」

 涙目の私が必死にセオの胸を押し返すと、セオはようやく私から離れ、濡れた唇をこぶしで拭う。

「堂々と二人で過ごせる機会を叔父上がくれたんだ。堪能しなくては失礼だろ?」

 と、勝気な笑みを浮かべる。

(う……)

 思わずときめいてしまった私が反論しないのを、セオは嬉しそうに見ていたが、

「……」

 馬車のスピードが落ちたことに気が付いて、セオの表情が引き締まった。

「殿下、護衛達とはぐれたようです」

 と、セドリックの静かな声が馬車の外からした。

「え? はぐれた?」

 驚く私とは違って、セオは冷静だ。

「予想はしていたが、領地から出てすぐ動くとは」

 セオの呆れたため息が馬車に響き漏れる。

(もう、帝国から出たんだ……)

 帝国領地から出るまでは問題ない、と、セオにも言われていたから私も安心していた。

「……」

 不意に見上げた視線の先のセオを覗き見る。

(内心、焦っていたからあんなこと……?)

 不謹慎にも、先ほどのキスを思い出して、少し動揺してしまう。

 そんな私に気が付いて、セオはギュッと私を抱きしめた。

「そんなに欲しいなら、今晩かわいがってやるぞ?」

 と、耳元で吹きかけられる言葉にぞわっと身震いする私を愛おしそうに見つめるも。

「帝国騎士たちもか?」

 セドリックに問う声はいつも以上に厳しいものだった。

「はい。ほぼ同時に」

「そうか……。叔父上の催眠は、本当に厄介だな」

 と、つぶやきながら、セオは面白そうに表情を緩める。

「ちょうどよく公爵様の目が無くなったので、リリア様を先にアイナ王女のもとに送りますか?」

 セドリックが心配そうに私の身を案じ、提案するが、

「いや、リリアの知り合いらしき人物がこちらに向かってきている」

 と、セオが馬車を叩いたので、エースは馬車の歩みを止めた。

「……知り合い?」

(こんなところに?)

 心当たりが全くない私は、その人物が思い当たらない。

 私が考え込んでいる前に、


「わっ!」


 突然、ユイが馬車の中に移動してきた。

「……え?」

 私たちと対面するように座っているユイが、状況を理解できずに目を瞬かせている。

 セオが能力でユイを馬車内に移動させてきたことを、私もユイも理解すると、

「……殿下っ?!」

 と、ユイは声を上げたが、セオの表情にハッとして即座に気を引き締めた。

「ユイ」

「は、はいっ!」

 セオの低い声に緊張したユイの声が上がると、セオは静かに述べる。

「リリアの知り合いが付く前に、ひと騒動ありそうだ。馬車の扉は開けるなよ」

「……」

 私の前で、セオとユイが話している。

 今、危険が迫っているって、言っているの?

「もしもの時は、お前がリリアの身代わりになれ」

「っ!」

 驚く私を無視して、ユイは大きくうなずいた。

「セオっ!!!!!」

 セオの腕を引っ張って懸命に訴えるが、セオは。

「悪いが、今はお前の望みは聞いてやれない」

 と言うと、私たちを残して消えてしまった。

「セオ……っ!」

 私は慌てて窓の外を見た。

「!」

 そこには、馬車を囲む黒ずくめの集団が居た。

 見るからに怪しいその者たちの目は、暗い闇にでも落ちたかのように生気を感じられなかった。

「奇襲……?」

 サアッと血の気が引いていくのがわかる。

「ルーカス公爵の手の者でしょうか?」

 セドリックの小さな声が聞こえる。

「……だろうな。すべての感情が消え去っているようだ」

「催眠、ですか?」

「本当に、厄介だな」

 セオの顔がわずかに引きつっていた。

『心配するな、リリア。すぐに終わる』

 セオの声が聞こえると、馬車のカーテンが閉められ、中からは外の様子が見えなくなった。

 セオが能力で閉めたのだけど、開けて外の様子を見る気にはなれない。

 剣の重なり合う音と、鈍い音が馬車を取り巻いている。

 耳を塞いでしまいたい衝動に駆られる。

 胸が切り裂かれるように痛い。

 不安で怖くて涙が出る。

 だけど。

 外で何が起きているのか、馬車内で感じ取れるだけの感覚を保っていなくては、と、その思いだけで耐え居ていた。

 三人とも、ケガをしないように祈ることしかできない。

 時折、セオたちの声が漏れており、その様子から苦戦しているのがわかる。

(ああ、神様っ! どうか……っ)

 祈る私に答えるように、セオの声がした。

「心配するな、リリア。援軍が来た」

「……っ!」

 その声に、私はカーテンを開ける。

 後方から、馬の掛ける足音がする。

 それも、数人。ううん、数十人は居そうな音。

 私は窓の外の光景に目を凝らして待った。

 そして。


「リリアっ!」


 聞きなれた声があたりに響いた。

 その姿に驚くも、安堵する自分が居た。

 もう大丈夫だと、安心感が沸き上がる。

「……よかったっ! お兄様が来てくれた!」

 馬車を取り囲んでいた数人を蹴散らして、お兄様たち一行はセドリックやエースと共に戦ってくれる。

「伯爵領の騎士団まで……」

 見覚えがある者たちに、涙が出る。

 黒服の男たちは、何かの合図が送られたようで、無言でお互いの顔を確認すると。

 音もなく一斉に退却した。

 そのあっけなさに少々戸惑いながらも、

「……」

 お兄様と伯爵領の騎士団員たちは安全を確認しつつその剣を納めた。

 馬車の窓から外を見ていた私は、馬車の扉が開いたのに気が付く。

 外には、セオが私を見て手を差し伸べていた。

『間違いなく、リリアの知り合い、だな』

 と、明らかに安堵した様子のセオに、私はその手に答えず、思わず抱き着いてしまう。

「……っ!」

 ふらつきながらも支えてくれたセオにそっと地面に下ろされた。

「最近、こんなのばかりだな」

 と、言いつつも、セオが私を見る瞳は優しかった。

「ここは、伯爵領地に近いのだな。リリアの兄、か……クロフォード卿。援軍、感謝する」

 私を自分の隣に立たせ、セオは兄を確認すると頭を下げた。

「うわわわわっ! 皇子っ! 頭を上げてください」

 半ばパニック気味に兄は焦った後、

「公爵様がお知らせくださったんですっ! 今日のこのぐらいの時間にここを通る予定だから、リリアに会いに顔を出してもかまわないとおしゃってくださって……」

 と、困ったように笑う兄の前で、私は驚きを隠せなかった。

「……ルーカス公爵様が?」

「そうなんだよ! こんな辺鄙な伯爵邸にお手紙いただいて、本当に驚いた。でも、よかった。会いに来てなかったら、少しでも遅れてたら、間に合ってなかったかもしれないな」

 兄は先ほどのことを思い出し、顔をゆがめる。

 が。

 私とセオの姿を見て、

「リリアが皇子の婚約者候補に選ばれて、帝都の家にも帰ってこないとは聞いてたけど…」 

 と、嬉しそうに微笑むと、兄は改めて私たちに跪いた。


「ご挨拶が遅れました。私はクロフォード伯爵の令息、フロム·クロフォードで。セオ皇子殿下にお会いでき、光栄です」


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