表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
42/46

第42話 嫌な予感の先は…


 遠のいていく皇子宮を馬車の中から眺め、心がざわめいていた。

 今すぐにでも、セオの元に帰りたい衝動に駆られる。

「……」

 一緒に居ることに慣れてしまって、一人で行動するのが怖い。

「それではダメなのに……」

 ぐっと気持ちを押し殺して、外から視線をもとに戻した。


「何がダメなんだ?」


 不意に聞こえた声に、ドクンと胸が波打つ。


「え……」


 聞きなれた声の主はもちろん、セオだ。

 馬車は皇子宮の敷地外に出るところだった。

 瞬間移動で私の前に現れたセオに驚き、目を丸くする。

 走る馬車の中、セオは私から顔を逸したまま、私の対面に座っている。

(来てくれた…っ!)

 その事実が、なんて嬉しいんだろう。

 考えるよりも先に、体が動いていた。

「な……っ!」

 突然抱き着く私に驚きつつ、セオは私を受け止めて、そのまま私を膝の上に抱き上げる。

「お前……、危ないだろう」

 と、呆れた声だったけど、その手は優しい。

 私はセオの首にしがみついたまま、声を上げる。

「セオが来てくれて、嬉しいの」

(う、泣きそう……)

「……」

「ずっと一緒に居たせいか、ちょっと離れただけでこんなに不安になるなんて思ってもなかった」

 ぎゅっと、力がこもる私の腕を感じてか、セオは優しく私の頭をなでる。

 そんなセオから、ホッと息が漏れたような気がした。

「……東宮に着く前には、戻るつもりだったんだがな」

「? なに?」

 セオの言葉が聞き取れずに身を離した私と目が合ったのに、セオはフイッと視線を逸らした。

 セオの膝から落ちないように、体はしっかりガードされている。

「……別に」

 何とも言えない表情が、まだ不機嫌な様子をうかがわせる。

「まだ怒ってるの?」

(でも、くっついているのはいいんだ?)

 私は再びセオに甘えるようにセオの首に腕を回す。

「でもいいや。追いかけてきてくれて、嬉しいから」

「っ!」

 身を寄せたセオの体がビクッと揺れたかと思ったら。

「……お前」

 プルプルと震えだした。

「え?」

(震えるぐらい怒ってるの?)

 慌てて離れようとした私の後頭部を押さえつけたセオの手が、私をセオの胸に閉じ込める。

 それと同時に。


 だんっ!


 セオは反対の手で御者が居る方の馬車の壁を強く叩いた。


「止めろっ!」


「え? はい?!」

 セオの声が馬車の中から聞こえて、外から驚き慌てる御者の声がする。

「セオ殿下!」

 近くに居たのだろう、セドリックの叱るように制する大きな声が響いた。

 その声に反応するように、

「わー……、まじか」

 と、エースの声が漏れる。

 二人とも、セオが居ることに驚いていると言うより、セオの能力を知らない第三者が居るのに声を上げたことに呆れているようだった。

(? 馬車を止めるの?)

 馬車がゆっくりと歩みを止める中で、セオは私を抱きかかえたまま馬車を降りた。

 私はただ、必死でセオにしがみついている。

 二人がセオの近くまで来ると、

「エースはそのまま東宮に行って、リリアは行けないと伝えろ」

「え~……、マジっすか」

 呆れるエースの声が聞こえるも、エースは頭を抱えるセドリックが頷くのを確認すると、

「行きますよー、行けばいいんですよねー。もう。何言われたって知らないですよー」

 棒読みのセリフを呟いて東宮へ向かった。

 そして。

「お前は降りろ」

 と、セドリックから馬を取り上げると、私を抱えたままセオが騎乗する。

 ふわっと舞い上がる感覚が、セオの能力で守られているようで怖いとは思わなかった。

「セオ……?」

 馬に乗せられた私はセオの腕のなかで呆然としたままセオを見上げる。

「お前を、東宮に行かせたくなくなった」

 耳元でそっとささやかれる甘い声に、全身がぞわっとした。

 近くではセドリックが申し訳なさそうに、混乱している御者に頭を下げている。

「叔父上から守るために来たつもりが……、どうにも調子が狂う」

 セオは馬の向きを皇子宮へと移動させる。

「……戻るの?」

「……」

 セオの胸の服をギュッと握りしめる私を、セオの瞳が真っすぐと見下ろした。

「素直で積極的なお前も、悪くない」

「ん?」

「事情を知らない人物がいるのは、やはりもどかしいな」

 苛立ちつつも、その瞳はやけに色っぽい。

「……セオ?」

「今すぐにお前を抱きつぶしたい衝動を抑えるのに苦労する」

「……っ?!」

 そう言って、セオは私の額に甘い甘いキスをする。

 私が真っ赤になったのを満足そうに眺め、セオは私を抱きしめる腕に力を入れた。

「身勝手に移動しないだけ、まだ理性があると思え」

 そう言って笑うセオの艶っぽい魅惑に打ちのめされていると、セオは握っていた手綱を強く引く。

 大きく嘶いた後、馬が勢いよく走り出した。


「今日はもう、お前を離せそうにない」


 セオの甘い声が、しばらく私の全身を疼かせていた。



 翌朝。


「……」

 もぞもぞと、ベッドから顔を出すと、先に起きていたセオがガウン姿で部屋の扉付近に立っているのが見えた。

 誰かと話をしているようで、声が聞こえる。

 内容までは聞こえないけど。

(仕事の話しかな……? って、あー……、昨日はもうっ)

 シーツにくるまったうえ、顔を覆い隠した。

 馬を皇子宮まで走らせた後は、そのままベッドに移動して朝まで……。

「あーうーあー……」

 うめき声に近い声を上げて、顔を枕に押し当ててしばらくジタバタした後。

(妃殿下に手紙書かなきゃ……)

 なんとなくだるい体を動かして、近くの椅子に掛けてあるガウンに手を伸ばす。

 が……。

「え……?」

 ベッドから抜け出た体は支えを失ったようにそのままぺたんと、床に座り込んでしまう。

「……」

(なにこれ、足がプルプルする……)

 足の感覚が薄く、立ち上がろうと力を入れるが震えてうまくいかない。

 ベッドに添えられた手だけでなんとか立ち上がろうとしていると、

「何している?」

 近くまで来たセオがひょいッと私を抱き上げた。

「う……」

 セオの腕の中で赤面していると、セオはふっと表情を緩めた。

「ベッドから落ちたのか。昨日はずっと、足に力が入っていたからな」

 ニヤニヤ笑うセオに嫌な予感がする。

『気持ちよさそうだったぞ』

「っ!!!!!」

(やめて―――っ!)

 からかうセオの言葉を遮るように、私はセオの胸に顔をうずめながら心の中で叫んでしまう。

 セオの嬉しそうな笑い声が聞こえた気がする。

「まあ、昨日は無理させてすまなかった」

「……」

 と、優しい瞳に告げられて、言葉が出ない私。

(無理は……してません)

 恥ずかしくて言えない言葉も、セオには伝わる。

 言いたいことも言いたくないことも、恥ずかしいことも、セオは受け止めて笑ってくれる。

 私の()()に、セオは満足そうだった。

 セオは私を抱きかかえたまま、ベッドに腰を下ろした。

 けれど。

 私を自分の膝の上に乗せたまま離そうとしないセオが不思議で顔を上げると、

「……」

 さっきまでのからかいも、照れも吹き飛んでしまうかのように、神妙な面持ちのセオがそこに居た。

 その表情に、なんだか悪い予感がする。

「……セオ? どうしたの?」

 心配そうな私に気が付いて、セオはふうっと息を漏らす。

「ああ、……隣国に、叔父上も同行することが決まったらしい」

「え? 隣国って、アイナ王女の生誕パーティー?」

「ああ」

 と頷いたセオから改めて大きなため息が漏れる。

「ここまで情報漏洩をさせないように徹底されると、さすがにきついな」

「……セオも、知らなかったの?」

 今までなら、セオの超能力で事前にわかる情報のはずだ。

 お互い、間者だっているだろう。

 直前まで知らされない情報は、はっきり言ってない。

「ああ。皇子宮に情報が入って来るまでな。叔父上の言っていた催眠の効果だろう」

 考え込むセオの胸に、私はそっと寄り添う。

(催眠か……、詳しくはわからないけど、結構厄介なのかな)

 超能力で心を読むことまでは、ルーカス公爵にはバレていないはず。

 だけと、その辺の行動に抜かりはないのだろう。

「お前を先にアイナ王女のもとに届けるつもりだった」

「……」

(それは、事情を知るアイナ王女の元に先に瞬間移動で送るつもりだったってことか……)

「あそこへ行くのは馬でも1週間以上はかかる。ましてや、馬車移動のリリアを連れて行くには、もう少しかかるだろうからな、リリアには辛いだろう」

 けど、と、セオは厳しい表情になった。

「叔父上が同行するとなると、皇子宮以外の者の目も出来てしまった。リリアを知る護衛も少なからずいるだろうからな、リリアの姿がなければ不審がられる。……これも、叔父上の策の内だな」

「……」

「隣国に着く前に何か仕掛けてくる可能性が高いが、大勢の護衛の前で能力を使うわけにいかない。俺とセドリック、エースの三人で対処しきれるかどうか……」

 そう告げるセオは強く拳を握りしめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ