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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第4話 皇宮からの招待状


 どきん。


 と、胸が高鳴った。

 無邪気に向けられるその笑顔が、

 真っ直ぐで、嬉しそうなその瞳が、

 私の目に飛び込んできて、惹きつけられる。

 昨日の彼と、噂の彼。

 そして今、目の前に居る彼。

 どの彼も、同じ人物に見えなくて、戸惑う。

「……」

 私はセオ皇子が言い出した言葉を、繰り返した。

 結婚しようと言った?

(って、妃になれって言ったよね……?)

「ああ、返事は明日でいい」

 黙ってしまった私を見て、セオ皇子は何かに気が付いたように顔を上げる。

「そろそろ、だな」

「……」

 状況を理解していない私に気が付いて、セオ皇子は意地悪な笑顔を浮かべると。

「また、明日」

 と、手を上げたかと思ったら。


「っ!」


 一瞬にして消え去っていた。

「……」

 瞬間移動……。

 ああ、実際目の前にすると驚くなぁ。

「本当に、居ない……」

 今まで目の前に居たのに。

 寂しく思うのは、なぜだろう?

 でも……。

(思ってたより普通の人だったな、セオ皇子。嫌な笑みばっかり浮かべて)

 ムムムと、顔をしかめていると。


 バンっ!


 と、後方で大きな音を上げて扉が開いた。

 そして。

 

「リリアっ!」


 大声と共に姿を現したのは、お父様だった。

 そのお顔は、明らかに真っ青で。

 何か良くないことが起こったのを容易に想像ができる程に。

「……お父様?」

「こ、こ……」

 ごくりと、生唾を飲んだ音が聞こえる程に、お父様が緊張しているのがわかる。

「使者がきた」

「え?」

「皇帝陛下が、私たちをお召しになった」

 お父様の上ずった声に、私も胸がざわつく。

 今、なんて?

「……皇帝陛下?」

 目を見開く私の前で、お父様は無言で何度も頷く。

「第二皇子ではなくて?」

「第二皇子……?」

 私の言葉が意外だったのだろう、お父様が面食らった顔をする。

「リリア、心当たりでもあるのかい?」

「あ……」

 お父様の視線が痛い。

 今まで、その皇子がここに居たとは言えないし。

「心当たりというのか……、はい、まあ……」

 はっきり答えられないもどかしさに、私は頬をかく。

(お父様が来るとわかって、帰ったのね)

 セオ皇子が先ほど何かに気が付いた様な素振りを見せた理由を察して、私は息をつく。

「……」

 押し黙る私を見て、お父様はそれ以上追及することはしなかった。

「まあ、とにかく、心配はないか?」

「皇帝陛下がお呼びになった件が、第二皇子の件と同じであれば、問題ありません」

 と、断言したものの、不安で顔が引き攣った。

 どのみち、私に選択肢がないのは事実。

 記憶を操作されるのも嫌だし。

「……そうか」

 お父様は腑に落ちない感じではあった。

 けども、先ほどのように取り乱すことはなく、ホッと安堵した顔をする。

「失礼のないようにしよう」

 と、考え込んだまま、私の部屋を後にした。

 そんなお父様を見送って、ふと思う。

 セオ皇子に、この、今の様子も見られてたり、聞かれてたりして?

 と。

 なんて考えてしまったら。

(やりにくいなぁ……)

 私の感情や様子は全部筒抜けってことだし。

(着替えや、お風呂や、トイレ中も?!)


『誰が見るかっ!』


「……っ!」

 急に、セオ皇子の慌てて怒鳴る声が聞こえて、私の体が大きく揺れた。

 思わず宙を見上げる先に、もちろんセオ皇子の姿はない。

(びっくりした……)

 ドキドキする胸を押さえながら、私は声を出す。

「聞えてました?」

『そもそも、心の声が聞えるのは遮断しにくいが、見るにはわざわざ()()をする必要がある』

 セオ皇子の口調から、苦虫を嚙み潰したような顔をしているのが想像できる。

 直接顔を見れないのが、なんだか残念。

 なんせ、先ほどは嫌な笑顔しか見ていないのだから。

「ああ、人の心の声が流れてくるのはBGMみたいなもので、透視はあえて意識しないと出来ないってことですね」

 納得する私に、セオ皇子の呆れた声が届く。

『お前の言っていることは、理解不能だ』

「……」

 声から、セオ皇子の困惑した顔が見える気がして、胸がスッとする。

 さっきは、完全にセオ皇子のペースだったから。

(なんだろう、この優越感)

 フフと、思わず笑みがこぼれてしまう。

「皇子の今のその顔、直接見たかった気がします」

『……俺は見られたくないがな。また、行ってもいいぞ、そっちに』

「っ!」

 フッと緩んだ声が私の脳内に響く。

 穏やかで、優しくて……。

(からかってる声……っ!)

 悔しいけど、思いがけず胸がドキドキした。

「来なくていいですっ!」

 思わず荒上げた声に、セオ皇子の笑い声が聞こえる。

(……声出して、笑ってる)

『それは残念だ』

 セオ皇子の不敵な笑みが見える気がした。

「こうやって遠く離れててもお互いの声が聞こえて、お話しできるなんて、不思議ですね」

『……』

「あ、いつもこんな風に話し掛けたら呆れて、先ほどの結婚話、取り消してくれますか?」

 浮かんだ疑問を考えることなくそのまま尋ねる。

『……それはない』

 小さく返ってきた返事が、残念なような、安心したよな。

「えー……」

 と、わざと残念そうに言葉を上げるが、顔が緩む自分に気付く。

「じゃあ、これからも、私がこうやって話し掛けたら、返事していただけます?」

 なぜか、視線が上を向いてしまう。

 その先に、セオ皇子が私を見下ろしている気がして。

『気が向いたらな』

 そっけなく答える声がまた、くすぐったい。

「ありがとうございます」

 ふふっと笑う私は、大きなあくびをする。

「今日はいろいろあって、疲れました。そろそろ、寝る準備するので、当分覗いちゃだめですよ」

『わかってるよ。ホント、変な奴だな』

 と、遠ざかるセオ皇子の消えそうな声が、嬉しそうに笑っているように聞えた気がした。



 侍女のローサがお風呂の準備をしてくれた。

 私は湯船につかりながら、

 昨日と今日の出来事。

 セオ皇子のこと。

 そして、

 自分のことを考えていた。

 異端児。

 その言葉が自分に当てはまると、常に思っていた。

 見知らぬ世界で目を覚まし、三歳という小さな少女の体であることは、とても衝撃的で。


 孤独。


 死ぬ間際の恐怖と、目の前の現実。 

 文化も習慣も何もかも違う世界に馴染むまで、時間がかかった。

 何も考えることなく、受け入れるべき家族の愛すら、他人ごとに思えた。

 前世の記憶があるなんて、口が裂けても言えない。

 だから、

 目立つことなく、

 平凡に、

 幸せに、

 生きることだけを心がけて、今日まで来たんだ。

 人とは違う、自分を隠して。

 そのおかげで、婚期を逃したともいえるけど。

「……」

 今日の彼は、そんな孤独も偏見も跳ね飛ばすかのように、自信に満ち溢れ、魅力的な男性だった。

 彼はどうやって今日まで生きて来たんだろう。

 不遇な幼少期。

 皇帝である父と、皇太子である兄との関係。

 超能力の、存在。

 彼のことをもっと知りたいと想ってしまった。


「好きになりそうな予感がする」


 セオ皇子の声が頭の中で反芻されるたび、ドキドキする。

(私も、セオ皇子を好きになる予感がします)

 私は湯船の中で足を抱えた。

(……彼の傍に居たい)

 なんて、思ってしまった。


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