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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第35話 テラスでの密会

 

 逃げるように会場を去る私の元にとうとう。


『ああ、面倒だな……』


 セオの不機嫌な声が届いた。

 その言葉が、私に向けられているようで、なんとも言えない気持ちが胸を襲う。

 さらには、聞こえてきていた令嬢たちの声も、セオの声も、途切れるように聞こえなくなった。

 セオのテレパシーが、止まってしまった。

「……」

 ただそれだけなのに。

 拒絶された気分だった。

(……冗談だってわかっていたけど、思い出してこんな気持ちになるなんて)

「……」

 呆れて言葉もない。

 でもでも。

(……セオだって、意地悪だったしっ)

 思い出してしまうくすぐったい気持ちが、再び私の胸をドキドキさせる。

 テラスに出て、火照った頬にひんやりとした風を感じた。

 人目から離れ、セオの声も聞こえなくなって寂しいながらも、どこかほっとしている自分がいる。

 でもきっと、傍から見ると、女性に囲まれる婚約者を見ていられなくて逃げだした女。

「あぁ……」

 大きなため息が出てしまう。

 ルーカス公爵の思惑通りになってしまうことを嘆いた。

 ドキドキする胸の鼓動を抑えながらも、ズキズキする痛みに変わってくる。

 あんな風に呆れられた視線を向けられたのは初めてだったかもな。

 と、胸がギュッと縮むように苦しくなった。

「あ、ここ……」

 不意に、足を進めていた先の見覚えある場所にハッとする。

(セオと初めて出会った場所だ……)

 目の前の手すりに手を伸ばす。

「……」

 あの時も、今と同じ、一人だったのに。

 今まで、パーティーでもなんでも、一人になることに慣れていたはずなのに。

 セオと過ごす時間が多くなってきて、一人になることが寂しいと感じてしまうようになった。

 本当は、ご令嬢たちの相手なんかしないで、そばに居てほしかった。

(なんて、帝国の皇子に求めてはいけない事だな……)

 思わずため息をこぼす私の元を。


「婚約者のリリア様をほったらかしで、なにしてるんですか、セオ皇子は」


 と、ムッとした声が通り抜けた。

「ん?」

 私の心の声を代弁されたようで、私は声した方に振り返る。

 そこには。

「リリア様」

 と、優雅に挨拶をする、エマ・アーバン侯爵令嬢と、その婚約者、エヴァンが居た。

 意外な人たちが声をかけてきたなと、驚きながら。

「お二人にお会いできて光栄です」

 と、私も笑顔を浮かべ、遅れながら挨拶をする。

 あの日以来の再会が、うれしかった。こんな状況の中でなければもっと……。

「思わず、追いかけてきちゃいました」

 と、かわいらしく笑うエマが目に眩しい。

「? リリア様? お顔が赤いですが、体調でもお悪いんですか?」

 顔を合わせたエマが私の頬が染まているのに気が付いて、心配そうに覗き込む。

(ああ、やっぱりまだ赤いよね)

 と、自覚してはいるので、苦笑するしかない。

「お酒を少し飲みすぎたようで。体調は何ともありませんから、ご心配なく」

 引き攣った笑みを浮かべる私に、エマは大きなため息をつく。

「では、やっぱりセオ皇子のせいですわね! 婚約者をほったらかしにして、他のご令嬢たちの相手をなさるなんてっ。リリア様が逃げたくなる気持ちもわかりますっ!」

 と、なぜか怒っているエマに呆然としてしまう。

(逃げたくなる、かぁ……。確かに、逃げました)

 と、私はグッと強く目をつぶる。

 でもそれは、セオにささやかれる言葉にどきどきして、

 セオに今すぐに抱きしめられたいと思ってしまった自分が恥ずかしくなって逃げてきた。

(……なんて言えないっ)

 言葉にできず、小さく首を振っていると。


「それは、叔父……、エヴァンの父親に言ってくれ。こっちは迷惑してるんだ」


 と、セオの声がテラスを通り抜けた。

「っ!」

 思わず逃げ腰の私と。

「セオ皇子……」

 ばつが悪そうなエマを見て、テラスの入口に肩を預けて立ってるセオが苦笑する。

「なんだか、よくわからない策に出たようだな?」

「……策って言うより、単なる嫌がらせでしょうね」

 と、エヴァンも苦笑する。

「お前がリリアに絡むと、叔父上が必要以上にリリアを警戒するんだよ。人目があるときは気をつけろよな」

 ため息をこぼすようにセオにぼやかれて、エヴァンはフフっと笑う。

「リリア様に手を出すことは、あきらめたと思いますよ?」

「本当かぁ?」

 と、セオが訝し気な視線をエヴァンに向けた後だった。

 何かに驚いたようにセオが身構え、視線を上げる。

 それに気が付いたエヴァンも、追うようにその視線の先を見上げた。


「リリアっ!」


「!」

 

 突然上がったセオの鬼気迫る大きな声に驚くも、よくわからない状況に身動きできない。

 気が付いたのは、次の瞬間にはセオの腕の中にいたこと。

 と、 

 何か刃物のようなものがぶつかり合う金属音が聞こえたこと。だった。


「ハロルドっ!」


「わかってますってっ!」


 セオの怒鳴り声に答えるように、黒い影を追って剣を片手にハロルドがテラスから飛び降りる。

「……」

 突然のことに呆然としながら、のぞき見える光景に目を瞬かせるしかない。

 そんな私の耳に、思いもよらない言葉が届く。


「……瞬間、移動した?」


(え……?)

 妙にはっきりと。

 異様に聞こえた言葉に胸がざわついた。

 その、声の主を探して、ぞわっと身が震える。

 この世界に浸透していない言葉。

 そんな言葉を知っている人間は、限られてくる。

 思わず震える体をセオにしがみつくことで、必死にとどまっていた。

 それに答えるように、セオの腕が私を力強く支えてくれる。

 セオはセオで、状況確認に来たセドリックとエースに指示をしている。

「……」

(聞き間違い、ではないわね)

 できるだけ、不自然にならないように、目だけで状況を把握するように心がける。

 声は近くで、今の襲撃を受けた人から聞こえる。

 それは。

(間違いない……)

 エヴァンの腕に匿われた少女の声。

 エマは、エヴァンの腕を掴みながら考え込むように俯き、つぶやいていた。


「……セオ皇子が、超能力者?」


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