第34話 送別パーティー
その後。
アイナ王女を拉致しようとしてた事件はもみ消され。
セオとの婚約話も白紙になった。
前世に戻る話も。
「それは、これからゆっくり考えることにします。なので、その時まで。リリア、私たちの名前はあなたが覚えていて」
と、言われた。
アイナ王女にギュッと握られた手も。
アイナ王女の後ろに控えていたオリヴァーの瞳も。
二人で考えて出した答えだと、言っているようだった。
私は、それを受け入れるしかないのだけど。
彼女は王女で、オリヴァーはその護衛騎士。
いくら寛大な隣国でも、一人娘の王女を、護衛騎士に嫁がせるだろうか?
そんな疑問が浮かんでは、グッと胸が苦しくなる。
けど。
彼女たちなら、大丈夫な気がした。
「……わかりました」
頷いて返事をする私を見て、アイナ王女は微笑んだ。
「リリア。あなたも遊びに来てね。セオ皇子の超能力なら、いつでも可能でしょ?」
「……っ!」
アイナ王女から出た言葉に驚く私に。
「私たち、もう、お友達よね」
と、ただただ嬉しそうに微笑む王女が居た。
(そっか……。セオが自分の能力のこと見せたのかな)
私は、日本に戻っていた間の出来事を知らない。
でも、セオが自分の能力を見せて、その記憶を操作をしなかったのなら。
セオは彼女たちを信頼したのかもしれない。
「はい。セオと一緒に、内緒で遊びに行きますね」
と、私も微笑んだ。
そして。
今日。
皇宮のきらびやかなパーティーホールでは、アイナ王女が帰国する前のささやかなお別れ会が開かれていた。
ささやかな、はずだった。
なのに。
「……」
セオのパートナーとして一緒に参加したそのパーティーは、聞いていたものと規模が違う。
私もセオも、紹介されて会場に案内されて、唖然としてしまう。
「これは……、婚約発表でもしそうだな」
と、パーティーホールを見渡しながら呆れたようにつぶやくセオに、私の顔が引きつってしまう。
「そのつもりで準備していたパーティーだったんだろうね」
「……皇室とその一部の関係者のみって話だったはずだよな?」
不愉快な様子を隠そうともしないセオの隣で、私はため息をつく。
会場内には、見慣れた顔がいっぱいだった。
「ルーカス公爵様の傘下の方ばかりね。……仕方ないね、アイナ王女との婚姻が白紙になって機嫌が悪そうだし」
ひしひし感じる視線の中に、明らかな敵意がある気がする。
どこかにいるだろうルーカス公爵のものかもしれないと、私はちょっと緊張するが。
「……叔父上の、機嫌を取れとでも?」
何か嫌がるそぶりを見せて、セオは私に顔を近づける。
「?」
「後悔、するなよ?」
その、セオの意味深な言葉を最後に。
気が付いたら私は一人、
壁の花になっていた。
「……」
(ああ、セオが言っていたのはこのことだったのね)
つい、大きなため息が漏れてしまう。
(機嫌を取れとは言ってないけど……)
この状況は、確かにちょっと後悔するかも。
と、前方でたくさんのご令嬢に囲まれているセオをつい見てしまう。
婚姻がうまくいかなかったルーカス公爵の嫌がらせなのか。
セオを取り囲んでいるご令嬢たちは、彼の傘下の貴族たちの親族。
一応の婚約者である私は、見事にその輪から排除された。
いくら婚約者とは言え、まだ伯爵令嬢でしかない私は何もできない。
だからって、
(彼女たちとどうこうする気もないけど)
と、渡されたお酒をちびちび飲みながら、一人さみしく壁の花をしてるように見える。
だろう。けど。
『嫉妬のひとつもしないのか?』
と、不機嫌そうなセオの声が響いた。
『……そっちの対応しながらよく、私の心なんて聞いてられるね?』
セオの声が聞こえてうれしいと思った自分に、思わず苦笑してしまう。
『ああ、退屈だしな。勝手に話してるだけだし、こいつら』
興味ない感じでセオは私に伝えてくるが。
少し離れた場所では、上手に上っ面な笑顔を振りまいているセオが居る。
そんなセオを見て、なんだかちょっと、胸が痛んだ。
『今まで、無表情で怖かったイケメンが急に自分に笑顔を向けたら、みんな勘違いしちゃうんじゃない?』
と、思わず面白くなさそうに返答してしまった私に。
『……ほお?』
セオの関心を寄せるような声が上がる。
(あ、なんか嫌な予感がする)
その予感を肯定するように、離れているセオと目が合った。
ニッと笑う顔と共に、
『勘違いねぇ……』
と、つぶやかれた。
『叔父上の嫌がらせに乗ってやるか?』
『え……?』
セオの意図が読めずに声を上げる私に、
「セオ様、今日も素敵ですわ」
と、突如ご令嬢の声が聞こえた。
前方で、セオの前にいるご令嬢がそわそわとセオに声をかけているのが見える。
セオはその彼女を見下ろしながら、
『リリア、お前のほうが』
「よっぽど素敵ですよ、…私なんかより」
と、上っ面な笑顔を浮かべ、楽しそうに答えたのだ。
その笑顔に固まる令嬢と、
(なに……これ……)
セオの声がまるで自分にささやかれているように耳元で聞こえ、驚く私。
どきどきと、胸の鼓動が速くなっていくのがわかる。
セオの前では、その丁寧な言葉と物腰、優しく微笑まれるセオの見慣れない姿に、ご令嬢たちが頬を染め、潤んだ瞳を向けている。
私は、離れているはずなのに。
あの瞳も声も、私に向けられていないのに。
耳元でセオにささやかれているかのように。
『リリアが、キレイだ』
『リリア、お前はかわいいな』
と、ご令嬢との会話の節々にセオの心の声が伝わってくる。
『……もう、いいよ。わかったから、セオ。やめて……』
声をひそめ伝えるものの、セオの心の声は止まらない。
私は目の前で繰り広げられる茶番に目を向けられず、頬を赤らめていた。
『早くリリアと二人っきりになりたい』
『お前を抱きしめたい』
『その白い肌に、顔をうずめたい』
そのささやきが、先日のベッドの中を彷彿とさせて、ぼっと頬が熱を上げた。
私は、顔を手で覆って隠したくなってしまうのを我慢するので必死なのに。
泣いてるように見られたくないし。
それに、セオは冗談で言っているだけなのにっ。
その声色は、ベッドの中で囁かれる熱っぽい言葉に似ていて、自分の体が疼くのを止められない。
(う……、直接言われてるわけじゃないのに)
なんでこんなに耳元でささやかれるように聞こえるの?
目をそらしていたのに、思わずセオを見てしまう。
『なっ……、お前っ』
セオと目が合って、セオの動揺する声がした。
そして。
『はぁ……、そんな目を向けられたら』
「……っ?!」
突然、セオの呆れた声色に、ビクンと私の肩が揺れた。
(あ、やだ……。私、そんな顔して……?)
「!」
髪をかき上げるセオの姿にズキッと胸が痛んだ。
その私に向けられた瞳が、呆れられているように見えたから。
『ちょ、テラスで酔いを醒ましてくる……っ!』
私は逃げるようにパーティー会場を後にしていた。




