表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
27/46

第27話 束の間の再会


「名を覚えていないとなると、ちょっと面倒だな」

 私の隣のセオがぼそっと呟いたので、王女は首をさらに傾げる。

「前世の名前が重要ですか?」

「ああ」

 セオは顔を上げ、王女を見た。

「前世の名を、同じ前世の記憶を持った人間が呼ぶと、お前たちは前世の世界に帰れる」

「……」

「なんだそれは」

 私たちの前で驚くアイナ王女とオリヴァーは、複雑そうに顔を歪ませた。

「覚えていないのは、帰れない理由があるとか?」

 そう呟いて、私は黙り込んだ。

 それは、前世の世界で二人の体が無いという事だろうか……?

 私が病院に居た時とは違って……?

「いや、思い出せないのなら、調べに行けばいい」

「え?」

 セオのいきなりの言葉に、私たちが驚きの声を漏らした。

「リリアが調べに行けばいいだろ?」

「そんな簡単に……」

 唖然とする私に、セオは問題ないと話を続ける。

「リリアなら俺がこっちに呼び戻せるし、問題ない。一度経験済みなことだ。スコットの代わりにこの二人がいれば、簡単だろう」

 そういえば、スコット様が戻った時に様子を見に行こうって、言ってたな。

 そんなことを思い出しながらぼんやりしている私に対して。

 今まで動揺していたオリヴァーが、平静を取り戻して言う。

「なら、俺たちが亡くなった理由の事件を調べたら、名前がわかるんじゃないか?」

「え? 事件?」

 ドキッとした私は、思わずオリヴァーを見上げた。

 それに答えたのは、アイナ王女だった。

「私たち、事件に巻き込まれて一緒に亡くなってるの。確か……」

 この日だった。

 と、アイナ王女に告げられた日付は、私たちが巻き込まれた事件の二年ほど前の出来事だった。

「……」

 過去の事件を調べるとなると、ネットが一番手っ取り早いけど。

 戻っても私の手元には、スマホもお金もない。

 だからって、知り合いを訪ねたとしても、誰も覚えていないはず。

 じゃあ、新聞?

 図書館とかに行ったら、過去の閲覧ができるのかな?

 でも、それよりも……。

 ぶるっと身震いする私の肩を、セオが引き寄せた。

「心配するな。今回は俺も一緒に行く」

「……うん」

 そう言われても、不安は消えない。

 前世に戻った時のあの感覚は、気分が悪い。

「でも、私たちはまだ戻るとは……」

 戸惑う王女に、セオは言う。

「選択肢は、無いよりはあった方がいいだろう」

「まあ、そうだけど……」

 オリヴァーが複雑そうに呟く中で。

「なら、早い方がいいですね。王女様たちが国に戻られる前に調べておかないと」

 それに、と、私は二人を見た。

「本当に日本に戻れるのかの、証明にもなると思うので」

 

 セドリックが馬車を止めたのは、帝都にある一番大きな公園だった。

 馬車を降り、私たちは湖の近くに足を運ぶ。

「準備はいいか?」

 セオが私の手を強く握った。

 緊張気味に頷く私を、セオは引き寄せて、腰を抱く。

「俺にしがみついてろ」

 息がかかる距離でセオは言うと、反対側の手でオリヴァーの肩に触れた。

「行くぞ」

 と、セオに耳元で囁かれ、私は強く目をつぶる。

 頷くセオを見て、先ほど教えた私の名を、オリヴァーが呼んだ。


「櫻木 綾乃さん」


 半信半疑な彼の声が、私の足元をぐらつかせる。

 気が付けば。

「……」

 私はセオに抱きしめられたまま、日本のどこかに足を下ろしていた。

 セオに抱きしめられていたからなのか、思いのほか、受けた衝撃は少ない。

「大丈夫か?」

 と、覗かれる顔に、思わずドキッとした。

「え? セオ……?」

「ん?」

 戸惑い揺れる瞳に、セオが不思議そうな顔をした。

 そして。

「ああ、姿が戻っているな。その黒髪も黒い瞳も、キレイだ」

「っ!」

 サラっと告げられる言葉にドキドキする。

 思えば、セオも黒髪で黒い瞳。

 姿が変わらなくても、日本に馴染む外見。

 こっちの世界でちゃんとセオも実体化してる……?


「あの二人、恋人同士かな?」

「男の人、かっこいいね」


 不意に耳に聞こえた言葉が、日本に戻って来たんだと認識させる。

「セオって、日本でもイケメンなんだ」

「は?」

「皇子の時と変わらず目立ってるなんて」

 ため息をつく私に、セオは理解できないと顔をしかめる。

「別に目立つつもりはないが?」

「……」

「なんだよ」

 ジトっと視線を向けられて、セオはその身を軽く引く。

 私は小さなため息をつくと、改めてこの現状を不思議に思った。

「なんか変な感じ。この世界でセオと一緒に居ることも、セオがこの世界に馴染んでることも」

 くすくす笑う私に、セオはフッと笑みを浮かべる。

「ああ、そうだな」

 どこにいても、セオはセオだな。

 そんなことを思いながら、私はゆっくり辺りを見渡した。

 見たこともない、場所。

 どこだろう、ここ。

「……オリヴァーの記憶から飛んだ世界だ。あいつらの故郷に近いんだろう」

「そっか。んー、図書館に行ってみたいんだけど。ここは知らない土地だな」

 同じ様に、セオも辺りを見渡している。

「ネットカフェとかに行けたらすぐわかるんだけど……」

「ねっとかふぇ?」

「あ、うん。手持ちがないから、誰でも利用できる図書館に行くしかないよね」

「図書館か……。まず、ここがどこか確認する必要があるな」

 唸る様に声を上げたセオの体が、ビクッと揺れた。

「セオ……?」

 不思議に思い見上げる私を、セオは強く抱きしめた。

 セオのその険しい表情に、不安が走る。

「……」

 セオは何かを確認するように顔を歪ませると、私を見下ろした。

「リリア、悪い」

「え……?」

「緊急事態だ。……必ず、絶対に迎えに来るから心配するな」

 と、切なく顔を歪めたまま、

 私の前から、

 消えた。

「……」

 セオを見上げた体勢のまま、しばらく止まってしまう。

 その視界にセオは居らず、周りの風景が映るだけ。

(え? 嘘? 置いて行かれた……?!)

 慌てて周りを見渡すが、セオの姿はどこにもない。

 急に一人になった私に押し寄せる不安。

 何が起こったの?

 あっちのセオの身に、何かあったってこと?

 そんな考えが頭をよぎって、体が震える。

 待って。

 私、このままどうしたら……。

「え? もしかして……」

 パニックになりかけた私に、声をかけてくれる人がいた。

「櫻木……?」

 名前を呼ばれて、私は驚き振り返る。

「あ、やっぱり」

 私に声をかけた人物は、私の姿を見てにっこり微笑んだ。

「大森君……」

 どうしようもなく、ホッとした。

 知り合いがいるだけで、こんなにも安心するなんて、思わなかった。

 しかも、彼は私のことを覚えていてくれていた。

 私に笑顔を向けてくれている。

「短いお別れだったね」

 と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ