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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
23/46

第23話 王女様の目的


「……」

 無言で私はセオに手を引かれ、外に出る。

 不機嫌なのか、無表情のセオが何を考えてるのか、私にはわからなった。

 沈みきった私の心が、浮上してくることもない。

 セオは信じろって言うけど。

 進んでしまった国がらみの婚姻は、白紙に戻すことは難しい。

「セドリック」

 セオの静かな声がして、私は我に返りセオを見上げる。

 足早に出ていくセオと私の後を、セドリックとエースの二人も慌てて追いかけて来ていた。

「きゃっ」

 急に抱き上げられて驚いた私から、小さな悲鳴が上がる。

 セオが用意されていた馬車の手前で私を抱き上げたので、お姫様だっこされた私は、慌ててセオの首に絡みついた。

「殿下?」

 用意されていた馬車に私を抱えたセオが片足をかけると、セオは近くに来たセドリックを横目で確認する。

「俺たちは先に帰る」

 セオは声を潜めてセドリックに告げた。

「え?!」

 不意打ちを喰らうように述べられて、セドリックは大きな声を上げるが。

 セオはお構いなしに、

「後は任せた」

 と、馬車に乗り込んだ。

「ちょ、セオ殿下?!」

 状況をうまく飲み込めていないセドリックを残し、

 馬車の扉が閉まった音がした途端、

 私はセオの部屋のベッドの上に組み倒されていた。


「……」


 早い展開に、頭が付いて行かない。

 瞬く瞳が、私に覆いかぶさるセオを見る。

(え? どうゆう状況? 移動した? 何で急にベッドの上に……)

「晩餐会、早く終わっただろ?」

 目の前のセオが、私を見下ろして二ッと笑う。

「え? それって……」

(会食前に、確かにそんなこと呟いていたような……)

 部屋に引き込まれた時、セオの熱のこもった瞳を思い出して胸が鳴る。

「叔父上に言い返せない第二皇子、うまく演じていたか?」

「……」

 呆然としている私の額に、セオの唇がそっと触れて離れた。

「忘れてないよな? お前が煽ったんだぞ」

 セオはじれったそうに上衣を脱ぎ捨てる。

(まってまってまって!)

「えっと。アイナ王女の件、知ってたの?」

 慌てる私の問いに、セオは自分の服のボタンを外し始めながら答える。

「ああ、当たり前だろう」

「……」

(超能力で?)

 答えを乞う瞳に、セオはフッとその表情を緩めて見せた。

「お前が心配することは何もない。すべての事柄に対処済みだと、言ったはずだ」

「え……でも」

 はだけた衣服から覗くセオの胸に戸惑いつつ、私は不安げにセオを見る。

「それなのに、お前は」

 会食中のことを思い出し、セオは不機嫌に顔を歪ませたが、私に落とされるキスは優しい。

 ほのかな温もりが私の肌に優しく触れるたび、甘い刺激が走った。

「王女が着いたら、すべて分かるし解決する。それとも……」

 再び私を見下ろすセオの瞳が揺れる。

「お前は本当に、俺を諦めるのか?」

「……」

 真っ直ぐな瞳が、不安いっぱいに濡れていた。

 あの時の、私の決意が伝わっているから。

 セオが、否定する私の答えを求めているのが分かる。

 でも……。

「たのむ……、俺から離れて行くな……」

「……」

 私はその答えを告げられず、苦しくなった。

 セオへの想いはあるのに、セオの立場を考えると、言えなかった。

 でも、セオの傍に居たいと思う気持ちは今も変わらない。

「俺には、お前しかいないし、お前が必要だ」 

「……私も」

 その瞳に答えるように、私は小さく頷いた。

「ああ、今はそれでいい。リリア……」

「……う、ん……っ」

 セオの熱い唇が、私の唇に重なった。

「あ……っ」

 こぼれる私の吐息と共に、セオが離れる。

 セオが熱い息を静かに吐くように、私に告げた。

「俺の妃になるのは、お前だけだ」

「……」

 私は熱のこもったセオの瞳と身体に答えるように、私も同じように熱をおびた体をセオに預けた。



 翌々日。

 隣国からやって来た王女一行が皇宮に着いた。らしい。

 皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下に挨拶を済ませ、王女が皇子宮に着いた時は、すでに辺りは暗かった。

 王女はたった一人の護衛騎士を連れて、皇子宮に来た。らしい。

 遅い時間だったから、エドワードが客室に二人を通し、セオと顔を合わせることはなかった。らしい。

 もちろん、私とも。

 らしいらしい、で、私はそのことを、ユイから聞いただけ。

「……」

 セオは心配するなと言う、けれど。

 心もとない私は、ため息が出続けている。

 隣国の王女とセオの婚姻。

「……」

 絵になるだろうし、誰もが納得する。

 私とは、到底違う。

 眠れる気がしなくて、私は一人庭に下り、散歩していた。

 すでに見慣れた、皇子宮。

 セオと出会った舞踏会からどのくらい経った……?

 前世であるはずの日本に数日戻っていたのが、遠い昔みたいで、変な感じ。

 ふと、夜空を見上げる。

(あの時から、私の居場所はセオ隣だと、当然のように思ってたのに……)

 こんなに簡単にぐらつくなんて、思ってもみなかった。

「……今日は、星がきれいだなぁ」

 思わずこぼれた言葉に、思いがけない返答が来た。


「ホントね」


「!」


 驚いて振り返ると、そこにアイナ王女がゆっくりと近づいてくるのが見えた。

 思いがけない人物に焦った私は、思わず頭を下げる。

「こ、こんばんは! アイナ王女様」

(あ……。この挨拶は)

 とっさの行動が、つい日本を思い出して出たお辞儀とあいさつ。

 王女に対して貴族がするものでは、決してない。

(しかも、こんばんは、なんて……)

 と、思いはしたが、今更変えれなくて、そのまま強張った顔を隠すように頭を下げたお辞儀をしていた。

 ヒヤッと、背筋が凍る。

 しかし。

「こんばんは」

 と、柔らかい声がして、私は驚く。

「顔を上げて」

 と、王女に促され、私は恐る恐る視線を上げる。

 目があったアイナ王女は、私を見てニコッと笑う。

「あなたが、リリアさんね」

「……」

(わっ……、りかちゃん人形みたい)

 ふふっと笑うアイナ王女に、思わずときめいてしまった。

 切り揃えられた前髪に、腰まで伸びた長い髪。

 茶色のつやつやしたその髪が、夜風になびいて輝いていた。

「お邪魔だったかしら?」

「いえ! そんなこと、ないです。でも、何で私の名前を?」

「ああ、あなたのことはセオ皇子と密約を交わす際に聞きました」

「密約?」

「……」

 戸惑う私を見て、王女は意外そうにしつつも、私を伺い見る。

「聞いていませんでしたか?」

「はい……」

 ズキッと、少しだけ心が痛む。

「そう? まあ、明日にでもハッキリするでしょう。私から言うのもなんですし……」

 と、アイナ王女は夜空を見上げ、星と同じぐらい、その瞳をキラキラさせている。

「ここまで遠かったけど。来てよかったわ」

「……」

「あなたにも、会えたし」

「え……?」

 私の動揺をよそに、王女はにっこり微笑んだ。

「あなた、日本人よね」

 と。 


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