第23話 王女様の目的
「……」
無言で私はセオに手を引かれ、外に出る。
不機嫌なのか、無表情のセオが何を考えてるのか、私にはわからなった。
沈みきった私の心が、浮上してくることもない。
セオは信じろって言うけど。
進んでしまった国がらみの婚姻は、白紙に戻すことは難しい。
「セドリック」
セオの静かな声がして、私は我に返りセオを見上げる。
足早に出ていくセオと私の後を、セドリックとエースの二人も慌てて追いかけて来ていた。
「きゃっ」
急に抱き上げられて驚いた私から、小さな悲鳴が上がる。
セオが用意されていた馬車の手前で私を抱き上げたので、お姫様だっこされた私は、慌ててセオの首に絡みついた。
「殿下?」
用意されていた馬車に私を抱えたセオが片足をかけると、セオは近くに来たセドリックを横目で確認する。
「俺たちは先に帰る」
セオは声を潜めてセドリックに告げた。
「え?!」
不意打ちを喰らうように述べられて、セドリックは大きな声を上げるが。
セオはお構いなしに、
「後は任せた」
と、馬車に乗り込んだ。
「ちょ、セオ殿下?!」
状況をうまく飲み込めていないセドリックを残し、
馬車の扉が閉まった音がした途端、
私はセオの部屋のベッドの上に組み倒されていた。
「……」
早い展開に、頭が付いて行かない。
瞬く瞳が、私に覆いかぶさるセオを見る。
(え? どうゆう状況? 移動した? 何で急にベッドの上に……)
「晩餐会、早く終わっただろ?」
目の前のセオが、私を見下ろして二ッと笑う。
「え? それって……」
(会食前に、確かにそんなこと呟いていたような……)
部屋に引き込まれた時、セオの熱のこもった瞳を思い出して胸が鳴る。
「叔父上に言い返せない第二皇子、うまく演じていたか?」
「……」
呆然としている私の額に、セオの唇がそっと触れて離れた。
「忘れてないよな? お前が煽ったんだぞ」
セオはじれったそうに上衣を脱ぎ捨てる。
(まってまってまって!)
「えっと。アイナ王女の件、知ってたの?」
慌てる私の問いに、セオは自分の服のボタンを外し始めながら答える。
「ああ、当たり前だろう」
「……」
(超能力で?)
答えを乞う瞳に、セオはフッとその表情を緩めて見せた。
「お前が心配することは何もない。すべての事柄に対処済みだと、言ったはずだ」
「え……でも」
はだけた衣服から覗くセオの胸に戸惑いつつ、私は不安げにセオを見る。
「それなのに、お前は」
会食中のことを思い出し、セオは不機嫌に顔を歪ませたが、私に落とされるキスは優しい。
ほのかな温もりが私の肌に優しく触れるたび、甘い刺激が走った。
「王女が着いたら、すべて分かるし解決する。それとも……」
再び私を見下ろすセオの瞳が揺れる。
「お前は本当に、俺を諦めるのか?」
「……」
真っ直ぐな瞳が、不安いっぱいに濡れていた。
あの時の、私の決意が伝わっているから。
セオが、否定する私の答えを求めているのが分かる。
でも……。
「たのむ……、俺から離れて行くな……」
「……」
私はその答えを告げられず、苦しくなった。
セオへの想いはあるのに、セオの立場を考えると、言えなかった。
でも、セオの傍に居たいと思う気持ちは今も変わらない。
「俺には、お前しかいないし、お前が必要だ」
「……私も」
その瞳に答えるように、私は小さく頷いた。
「ああ、今はそれでいい。リリア……」
「……う、ん……っ」
セオの熱い唇が、私の唇に重なった。
「あ……っ」
こぼれる私の吐息と共に、セオが離れる。
セオが熱い息を静かに吐くように、私に告げた。
「俺の妃になるのは、お前だけだ」
「……」
私は熱のこもったセオの瞳と身体に答えるように、私も同じように熱をおびた体をセオに預けた。
翌々日。
隣国からやって来た王女一行が皇宮に着いた。らしい。
皇帝陛下、皇后陛下、皇太子殿下に挨拶を済ませ、王女が皇子宮に着いた時は、すでに辺りは暗かった。
王女はたった一人の護衛騎士を連れて、皇子宮に来た。らしい。
遅い時間だったから、エドワードが客室に二人を通し、セオと顔を合わせることはなかった。らしい。
もちろん、私とも。
らしいらしい、で、私はそのことを、ユイから聞いただけ。
「……」
セオは心配するなと言う、けれど。
心もとない私は、ため息が出続けている。
隣国の王女とセオの婚姻。
「……」
絵になるだろうし、誰もが納得する。
私とは、到底違う。
眠れる気がしなくて、私は一人庭に下り、散歩していた。
すでに見慣れた、皇子宮。
セオと出会った舞踏会からどのくらい経った……?
前世であるはずの日本に数日戻っていたのが、遠い昔みたいで、変な感じ。
ふと、夜空を見上げる。
(あの時から、私の居場所はセオ隣だと、当然のように思ってたのに……)
こんなに簡単にぐらつくなんて、思ってもみなかった。
「……今日は、星がきれいだなぁ」
思わずこぼれた言葉に、思いがけない返答が来た。
「ホントね」
「!」
驚いて振り返ると、そこにアイナ王女がゆっくりと近づいてくるのが見えた。
思いがけない人物に焦った私は、思わず頭を下げる。
「こ、こんばんは! アイナ王女様」
(あ……。この挨拶は)
とっさの行動が、つい日本を思い出して出たお辞儀とあいさつ。
王女に対して貴族がするものでは、決してない。
(しかも、こんばんは、なんて……)
と、思いはしたが、今更変えれなくて、そのまま強張った顔を隠すように頭を下げたお辞儀をしていた。
ヒヤッと、背筋が凍る。
しかし。
「こんばんは」
と、柔らかい声がして、私は驚く。
「顔を上げて」
と、王女に促され、私は恐る恐る視線を上げる。
目があったアイナ王女は、私を見てニコッと笑う。
「あなたが、リリアさんね」
「……」
(わっ……、りかちゃん人形みたい)
ふふっと笑うアイナ王女に、思わずときめいてしまった。
切り揃えられた前髪に、腰まで伸びた長い髪。
茶色のつやつやしたその髪が、夜風になびいて輝いていた。
「お邪魔だったかしら?」
「いえ! そんなこと、ないです。でも、何で私の名前を?」
「ああ、あなたのことはセオ皇子と密約を交わす際に聞きました」
「密約?」
「……」
戸惑う私を見て、王女は意外そうにしつつも、私を伺い見る。
「聞いていませんでしたか?」
「はい……」
ズキッと、少しだけ心が痛む。
「そう? まあ、明日にでもハッキリするでしょう。私から言うのもなんですし……」
と、アイナ王女は夜空を見上げ、星と同じぐらい、その瞳をキラキラさせている。
「ここまで遠かったけど。来てよかったわ」
「……」
「あなたにも、会えたし」
「え……?」
私の動揺をよそに、王女はにっこり微笑んだ。
「あなた、日本人よね」
と。




