表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
22/46

第22話 晩餐会と策略


「……」


 せっかく、皇帝陛下と皇后陛下の心遣いで和やかに進んでいた会食が。

 公爵様の一言で崩れ落ちた。

 重く苦しい沈黙が私をさらに苦しくさせる。

 私はその発言に衝撃を受けて、胸が苦しく、身動きが取れないし。

 隣に座るセオは、ただ、不機嫌に公爵様を見ている。

「……」

 言葉を失ったのは私だけでなく、皇后陛下、皇太子妃殿下も同じだった。

 皇帝陛下と皇太子殿下、セオは、公爵様の発言を予想していたのか、あまり驚いた様子には見えなかった。

 公爵様は、それも見越してか……。

 堂々としたその立ち振る舞いは変わることはない。

 不意に目に留まった私の前に座るエヴァンの微笑みが、さらに深まる。

 ぞわッと、全身に嫌な感覚が私を襲っていた。


 本当につい先ほどまで、厳かな雰囲気の中でも、和やかな会食が進んでいた。

 私は、セオとは少し毛色の違うイケメン、イアン皇太子殿下をつい観察してしまう。

 皇帝陛下の威厳漂う雰囲気と、皇后陛下のキリッとした美形がよく似ている。

 に、しても。

「……」

 感情のない無表情な皇子、そのものだ。

(兄弟そろって……笑わない。しかも、イアン皇子もイケメン……)

 と、何気なく思った感想も、隣のセオがムッとするのが分かる。

「……」

 そんなセオは無視して、今度はその皇太子殿下の隣に座る皇太子妃殿下に目が行った。

 柔らかい笑顔を浮かべる愛らしい妃殿下は、私の視線に気が付くと、その顔にさらに優しい微笑みを浮かべてくれる。

 思わず照れてしまい、私の頬がピンクに染まった。

 そして。

 エヴァンは私の真向かいに座り、私と目が合うたび、ニコッと微笑んだ。

「……」

 その度、私の頬が引き攣る。

(彼はいったい、何を考えているの……?)


 そして、突如訪れた衝撃は、公爵様の一言。


「せっかくの皇妃の顔合わせですが、私からセオ殿下へ、別の婚姻のご提案をしたいと思います」


「!」

 驚いた私は、勢いよく公爵様を見た。

(セオに、別の婚姻……?)

 心の中で復唱して、ぞわッと、血の気が引いた。

(え……、私、セオの傍に居られないって、こと……?)

 状況が理解できず、不安だけが駆け巡る。

 グッと、私は自分の胸を押さえる。

「……」

 私の不安に見上げる視界の中で、セオは黙って、公爵様を見ていた。

 公爵様はセオの視線に答えるように、その顔に余裕の笑みを浮かべる。

「……」

(私のことは、眼中にすらない……)

 分かり切っていたことだけど、公爵様の攻撃は、セオに絞られている。

 私はただ、込み上げる不安を押さえることができず、ズキズキと痛む胸を押さえるのがやっとだった。

「詳しく、聞こうか」

 セオはそう告げて、公爵様を見る。

 その表情に感情はなく、ただ、鋭い眼差しが公爵様を捉えていた。

 もちろん、と、頷いた公爵様が、話を進める。


「お相手は、隣国の一人娘、アイナ王女です」


「……」

 私は静かに、目を見開いた。

 驚きを隠せず、動揺しているのは私だけ。

 皇帝陛下は事前に聞いていたようだし、セオはただ、黙って公爵様を見ていた。

(王女様……)

 突然告げられたセオの相手に、自分の身分を思い出す。

 この世界は、格差社会。

 前世の世とは、違うことを嫌でも思い知らされる。

 隣国のアイナ王女は、唯一の継承者。

 その夫ともなれば、それなりの身分も必要だ。

 その点、セオなら申し分ない。

 公爵様にとって邪魔なセオを、隣国へ追いやる事もできる。

 婚姻関係で、隣国との絆もできる。

「……」

 不安になる私に、公爵様はさらに見下した視線を向ける。


「そこの伯爵令嬢との婚約は、まだ帝国内に周知されたものではありません。婚姻後の離婚でもあるまい。今から破棄しても、問題ないのでは?」


 みんなが押し黙っていることをいいことに、ニヤッと嫌な笑みが、公爵様の顔に浮かぶ。

「婚約破棄なんてよくあること。ご令嬢もご経験されたことがあるでしょう?」

「……」

 ふと、エヴァンと目があった。

 彼は私を見て、ふんわりと微笑む。

 その、優しい雰囲気と違い、ゾクッと背筋が凍った。

 スコット様との婚約は、スコット様の存在がないものになってきた今、婚約していた事実もない。

 公爵様が言う、私の「ご経験」はエヴァンとの事。

(第一、破棄がどうのという前に、エヴァンとは婚約すらもまとまらなかった話を蒸し返すなんて)

 込み上げる感情をぶつけることもできないまま、やり場のない想いだけが膨らんでいく。

「あ……っ」

 そんな私の手を、セオが握った。

「……セオ?」

 セオは席を立ち、私の隣で公爵様を見る。

「俺は、リリア以外と結婚する気はないが?」

 それは、公爵様も想定内の言葉。

 クスっと笑みを浮かべ。


「まあ、そんなこと言わずに、一度会ってみたらいいのでは?」


 と、セオを促した。

「会う……?」

 怪訝な瞳を向けられて、公爵様は満足げに微笑んだ。

 

「ええ。王女は今、こちらに向かっています。セオ殿下との婚姻を結ぶために」


「……っ!」

 どくん、と、胸が苦しく締め付けられる。

 王女がこの帝国に向かっている?

 セオとの婚姻話を詰めるために?

「……」

(なんだ……)

 小さな、やりきれない気持ちが、吐息として漏れる。

(もう、両国で決まった話なら、どうすることもできないじゃない)

 しがない伯爵令嬢と隣国の王女さま。

 比べるまでもない。

(皇族にとって、個人の感情は必要ない)

 ここで私が何を言って王女との婚姻を阻止しても、

 感情に訴えてセオを引き留めようとしたって、彼に迷惑をかけるだけだ。

(なら、私から……)

「っ!」

 顔を上げた私の目に、セオの切ない顔が飛び込んできた。

 私たちの関係をなかったことにしようと切り出そうとしたのに、言葉が引っ込む。

「そう簡単に、諦めるな」

 セオの切実な瞳が、私に訴える。

「お前は、俺を信じていればいい」

「……セオ」

 気持ちが全部伝わってしまうのは、

(本当に、厄介ね……)

 グッと、セオの私の手を握る力が強くなった。

 セオは再び、公爵様を見る。

「悪いが、俺はリリアを手放すつもりはなし、隣国の王になるつもりもない」

 ほお、っと、公爵様は声を上げた。

「しがない伯爵令嬢より、一国の王になったほうが、殿下の、この帝国の助けになるのでは?」

「……」

 誰も公爵様に反対しない。

 皇帝陛下も皇太子殿下も。

 それは、その婚姻がもたらす意味を理解しているから。

(セオ、これは私たちの想いだけでは無理だよ)

 私の気持ちをセオに向けるが、セオは答えない。

 セオは公爵様にも返事をすることなく。


「気分が悪い。陛下、兄上。これで失礼します」


 と、簡潔にのべると、私を連れ、皇宮を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ