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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第21話 嫉妬と火照り


『こいつ、お前のことが忘れられないようだな』


 セオの不機嫌な声が、私の頭に響いた。

『公爵の令息をここまで夢中にさせるとは、お前、なにしたんだ?』

「……」

 私は、引きつった顔で、エヴァンに微笑み返すだけの挨拶をするのが手いっぱいだった。

『なにって……。何回かダンスしただけだと』

 そう、自分でも、エヴァンに気に入られた理由が以前も今も、見当がつかない。

 機嫌が悪いセオの問いに答え、目の前のエヴァンに微笑みながら。

(……視線が痛い。顔上げたくない。もう、帰りたい……)

 私はエヴァンの後ろにいる、不愉快そうな怖い顔をしたルーカス公爵の視線を受けていた。

『セオが直接彼を透視すればいいじゃないっ』

 泣きそうな私の心の声に、セオが横で大きなため息を漏らす。

『そうすることにしよう』

「……っ!」

(本当に?!)

 セオの返答に驚いて私がセオを見上げる間もなく、セオはエヴァンの手を掴み、私を自分の元に引き寄せた。

「あ……っ」

 驚いたエヴァンは我に返ったのか、セオを見て頭を下げる。

「セオ皇子殿下っ」

 少し焦るエヴァンの返した言葉を遮るように、足早に近づいて来たルーカス公爵が、嫌そうに声を上げる。

「セオ殿下、お久しぶりです」

 ピリッとした空気が、二人の間に流れた。

「叔父上も、お元気そうで」

 無表情、いや、不機嫌なだけのセオもまた、不愉快を隠そうともしない声で、ルーカス公爵に接していた。

 いつも無表情で感情のないセオ皇子、が、出来上がっている。

 二人の挨拶が終わると、ルーカス公爵は、

「あの時のご令嬢に、このような形で再会するとは思いませんでしたよ」

 と、私に蔑む視線を向ける。

(ああ、敵意を向けられている……。以前も好意的ではなかったけどっ)

 そんな心の叫びをひた隠し、私は公爵ににっこり微笑んだ。

「その節は、大変お世話になりました」

「いえいえ。ご令嬢のお力になれなかったようで、申し訳ないですね」

「……」

 心にもない言葉に、私の笑顔が引きつる。

(その目が、怖い……)

「いえ、公爵様のせいでは……。私が不甲斐ないからですわ。でも、セオ殿下と素敵な出会いをすることができました。毎日、過分な愛をいただいております」

 うふっと嘘っぽい笑みを浮かべる私に、公爵様の冷たい視線が降り注いだ。

「……」

(あ~……、なにしてるんだろ、私)

 自己嫌悪に陥る私の隣で、

「ハっ……」

 と、セオは顔を片手で覆うと、声を出して笑い出した。

「……」

 そこに居る、ルーカス公爵はもちろん、エヴァンやその他の従者や周りの人たちのほぼすべての驚く視線が、声を上げて笑うセオに注がれている。


(あの、セオ殿下が笑っている?!)


 誰もが、その驚きを隠せず、セオは満足そうだった。

 そして、フッと柔らかな表情を浮かべ、公爵を見る。

「叔父上、彼女は俺にぴったりな相手だと思わないか?」

「……」

 公爵の、セオの意図を図ろうとする視線が強くなる。

「エヴァンのために、あの時、リリアを受け入れなくてありがたく思う」

 セオはそう言うと、呆気に取られている私を引っ張った。

「エヴァン、後でな」

 まだ、ぽーっとしているエヴァンの肩に手を置き、セオは公爵親子を残して、私と共に皇宮に入って行った。



「……?」

 しばらく歩くと、セオはキョロキョロしてから近くの部屋に私を引き込んだ。

「え……?!」

 セドリックの呆れた顔と、エースの戸惑った顔を最後に、その部屋の扉が閉められる。

「セ……っ、んっ」

 セオの名を呼ぶ前に、セオの唇で遮られた私から、吐息が漏れる。

 声を引っ込めた私から離れたセオは、そのまま私の肩に顔をうずめた。

 ため息が漏れるように、セオの声が頭に届く。

『これから教えることに、驚くなよ?』

「……」

 セオはあえて、テレパシーで話し掛けてくる。

 私は黙って、頷いた。

『お前の婚約を、ことごとくつぶしてきたのは、エヴァンだった』

「え……」

『お前と懇意になろうものなら、公爵の権限でつぶしにかかったようだ』

「……」

 そんなことが本当にあったのだろうか、との疑問は、意味がない。

 セオが「見たこと」が、事実だから。

 複雑な気分になる。

 あの純真無垢そうな彼が、裏でそんな手を回していたなんて。

(……私の、為に?)

 考えてみても、彼が私に執着する理由がわからない。

『あと、これは叔父の考えだと思っていたが』

 セオの戸惑う声色に、私は考えるのを止めてセオの言葉を待った。

『エヴァンの策略だったみたいだ。それに、叔父が便乗したのだろう』

 伝えられることが理解できずに残りの言葉を待つが、セオはそれ以上伝えてこなかった。

『……何の話ですか?』

 思い切って尋ねるも、セオはギュッと私を抱きしめる腕に力を込めるだけ。

『セオ?』

(黙ってたら、わからないよ?)

『……お前は、俺を信じて俺の隣に居ればいい』

 そう響く言葉から、セオの不安が感じられた。

『俺を、信じてろ』

 と、さらに抱きしめる腕に力が込められた。

「……」

 私はそれに答えるように、セオを抱きしめ返す。

『私を探し出して、あそこまで迎えに来てくれたんだから、信じてるよ。だから、私に後悔させないでね』

 甘えるように抱きつく私に、セオはほんの少し、力を緩める。

『ああ……、それに』

「?」

 セオは顔を上げると、私を見下ろした。

「お前に、過分な愛は与えていない」

「……」

 ルーカス公爵に言った言葉が気に入らなかったようで、セオはすねた表情をしていた。

「相応な、いや、まだ足りないぐらいだ」

 と、また、私にキスをした。

 そのキスは耳や首筋に落ちると……。


「いた……っ!」


 うなじに痛みが走って、私は思わずセオを引き離す。

 痛みが走った場所を確認する様に、手を添えてセオを睨む。

「……なにしたの?」

(想像はつくけどっ!)

 真っ赤になって睨む私から、セオはスッと目を逸らした。

「セオっ!」

 私に責められて、セオは悪い、と謝った。

「俺のものだと、印をと……」

「跡付けたの?! これからみんなと顔を合わせるのに?!」

 責め寄る私に、セオは口ごもる。

「いや、だから目立たないところに……」

「やっと、他の所の痣が消えてドレスが着られるようになったのにっ!」

 泣き叫びそうな私に、セオは苦笑する。

「髪に隠れてパッと見るだけじゃわからないから、大丈夫だ」

「……」

「本当だって。二人に聞けばいい」

 疑い見る私の瞳に、セオは扉の外にいるだろう二人に確認するよう促すが。

(あの二人が、セオを前に本当のこと言うわけないじゃんっ)

「……やっぱり、セオの事なんて信じられません」

「なっ!」

 涙目で訴える私の前で、セオはようやく、うろたえるように焦りだした。

「信じてないのは、セオじゃないっ!」

 キッと睨み上げる私に、セオがムッとしたように声を上げる。

「ちょっと跡つけただけだろっ」

「エヴァンの記憶に触発されて、我慢できないなんて」

「う……っ」

 図星だったのか、セオが言葉に詰まった。

「子供じみた嫉妬や意地悪は、止めてくださいっ!」

 私の声が、部屋に響く。

「ちょ、声が大きいぞっ!」


「そんなことしなくても、私が好きなのはセオだけなのにっ!」


「……っ!」


 私はそう叫ぶと、セオの唇を奪うようにキスをしていた。

 自分からする深いキスは、私の体を火照らせた。

 怒りやなんやらの感情をそのキスにぶちまけると、私は熱い吐息と共にセオから離れる。

「フ―ッ……」

 顔を真っ赤にさせたセオの口から、何かを押し殺すように熱い息が吐き出された。

「お前……」

 小さくこぼれる声が、震えている。

「皇子宮に戻ったら、覚悟してろよ」

 熱がこもった瞳を向けらて、私の鼓動が大きく跳ねた。


「今日の晩餐会、さっさと終わらせてやる」

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