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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第2話 予期せぬ訪問者


(あれは、紛れもなく超能力よね……)


 昨日の皇子とのやり取りを思い出す。

 ()が存在しているこの世界には、魔法などの能力は存在しない世界のはず。

 魔法だとか錬金術と言った類のものは、絵本でよく見た。

(でも……)

 昨日のセオ皇子のあの能力は、この世界には存在しない概念。

 超能力。

 急に私の前に現れたのは、瞬間移動。

 私を宙に浮かせたことや、体格のいい騎士の男性を軽々と持ち上げたのは、サイコキネシス。

 あの高さから舞い降りれるのは、空中浮揚。

 たぶん、会話の返答からして私の心の声も聞こえてた。

「……」

 だから、わざと私の手を取って、サイコメトリーで私のことも知ったはず。

 クロフォード伯爵の娘、リリア・クロフォード令嬢だって。


(私の正体はバレてるってことか……)


 まさかこの世界で超能力を目の当たりにするとは、思ってもみなかった。

 昨日のことは、前世の知識で得た超能力だと、皇子のすべての行動に説明ができる。

 自分が転生したって事実され、信じられなかったのに。

 超能力にしたって、前世でも私はそれを本やテレビの想像の世界で目にしたにすぎない。

 それなのに……っ!

 皇子の超能力はすんなりと受け入れてしまっている自分がいる。

「……」

(まあ、実際、身をもって体験してしまったのだから、無理もないか)

 酔いも完全に冷めてたし。

「……」

 はぁ、と、私は小さなため息を落とす。

 私には、もう一人の人間の記憶が存在する。

 とは言っても、名前と環境が変わってしまっただけで、中身は同じ。

 前世の記憶、と言ってしまうにはあまりにも鮮明で。

 長い事生きてる、そんな感覚。

 ただ。

 人一人の、生きて死んだ人生の記憶を持っているだけ。

 眠る様に死んで、起きたら三歳のリリア・クロフォードだった。

 リリアに生まれてからの幼少期は、こっちの世界に慣れるのに大変だったから、

 せめて今は、と、平穏無事に過ごしてきたハズなのに……。


(もしかして私、厄介ごとに巻き込まれた……?)


 体から血の気が引く。

 関わりもない、皇子と出会ってしまうし。

 さらに、見てはいけない能力を見てしまった。

 けど、セオ皇子が異能を持っている存在だなんて、知られていない。

「……」

 当然か。

 こっちの世界も前世でも、人と違う人間は恐れられ、排除される。

(私を脅してきたぐらいだから、周りには内緒にしてきたはず……)

 思えば。

 セオ皇子の不遇の幼少期は、超能力のせいかもしれない。

 第二皇子の存在が知らされたのは、今から10年前。

 セオ皇子が15歳の時。

 

(確か、それまでずっと、お母様と離れに幽閉されていたって話よね……?)


「はぁ……」

 私は小さなため息をもらす。

 雲の上の存在である皇室のことを考えても仕方がない。

 そもそも、自分のことだって、解決できていない。

 昨日の仮面舞踏会でも、いい出会いはなかった。

 兄は伯爵位を継ぐために今は伯爵領で勉強中で、私は両親と共に帝都に滞在している。

 目的は、すでに婚期を逃した私の結婚相手を捜すため。

「……」

 リリアはもうすぐ、23歳になる。

 こっちの世界では、完全なる行き遅れ。


「……崖っぷちだわ」


「え? 何か言いました?」

「あ……」

 しまったっ。

 思わず口に出た声に気が付き、私は苦笑する。

 いけない。

 今はクロフォード伯爵邸で、アフタヌーンティーを楽しんでいる最中でした。

 お茶のみ友達のご令嬢、ラン男爵令嬢とアリサ伯爵令嬢の視線が私に向けられている。

「いえ。それより、お二人はセオ皇子について、何か知っていますか?」

「セオ皇子ですか……?」

「そうですね……」

 二人は私が放った問いかけに答えようと考え込む。

 そして、最初に口を開いたのはアリサだった。

「皇太子殿下の異母兄弟で、皇室の護衛騎士団長で皇太子の最側近って事ぐらいかしら?」

「無表情で、誰も笑った顔を見たことがないそうです」

 と、続いたランの怯えるように足された言葉に、私は引っかかる。


(え? 笑った顔を見たことない? だって、昨日笑ったよね? 私を笑顔で脅したよ?)


 私の動揺は他所に、アリサとランの話は続く。

「何事も、無表情で淡々とされるそうですわ」

「慈悲の心もなく、感情のない皇子だとも言われています。情け容赦なく、処罰されるとか」

「ああ、皇子の存在を長年公表されていませんでしたから、その知られていない時期に受けた不当な扱いを清算するかのように、かなりの者を処分されたと言われていますわね」

「目が合うだけで殺されるなんて、噂も」

「セオ皇子は、人の心が読めるのではないかとも言われますわ」

 アリサとランがぶるっと体を震わせる。

「そう、なんだ……」

 私は引き攣った笑みを浮かべる。

(ってゆうか、聞えるんだよ、本当に)

 と、心の中で突っ込みながら……。

 苦笑する私の横で、ランが思い出したように声を上げる。

「そういえば、昨日の仮面舞踏会は、セオ皇子のために開かれたと聞きました」

「そうなの?」

 驚く私に、ランは頷く。

「はい。ですから、昨日招待されたご令嬢は皆、セオ皇子のお妃候補です」

 私たちもですよ、と、ランは暗く微笑んだ。

「……なるほど」

(ランってば、よっぽど皇子が怖いのね)

 私は、ランのどんよりした顔を眺めた。

 セオ皇子のための舞踏会。

 なのに、昨日の彼は逃げるように人から隠れていた。

 見られて困る能力を使ってまで……。

(結婚したくないってこと……?)

「でも、皇子は参加されなかったと聞きましたわ」

 アリサの言葉に、私が驚く。

「え? ……参加されていない?」

「ええ、誰もセオ皇子の姿は見ていないそうです。まあ、仮面舞踏会でしたので、本当はいらっしゃったのかも知れませんが」

「……」

(最初から、逃げてたのね)

 でも、セオ皇子と私が会ったのは、舞踏会もかなり終盤に近い時間。

 それまで器用に隠れていられたとは思えない。

 皇子のあの容貌は、見る人が見たらわかるはず。

 再び、私の顔が引き攣る。

(まさか、記憶を操作する能力も、持ってる……?)

 ありえない話ではないと、思った。

「……」

「リリア?」

 考え込む私を、二人の心配そうな瞳が覗く。

「え? ああ……なんでもありません」

 と、私はにっこり微笑んだ。

 これ以上、セオ皇子のことを聞くと墓穴を掘ってしまいそうで、

「それよりラン。昨日はお目当ての殿方に会えましたか?」

 と、話題を変える。

「はいっ! 聞いてくださいますか?」

 と、ランの嬉しそうな声が上がる。

 そんなランを見て、私はホッとした。

(後は二人の恋バナでも聞こうっ!)

 と、私は二人の話に耳を傾ける。

 彼女たちの恋の話は尽きることなく。

 キラキラした笑顔のまま、楽しい一時はアッと言うまで。

 いつの間にか、日が傾いていた。

 ひんやりとした空気を感じ、アフタヌーンティーの時間が終わる。

 私は、満足そうな二人を見送り、

 自分の部屋に戻った。

 いつものように扉を開けるまで、

 忘れていた。

 昨日の、出来事を。

 彼、セオ皇子のことを……っ。

 

「……」


 ばたん。


 私は開けた扉を閉めなおす。

「……」

 お決まりのパターンながら。


(セオ皇子が、何で私の部屋でくつろいでるのよ……っ!)


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