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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第16話 それぞれの幸せのために


(……夢じゃない)

 目が覚めてまず、私は隣で眠るセオを確認した。

 スヤスヤ眠るセオの寝顔が可愛くて、シーツの下に隠した顔が思わずにやける。

(戻って来たんだ。良かった)

 好きな人が傍にいるだけで、幸せな気持ちになる。

 今はまだ、ドキドキするけど。

 この気持ちがいつか、穏やかな安らぎに変わる。

 はず……?

「んー……朝からうるさいなぁ」

 重たい瞼をゆっくり上げて、セオが起きる。

 その様子を、ベッドの上で頬杖をつきながら、私はそっと眺めていた。

「……」

 目を開けた瞳に私が映ると、セオは動きを止めて私を見つめる。

「?」

 首を傾げて微笑む私を見て。

「!」

(あ、顔が赤くなった)

 かと思ったら、セオは私を抱きしめた。

「はああああああぁ」

 と、セオの大きなため息が私の耳元に落ちた。

「おはよう、セオ」

「……おはよう」

 ギュッと、私を抱きしめる力が強くなった。

「……ちゃんと、居るな」

 確認するかのように力強く抱きしめられて、苦しいけれど、私もなんだかホッとする。

 セオの胸に顔をうずめる私に安心するように、セオは優しく包み込んだ。

「……あー、また、執事に怒られるな」

 セオの嘆きに、いつかのエドワードさんの言葉を思い出し、笑う。

 あの時は何もなかったけど。

「私たちの婚約は、まだ正式じゃないの?」

「ああ、スコットの問題がな」

「……」

 そうだった、と、私はスコット様のことを思い出す。

 昨日はこっちに戻ってこれた感激でいっぱいだったけど。

 スコット様を。

 渡辺先輩を、あの世界に戻さないといけない。

「お前が慣れていたのは、あの世界で経験があったからだな」

「……?」

 突然、寂しそうに告げられて、私はセオの胸の中から覗き見る。

 ギュッと目をつぶったまま、セオは私の額に自分の額を付けた。

「前世の記憶か……。あそこは、不思議な世界だった」

 思い出したように語りだすセオは、小さな息をつく。

 開かれた瞳が、私をまっすぐ見た。

「初めては、あの世界でか? まさか、スコットと……」

「!」

 セオがおかしな方向に妄想し出したので、私は慌てて声を上げる。

「え、何を……? って、スコット様って、渡辺先輩でしょ? ないない、全然、ない」

「……」

 ジッと見つめられる瞳に、思わず吹き出してしまう。

「私たちの関係って、セドリック様とエースみたいな上下関係だったのよ? 男女の関係なんて疑う余地もないよ」

 けらけら笑う私を見ても、セオは納得してくれない。

「えー、本気で言ってるなら、怒るよ?」

 不意に、またギュッと抱きしめられる。

「心配なら、過去の記憶でも覗く?」

 不安げに覗き見上げる私に、セオは頭を横に振る。

「いい。それより、……今シたい」

「え?!」

「お前の、初めての男に少し妬いた」

「はぁ?!」

「……」

 セオの腕の中でジタバタし始める私を、セオは離す気がないようだ。

「ちょっ、……待って! 朝からそんなっ」

「夜より、朝の方が元気だろ?」

「何を……っ!」

 セオのキスが、私の耳に落ちる。

 ビクンと、私の体が跳ね上がった。

 …

 …

 …

 しばらくして。

 …

 …

 …

「ああ、あああああああぁ……」

 私の、変な声が部屋に響く。

 セオが、申し訳なさそうに身を小さくさせていた。

「あのですね、前世がどうであれ、このリリアではセオが初めてなんです。キスも何もかも全部っ!」

 大声を上げる度に力が入らず、体がフルフル震える。

「ああっ!」

 思い通りに動かない体にイライラしながら、私はセオに怒りをぶつけていた。

「……すまない」

 小さく謝るセオに、私は大きなため息をつく。

「スコット様だって、待ってるのに。……このままでは帰れません」

 ベッドで動けず、うな垂れる私を見て、セオがオロオロする。

「もう……、変なやきもちは止めてよ」

 チラッと視線だけでセオを見上げる私に、セオはコクコク何度も頷いて見せる。

「スコット様には悪いけど……、もう少し休んでから行きますね。服も、どうしよう」

 パジャマの様な部屋着で帰って来たから、人様の前に出るようなドレスもない。

 せめてワンピースでもあればと、麓に降りる予定だったのに。

 時間だけが過ぎていく。

「ああ、服なら問題ない」

「え?」

「この前リリアの服を手配したからな。補充してある」

「……」

 部屋に隣接していたクローゼットから、セオの声がする。

「これはこれは……。手ぶらで来ても、しばらくはここで過ごせるな」

 感心したセオの言葉が聞こえる。

「ここの管理者は、優秀だな」

 うんうん頷くセオを見て、私は呆れるしかない。

「……ずいぶん、かっちりした服を選ぶのね」

 セオが選んできてくれた服を受け取って、素直な感想を述べる。

 長袖のロングスカートのワンピース。

 胸元から首までしっかり覆うデザインのそれを見て不思議そうな私から、セオは気まずそうに視線を逸らした。

「うん、なんか、悪い」

「……え?」

 すぐさま謝るセオを不思議に思いながら、ふと、自分の体を見た。

 見て確認しながら、目がだんだんと見開いて行く。

「……」

 体のいたるところにセオの付けた跡があって。

 私は強く強く、叫んでいた。


「セオのバカぁああああああ」



 ムッと不機嫌な私を連れて、皇子宮に戻ったのは、ほぼ、昼だった。

 でも、そんな不機嫌を忘れるほど、私の元に飛び込んできたのは。

「ああ、リリアお嬢様っ! ご無事で」

「この件で、こんなにも殿下の能力が頼もしいと思ったことはありませんっ」

 執事のエドワードと侍女長のハンナだった。

 セドリック様とエースも、安堵した表情を見せている。

 スコット様の姿も、そこにあった。

「おかえり、リリア。……ごめんね」

 スコット様の言葉に、私は頭を横に振る。

「むしろ、これで良かったと思ってる」

 と、微笑む私に、スコット様は苦笑する。

「ああ、そういうところ、櫻木さんらしい……」

「……」

「……」

 私とスコット様、セオの間に、ヒヤッとした時間が流れた。

 しかし。

「……なにも、起こらないな」

「ね」

 と、私とセオが確認し合う中で、スコット様は心底安堵する。

「わぁあああああ、焦ったっ」

「……もう、あっちに体ないし。名字だけなら移動しないのかも」

 引き攣る笑みでその場を取り繕う私を、セオはグッと自分の方に引き寄せた。

「そんなに心配しなくても」

「……」

 今度はセオがムッとしながら、私を引き寄せたまま離さない。

 その様子に、私は少し笑ってしまう。

 それから、改めてスコット様を見た。

「彼女、待ってました」

「……」

 なんとも言えない表情で、スコット様は私を見つめる。

「セオ、お願いがあるの」

 私はセオを見上げた。

「記憶を、消してほしい」

「……」

 セオの瞳が、私をジッと見る。

「スコット様の、こっちの記憶と、事件の記憶」

 分かった、と、セオは無言で頷いた。

 スコット様は、慌てて私に告げる。

「ああ、待って。消しちゃう前に、君に伝えとかないと」

「……?」


「分かった」

 スコット様からの話を聞き終えて、私は静かに頷いた。

「名前、呼んだ後は、どうなるの?」

「大森が消えた後、しばらくは大騒ぎだったよ。でも、一日たって、大森を覚えてる人が少なくなって。一週間もしたら、家族でさえ彼のことを覚えてなかった。その時思ったんだ、彼はあっちに帰ったのかもって。名前を呼んだのは偶然だけど、そんな効力があるなんて思ってなかったから、驚いた」

「そっか……」

 私は小さく息をつく。

「スコット様、あっちで幸せになってね。私はここで、幸せになるから」

 私の言葉に、スコット様は優しく微笑んだ。

「名前、呼ぶよ」

「……ありがとう」

 スコット様はそうつぶやくと、そっと瞳を閉じる。


「元気でね。渡辺 航(わたなべ わたる)先輩」


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