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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第15話 大好きな人の元へ


 大森君と話していると、ヒナ先輩が顔を出した。

 ヒナ先輩に素直に現状を伝え、ここを去ることを告げる。

 けれども。

 ヒナ先輩は最後まで眉をひそめ、終始、変な顔をしていた。

 その横で、大森君は苦笑して。

「心配ないよ。ヒナ先輩のフォローは俺がしとくから」

 と、言ってくれた。

 最後まで理解できないヒナ先輩と、大森君が帰って行くのを見届ける。

 静かになった病室から、月が見えた。

 もう、満月ではないけれど。

「……」

 ここで見る、最後の月。

 私は、

 指輪を両手で握りしめ、

 祈る様に目をつぶった。

 セオに、届け。

 私の、想い。

(セオに、会いたい。会って、伝えたい)

「だからお願い、セオ。迎えに来て……」



 リリアを迎えに行く準備の中。

 月を見上げ、セオは昨晩のことを、思い出す。


「リリアを、見つけた」


「……」

 はじかれるように戻ってきたセオが、二ッとその顔に笑みを浮かべた。

「もう、あっちの気配は覚えた。指輪も、リリアの元に戻ったようだな」

 呆然とするスコットを前に、セオはブツブツ呟く。

「じゃあ、今からまた迎えに行くの?」

「……」

 スコットの問いに、セオは黙る。

「?」

「……リリアを、引き留める者がいた」

「ああ、なるほど」

 セオのため息に、スコットも小さく息をつく。

「選ぶのはあいつだが。……明日、改めて迎えに行くか」

「……」


 リリアを前に、昨日、届きそうで届かなかった手を思い出し、握りしめる。

「……戻りたいと、思うだろうか?」

 今更不安を口にするセオを見て、スコットは苦笑する。

「最初の自信はどこに? 僕をあっちに返してくれるんでしょ?」

「……リリアが戻れば、それは容易だろうな」

 ため息と共に出る言葉に、スコットはさらに苦笑する。

「いざって時に、弱気にならないでよ」

「……うるさい」

 呆れたため息とともに、スコットはセオを見上げる。

「で? 行くの? 行かないの?」

 焦れるスコットを、セオは不機嫌に見た。

「行くに決まってるだろう」

 セオはグッと手を握りしめ、スコットの肩に手を乗せる。

 スコットはフフっと笑うと。

「僕が帰るのは少し後でもかまわないから。彼女が一緒に帰ってきたら、ゆっくり、二人の時間を過ごしなよ。君たち、まだ気持ちを確かめ合ってないんでしょ?」

 と、試すような視線をセオに促した。

「……」

 セオが戸惑いを見せると。

「お互い、どんなに大切な存在か気が付いたと思うから、ちゃんと確かめ合って。じゃないと僕も、なんか申し訳ないしね」

 と、スコットは自嘲気味に笑う。

「行ってらっしゃい」

 スコットの微笑みに見送られ、セオはその身を移動させた。



「帰るぞ、リリア」


 聞き慣れた、低いセオの穏やかな声がして、私は目を開ける。

 病室の窓際に、セオが立っていた。

 ホッとしたような、なんとも言えない顔をして。

「ゴメン、セオ」

 両腕を広げる私に、セオは答えるように近づき、ベッドの上の私を抱きしめる。

「……ありがとう、だろ」

 耳元で嬉しそうに囁かれる声が、ドキドキした。

「うん。ありがとう」

 私のセオの肩に巻かれた腕に力が入る。

「連れて帰るが、後悔しないな?」

 確かめるように告げられる言葉に、私は頷く。

「後悔なんて、しないよ」

 ふふっとこぼれる笑みと共に、私はセオの温もりを抱きしめた。

「でも、本当にゴメン」

「?」

「こっちの体、動けないの。立てないし、歩けないし、不便よね」

「……問題ない」

 ふわっと、セオは私を抱き上げる。

 私の瞳を見ながら、フッとその顔を緩ませた。

「黒髪も、黒い瞳も、なかなか似合ってるが、見納めだな」

「……え?」

 セオに抱き上げられた体が、ゆっくりとリリアの体に変化していく。

「どうして……?」

 私の問いに、セオは答えない。

 ただ、ゆっくりとその視線を病室の扉に移した。

 私が後を追うように視線を動かすと。

 ガラッと音を立て、病室の扉が開く。


「ああ、よかった。間に合った?」

 

 そう言いながら姿を現したのは、恵だった。

 その顔には、もう涙はなく、笑顔を浮かべて。

「恵……?」

「綾乃の旦那様でしょ? ちゃんと会っておきたくて」

 恵はゆっくり私たちに近づく。

「あっちの姿の綾乃? フフ、皇子様がいる世界だから、そんなビジュアルなのね。可愛いよ」

 二人の服装を見て、恵はとびっきりの笑顔をした。

「やっぱり寂しいけど。綾乃、元気でね。私より彼を選んだんだから、幸せにならないと怒るから」

「うん、ありがとう」

「……うん、またね。どこかで、会えるよね」

「うん、きっと……」

「……。綾乃のこと、よろしくお願いします」

 恵はセオに深々と頭を下げる。

「ああ、お前の気持ちは受け取った。心配はない」

「……」

 セオの答えに、恵は驚いたような顔をした後で、吹き出した。

「はい、皇子様っ!」

 恵の笑顔に見送られ、私はセオと共に、櫻木綾乃に別れを告げた。


 恵の姿がゆっくりと消えていく。

 病室も、病院も、育った街並みもゆっくり遠ざかって。

 私はセオがいる世界に、戻ってきた。

 無機質な病院と違う、広くて大きな家具に囲まれた、部屋。

「……」

 最初に戻ってきたのは、セオの育った家。

 セオの、部屋、だった。

「……皇子宮じゃないの?」

 セオの顔を伺いながら私は尋ねると、セオの顔が真っ赤になった。

「……セオ?」

 驚く私に、セオは小さく呟く。

「……邪魔されたくない」

「え?」

「今は、誰にも邪魔されたくないんだ」

「……」

 目をそむけながらそう言うと、セオは私をベッドに下す。

 寝かされた私に覆いかぶさるようにすると、

「会いたかった、リリア」

「……」

 と、確かめるように、セオの唇が私の額に注がれた。

 キスが瞼や頬に移った後は、唇に触れる。

 触れるだけのキスが何回かされた後、セオが囁く。

「リリア、お前が好きだ。もう、お前を離すつもりはない」

 存在を確かめるように求められるセオに答えるように、私はセオの背に手を回す。

「うん、私もセオが好きだよ。セオの傍に居たいから、傍に居させてね」

「……」

 くッと歪められたセオの瞳が、私を映す。

「お前、あっちに行って性格変わったのか?」

「え?」

「……素直なのが、可愛すぎる」

「な……っ!」

 言い返しそうな私の口を、セオはキスで塞いだ。

「そんなお前も、悪くない」

 と、セオの瞳が私を黙らせる。  

 私たちはお互い、その存在を確かめ合うように求めあい。

 いつの間にか力尽き。

 どちらともなく、眠りについた。


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