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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
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第14話 満月と指輪


 30分程前。


「あやの~、屋上に行かない? 許可はもらったんだ」

 消灯時間に近い時間。

 車いすと、医療服を着た青年を連れだって、恵が病室を覗き込む。

「六月の満月はストロベリームーンって言って、見ると恋愛運が上がるんだって」

 ニコニコ笑顔の恵は、休憩中のようで、ナース服のままだった。

「ストロベリー? 赤いの、月?」

 そう言葉にして、ドキッとする。

 ピンクの大きな月と、黄色の月が輝く映像が脳裏をよぎった。

(……なに?)

 思い出しそうな何かを胸に感じる。

「……」

 考えている間に、私は青年にひょいっと持ち上げられて、あっという間に車いすの上だった。

「そろそろリハビリ始まりますか? 足の筋肉、だいぶ弱ってますよね」

 と、リハビリ科所属だと言う青年が悩まし気に呟く。

「え、ああ……。寝てたもんね、ずっと」

 苦笑する私は、心ここにあらず、状態。

 どきん、どきん、と、胸が波打っている。

 ピンクの月も、お姫様抱っこも、初めてじゃない。

 意味もなく、胸が苦しくなった。

「……」

 違う、意味はある。

(私は……)

 屋上につくと、目の前に満月が瞳に飛び込んできた。

「……」

 赤い月ではないけれど、綺麗な満月に目を奪われる。

「うわっ! 思ったより寒いかも? 私、ひざ掛け持ってくる。待っててね」

 呆然とする私を残し、恵は足早に去って行く。

 動かないように止められた車いすに座ったまま、私は満月を見上げた。

「……」

 見ているうちに、じわっと涙が浮かぶ。

 目が覚めてから、ずっと寂しかった。

 

『心配しないで。一週間もしたら、こっちで君を覚えてる人は僕だけになるから。家族も、その○○皇子も。みんな、君を忘れるから』


 ズーンと、胸に落ちる。

 蘇る言葉が、声が、私の胸をズキズキと突き刺している。

 忘れてるのは、私も同じだった。

 忘れたくない。

 忘れられたくない。

 大切な人。


「……っ!」


 錯覚かと思った。

 会いたいと願う彼が、目の前に居たから。

 半透明な彼は、キラキラと夜空に輝いている。

 会いたい人が今、

 目の前にいる。


「……セオ?」


 自然と、その名前が口に出た。

 目の前に現れた輝く彼の姿に、私は手を伸ばす。

 今にも手が届きそうなのに。


『……リリアっ!』


 ドクン


 と、胸がギュッとした。

 私に気が付いた彼が振り向いて、私を見つける。

 彼の声が、名前を呼ぶ声が、胸を熱くする。

(私は、リリア・クロフォード……)


「だめっ! あやのっ!!!!!」


「あ……っ!」

 

 私の声が、小さく漏れる。

 目の前の彼が、瞬く間に姿を消した。

 何もつかめなかった私の手だけが、宙に取り残された。

 引き裂かれそうな胸が、苦しく悲鳴を上げる。

 私はゆっくり、振り返った。

 ひざ掛けを抱えた恵が、今にも泣き出しそうな顔で、そこに立っていた。

「……」

「ごめん、綾乃」

 俯いた恵が、小さく謝った。

「……あの人、綾乃のこと、迎えに来たの?」

「恵、私……っ」

 しっ、と、恵は唇に人差し指を当てる。

「不思議ね。こんなことありえないと思っても、信じちゃう自分がいるの」

 切なく微笑む恵を見て、私は何も言えなくなる。

「……この指輪、綾乃のだよね。ゴメン。今まで渡せなかった。綾乃が消えてしまいそうで」

 私の手に、指輪がそっと置かれた。

 手のひらで光る指輪は、セオが私にくれた指輪だった。

 セオの、お母様の指輪。

「綾乃が目を覚ます少し前に、指輪してるのに気が付いたの。検査にしていけないからって、私が預かってた」

「……」

 夢じゃない?

 じわじわとした感情が、私の胸に疼く。

 セオは、あっちの世界は、存在してるの?

(じゃあ、さっきのは本当に、セオが私を迎えに……?)

「この指輪、あの彼からもらったの?」

 恵の切ない笑顔に、私は指輪をただただ握りしめながら頷く。

「……」

 私と彼が出会ったあの世界は、夢ではなかった。

 手のひらの指輪を感じながら、涙が溢れる。

「もっと早く、返してあげれたら、良かったのかな」 

「……そんなことっ」

 言わないで。と、続きの言葉が出なかった。

「綾乃はどうなっちゃうの? もう、ここには戻ってこないの?」

 ボロボロこぼれる恵の涙が止まらない。

「もう、会えないの?」

「ごめん、恵」

(でも、私はセオに会いたい……っ)

「ああ、そんな顔、させたいわけじゃないの。謝らないで」

 恵は大きく頭を横に振る。

 一生懸命、笑顔を作っていた。

「私、ずっと綾乃を見て来たんだよ。家族を失っても、頑張って来たでしょ?」

「……」

「彼と、新しい家族を作るのね。綾乃が幸せになるのなら、私、ちゃんと見送るよ。大丈夫、こっちのことは私に任せて。何も、心配しないで」

「……」

「次、彼が迎えに来た時は、ちゃんと見送るからねっ!」

 ギュッと恵は私を抱きしめた。

 満月の下で、私たち二人はしばらく、声を上げて泣いていた。



 翌日、見慣れた顔がお見舞いに来た。

「櫻木」

「……大森君」

 病室に姿を現したには、同期の大森 奏太(かなた)

 同じ境遇にいるのだろうと、大森君は悲しそうな笑みを浮かべている。

「スコットに、名前、呼ばれたんだね」

 はあ、と、ベッドの近くの椅子に座る。

 その様子を、私は何気に眺めていた。

「俺は、彼に名前を呼ばれてこっちに戻って来たんだけど。でも、一番戻りたいのはスコットだろうね」

「……」

 意識不明のまま、ベッドに横たわる、彼。

 渡辺 航(わたなべ わたる)

 一度、ヒナ先輩が渡辺先輩の病室に連れて行ってくれた。

 スコットの面影もない、黒い髪の先輩。

「彼女と、結婚を考えていたみたいなんだ」

 彼の横で手を握りしめる女性の姿を思い出した。

「スコットがずっと結婚しなかったのは、彼女を覚えていたからだろ? スコットは、こっちの世界も、あの事件のことも、全部覚えていたみたいだったよ。かなり、苦しんでた。櫻木も……、櫻木綾乃としての記憶はあったの?」

 大森君の瞳がジッと私を見た。

「うん、三歳の時に。私がそのまま、目が覚めた感じだった」

「そっか。……俺は、スコットに名前を呼ばれるまで、全然知らなかったんだ。こっちに戻ってからは、あっちの生活が夢だったんじゃないかって感覚の方が強いかな」

「……あっちに、戻れると思う?」

 ぼそっと呟く私に、大森君は意外そうな顔をする。

 それでも、その表情は柔らかい。

「櫻木は、戻りたいんだね」

「……うん。大切な人を、置いてきちゃったから」

 あっちには、セオがいる。

(私はまだ、セオに伝えてない)

 セオに、会いたい。


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