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彼は厄介な皇子様  作者: 秋月みお
13/46

第13話 記憶の中の世界へ


「!」


 今の今まで、自分の腕の中にいた彼女の姿が唐突に消えた。

 状況を把握するまで数秒。

 ハッと我に返るセオが辺りを見渡すが、彼女はどこにもいない。


(あいつの気配がない?!)


「どこだっ!」


 辺りを見渡し、焦り叫ぶセオに答える者は誰もいない。

「何が起こったんだ……っ!」

 この場に居る者で、状況を把握しているのは、ただ一人。

 放心状態のスコットが、耳慣れない変わった名を口にしたとたんの出来事だった。

 そこに居る皆の目の前で。

 まるで、セオの瞬間移動のように。

 彼女が居なくなった空間を見つめ、その場にいる誰もが言葉を失い、立ちすくむ。

「くそ……っ!」

 嫌な予感と焦りに、セオはいらだちを隠せない。

 感じ取ることができない彼女の気配に、心が騒ぐ。

 遠くだろうと、どこに居ようと、セオが持つ能力で彼女を探し出せないはずがなかった。

 死を迎えていない限りは……。

 

「お前っ!」


 瞬間的に、セオはスコットの胸ぐらを掴んでいた。

 意図的に、あの言葉(なまえ)を口にしたスコットを睨むが、彼の目は焦点があっていない。

 焦りと怒りを押さえきれずに彼を問いただそうとするが。


「……っ!」


 触れた先からスコットの記憶がセオの中に流れ込んでくる。

(な、なんだ、この記憶は……)

 見たことのない風景だった。

 高い角ばった建物たち。

 固くて黒い地面。

 溢れるほどの人間。

 地面を這うように動き回る四角い箱。

 この世界とは違う文明の数々。

 目に入るものすべてが見たことのないものばかり。

 ただ同じ、人間の住む世界だということをのぞいて。

(どうなってる?)

 戸惑う間も、スコットの記憶は流れ込んで来る。

 彼の視界を通して、二人の人間の姿が見えた。

 そのうちの一人、黒髪の女性が、なぜか彼女だと分かった。

(さっき、前世の記憶を持った異世界からの転生者だと言っていたな……)

「ならこれは、お前がいた世界か……?」

 スコットから手を離すと、彼はその場に崩れこんだ。


「どうして……」


 彼の嘆きが聞える。

「一番帰りたい僕が帰れなくて。どうしてあいつらだけ……っ!」

 頭を抱えて崩れ落ちる彼を、セオは冷ややかに見下ろしている。

「どうして、どうして、どうして……」

 繰り返しこぼれる言葉に、答えはない。

「……」

(あいつはその記憶の世界に……?)

「くそ……っ」

 短い言葉を投げ捨てて、セオは再び彼女の気配を能力で探ってみた。

(微かでも、その存在がつかめれば……っ!)

 藁にでもすがる気分だ。

 だが、無情にも彼女の存在は感じられない。

(あの世界に、どうやって移動したんだ?)

 セオは再び、スコットを見下ろす。

「……」

 彼の頬に、一筋の涙が流れた。

 そんなスコットを冷ややかに見下ろしながら、セオが言葉を注ぐ。

「お前があの世界に戻りたいというのなら、俺が戻してやる」

「……」

 セオの簡単に告げられる言葉に、スコットは呟いていた口を閉ざした。

「何を言って……」

 伏していた顔をセオに向け、スコットは言葉を止めた。

 自分に向けられる鋭く冷たい瞳に息を飲むが、同時にやり場のない怒りが込み上げてきた。

「ハッ! 君に何ができるって?」

 スコットは立ち上がり、セオを睨み上げる。

「何も出来ない、何も知らない君が、どうやって……っ?!」

 無表情のセオにガシっと腕をつかまれたとたん、周りの風景が変わった。

「!」

 何年も胸に描いた、懐かしき故郷。

「お前たちがいた世界は、ずいぶんとこことは違うな」

 目の前のセオの言葉に、スコットは目を見開く。

「お前の知っていることをすべて話してもらおうか」

「なにを……」

「いや、話す必要はないか」

 セオの手が離れたとたん、伯爵邸の温室に戻った。

「……」

 何が起こっていたのか理解できず、スコットは混乱する。

「お前は俺が戻してやる。だから協力しろ。あいつは俺が、連れ戻す」

 力強く、当たり前のように告げるセオに、スコットは叫ばずにはいられない。

「出来るはずがないだろ?! 彼女は元の体に戻ったんだ! 体がないこっちには戻って来れない!」

「……」

 カッとなるスコットを、セオは冷静に見下ろしている。

 スコットは自分の両手を見つめ、震える。

「そうだよ……、もう、こっちには実体がない。彼女が。……彼女が僕と結婚していたら、いつかは僕を思い出して僕が帰れたのに……。君が急に、彼女を奪うから……」

 身勝手な考えに、セオは苛立った。

「お前、少しはあいつのことを考えたことはあるのか?」

「……」

「あいつが、戻りたいと言ったのか? 一人残されることを、望んだのか?」

 再び、スコットの胸ぐらを掴んだ。

 彼はセオに瞳に怯み、口を閉ざす。

「俺は能力者だ。絶対に、あいつは俺が見つけて連れ戻す」

「……」

「お前は向こうの世界とこちらの世界を繋ぐ存在。嫌でも協力してもらうからな」

 力強く迫るセオに、スコットは何も言えなかった。 

 


 そして。

 スコットが言っていた通り、一日一日が過ぎるたび、彼女のことを覚えている者が減った。

 セドリックやエース、執事や侍女長すら、時々忘れる。

「……」

 今日ですでに三日。

 あと四日で、この世界のすべてが彼女の存在をなかったことにしようとしている。

 グッと、セオの手に力が入る。

「今日は満月か」

 黄色に輝く月を見上げ、セオは思う。

浅紅(せんこう)の月の時期ではなくて助かったな)

「……」

 二人で過ごした、浅紅の月を見上げたあの時間が、嘘のようだ。

 あの日かわした言葉も、口づけも。

(つい最近の事なのに、遠い日に感じる……)

「……皇子様は本当に諦めが悪いんですね」

 セドリックと共に現れたスコットが、自嘲気味に笑う。

「お前も、大事な人に会いたいのなら、諦めないことだな」

「……」

 大きなため息を付いたスコットが、笑った。

「ちょっと、思ったことがあるんだけど、いいかな?」

「なんだ?」

 これまでと違い、少し前向きなスコットを、セオは素直に受け入れる。

「今までは、君が僕の記憶を覗くだけだったけど、その記憶、誘導できないかな?」

 真っ直ぐな瞳が、セオを見る。

「……というと?」

「うん、僕たちが転生したのは、同じ事件で死んだからだと思ってたんだけど。こうして二人が消えて、今までの世界に帰れたんだとしたら、死んでなかったことになると思うんだよね」

「……」

「病院に、いるんだと思うんだ、僕たちの本体」

 導かれた答えらしいスコットの言葉に、セオは頷く。

「……分かった。やってみよう」

 提案を受け入れたセオに、スコットは穏やかに微笑んだ。

 セオがスコットの記憶をたどると、薄暗い白い大きな建物の中に出た。

(ここが、びょういん、という所か?)

 今までたどってきた記憶の景色とはどこか違う。

「!」

 ハッとセオは上を見上げた。

 薄暗い建物の上に、微かに彼女の気配がした気がしたからだ。

 セオの気持ちに応えるように、周りの風景が変わった。

「ここは……」

 建物の最上階に出た様だった。

 セオの世界と同じ、夜の中。

 空に大きな満月がセオの目の前に輝いていた。


『……セオ?』


 名を呼ばれて、セオは驚いて振り向いた。

 そこには、彼女がいた。

 車いすに座った、黒い髪の女性。


「……リリアっ!」


 セオがそう、彼女の名前を呼んだのと同時に声が上がる。


『だめっ! あやのっ!!!!!』


 リリアの後ろの女性が悲痛に叫んだ声を最後に、リリアとその景色はセオの前から消えていた。


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