幽霊っていると思う? ~霊感ゼロの心霊体験~
本作はホラー表現を含みます。苦手な方はご注意ください。
皆様は幽霊の存在を信じますか?
たらこは信じていません。
何故なら霊感がないからです。
今までそれっぽい物を見たことが一度もありません。
幽霊なんて、テレビの中でしか見ないフィクションのような存在だと思っています。
目に見えないから信じないなんて、もしかしたらとても愚かなのかもしれません。
だって、酸素や赤外線だって見えませんからね。
これは、霊感ゼロのたらこが唯一体験した、心霊体験的な経験談です。
幽霊は一切出てきませんけど、苦手な人は注意してください。
それはたらこがまだ学生だったころの話。
たらこが通っていた学校にはクラスが二つあり、一クラス当たり30人前後いた気がします。
学校が所属する団体はN県(もしかしたらG県かも。記憶があいまい)に大きなキャンプ場を所有しており、一年生はそこで4日ほど合宿をすることになっています。
合宿と言っても普通にキャンプを楽しむだけで、特別な訓練とかはしません。
なので全力でエンジョイできるのです。
キャンプの時期は初夏のころで、まだまだ夏本番と言った感じではありません。
ですが高校を卒業して大人になり始めたばかりの学生たちが楽しむには、十分なほど熱がありました。
二クラス同時に合宿を行えるほどのキャパはないので、まずはたらこのいるAクラスが合宿を行い、それとは入れ違いになる形でBクラスが後から来て合宿に参加。AクラスはBクラスが来た日に帰るといった日程になっていました。
なので、一クラスだけで合宿を行うので、人見知りのたらこにはとても助かりました。
キャンプ場にはコテージがいくつかあり、6っつのグループに分かれて泊ります。
もちろん男女別々です。
こう書くと……夜にいかがわしい行為をした人がいるかもしれないと、想像される方もいるでしょうが、そう言った行為に走る人はいなかったです。噂すら聞きませんでした。
何故ならみんな純粋に楽しむことに必死過ぎて、そこまで気が回らなかったのだと思います。
あのころはたらこも若かった。
そして、毎日がキラキラしていて、幸せでした。
キャンプでは様々なレクリエーションが行われ、アーチェリーやカヌー、水泳。あとは飯盒炊爨。
とにかくいろんな体験をしました。
みんな口をそろえて4日じゃ足りない! と不満を漏らしていました。
たらこもそう思います。
半年ぐらいはキャンプしたかったです(さすがにそれは長すぎる
楽しかったことばかりではなく、足を滑らせて転んだとか、トイレにカマドウマが沢山いたとか、電波が全く入らないとか、外界から完全に隔離されているのでコンビニにすらいけないとか、色々な問題がありました。
けど、そんな問題が気にならないくらい、みんな楽しんでいました。
たらこも楽しかったです。
今までの不安や孤独なんて、全部忘れてしまったくらいに、とても楽しかった。
さて……そろそろ本題に入りたいと思います。
キャンプと言えば、当然やるわけですよ。
肝試しを。
肝試しと言っても、キャンプ場は湖に囲まれた半島だったため、行けるところは限られています。
墓地や廃学校、廃トンネルなんてありません。
それっぽい物は何一つなかったのです。
ですが……ひとつだけ小屋がありました。
その小屋はたらこたちが使っていたコテージの一つですが、やけに離れた場所にあるのです。
周りに施設など何もなく、離れた場所にポツンと一つだけ。
その小屋は今回のキャンプでは使われていませんでした。
とりあえずその小屋の名前をD小屋としておきましょうか。
D小屋は別にいわくつきの場所と言うわけではなく、単に遠すぎて使われていないというだけの施設です。何か事件があったわけではありません。
でもやっぱり、あの年頃の若者たちは、ただ遠くにある小屋と言うだけで興味を惹かれたのです。
と言うわけで小屋を見に行くことにしました。
夕食が終わった後の自由時間。
太陽が落ちて真っ暗になり、街灯なんて一つもない暗闇に沈んだ世界。
星や月も木々に隠れて見えない。
足元は舗装されていない土の道。
そんな世界を懐中電灯を手に、転ばぬよう慎重に進んでいきます。
D小屋を目指したのは、たらこと、バカで有名な男の子と、めっちゃ可愛いギャルの子の三人。
なんかとても異色なメンバーですが、たらこは二人と仲が良かったのです。
D小屋へたどり着くまで、それほど時間はかかりませんでした。
途中から坂道になって、人があまり来ないゆえに落ち葉や枯れ枝が散乱し、とても歩きづらかったのですが、とくにトラブルもなくたどり着けました。
D小屋の見た目はただの小屋。
ですけど逆にそれがとても不気味に思えます。
周囲には本当に何もありません。
うっそうと生い茂った木々に囲まれ、当然ですが人の気配もしない。
一応整備はされているようで、雑草はあまり生えていませんでした。
とりあえず、扉を押して中へ。
鍵はかかっていませんでした。
内部にはベッドと棚。
イスとテーブル。
他には何もありません。
たらこたちが使っているコテージと同じ設備です。
まぁ……予想はしていました。
どうせ何もないのだろうと。
ここまで来た道のりが冒険だったのだと思い、たらこはそれで納得しようと思いました。
でもまぁ……手ぶらで帰るのもなんだし、写真くらい撮って帰ろうと。
当時はカメラ付ケータイが普及したばかりで、あまり性能はよくありませんでした。今のスマホのカメラと比べると、画質も悪く、映りもよくありません。
いわゆるガラケーと呼ばれる通信端末が主流だった時代。
様々な機種がありましたが、カメラは標準搭載。
基本的にどのケータイにも付属していました。
一応、フラッシュ機能も付いています。
なので暗い場所でも写真が撮れるのです。
一緒に来ていたバカの男の子が、ケータイで小屋の内部を映そうとしました。
けれど……シャッター音がしません。
変だなと思って彼は何度も試したのですが、ダメでした。
たらことギャルの子も自分のケータイで写真を撮ろうとします。
でも……ダメなんです。
なんど決定ボタンを押してもシャッターが下りません。
ケータイ自体は壊れていないはずなのですが……。
三人は途端に不安になって、足早にその場を去りました。
メインホールと呼ばれるキャンプ場中央にある施設へ戻り、明かりが見えてホッとしたのを覚えています。
その中にはたらこの友人やクラスメイト達が何人かいました。
彼らに今しがた起こった出来事について話します。
とりあえず、ケータイが壊れてないか確かめたら?
誰かが言ったので、自分のケータイを取り出して、カメラ機能を起動しました。
そしたら……普通に取れたんですよ、写真。
男の子のケータイも、ギャルの子のケータイも、普通に写真が撮れます。
壊れてなんていなかったのです。
あれ、これやべーなって、なりました。
話を聞いたクラスメイト達は、再びD小屋へ向かおうと提案。
ギャルの子はもう行かないと言いましたが、その子の友達の女の子が代わりに見に行くと言いました。
クラスメイトの中には一人だけ大学を卒業した後に、たらこたちの学校に入学した人がいて(通称おっさん)彼をリーダーに数人のメンバーで再びD小屋へ向かいます。
たらことバカの子も一緒に行きました。
D小屋へ到着。
早速中に入って写真を撮ろうとします。
ケータイのボタン、反応しません。
使い捨てカメラのシャッターを押しても反応しません。
何度か試しているうちに、ようやくフラッシュがたかれ、写真を撮ることが出来ました。
……目的は果たされたのです。
写真が撮れたことで、やることが無くなり、さっさと帰りました。
やけにあっけない幕切れでした。
D小屋には本当に何もなくて、ただ写真が撮れなかっただけ。
目的の写真が取れてしまったことで、それ以上は何もすることがありません。
それぞれのコテージへ帰って就寝。
明日もまた楽しい一日が始まる。
そんな風に思っていました。
翌日。
ギャルの子が体調を崩しました。
熱を出して寝込んでいるようです。
ああ……せっかくのキャンプなのに、風邪をひいたのかと不憫に思いました。
でも風邪を引いただけだから休めばすぐに良くなるか。
初めは楽観的に思っていたのです。
すると……具合を悪くしたのは、ギャルの子だけではないと分かりました。
たらこと一緒に小屋を見に行ったバカの男の子。
グループを先導したおっさん。
他にも一人か二人ほど(記憶が定かではない
全員がD小屋の様子を見に行ったメンバーでした。
たらこはぞっとしました。
間違いなく、あの小屋には何かいたのだと。
他のクラスメイト達も不安に思ったようで、昨日撮ったケータイの写真を確認します。
そこには何も映っていませんでした。
ただ小屋の内部が映し出されているだけ。
光の玉みたいなものが映っていましたけど、人の顔や、幽霊らしき存在は全く。
ううん……なんとも判断しづらい。
いっそのこと、でかでかと恨めしい人の顔が映っていれば良かったのですけど、それっぽいものは見当たりません。
幽霊なんてどこにも映っていなかったのです。
一日たって、体調を崩したメンバーは回復しました。
ちょっと具合が悪くなっただけのようです。
キャンプ自体はとても楽しく、他にトラブルは起きませんでした。
帰りのバスの中ではみんな大興奮。
本当に幸せな時間が過ごせました。
確かに、あのD小屋での体験はちょっと怖かったですけど、たまたま偶然、一緒に行ったメンバーが、同時に体調を崩しただけ。
偶然が重なっただけだ。
たらこはそう思うことにしました。
ところで……皆さん。
最初の方に話したことを覚えているでしょうか。
この合宿は、AクラスとBクラスが期間を分けて別々に行うことを。
Bクラスの生徒たちがキャンプ場へやってきました。
たらこたちは彼らが乗って来たバスで東京へ帰るのです。
なんとなく……嫌な予感がしました。
そして、その予感は当たりました。
Bクラスの生徒たちも、D小屋の様子を見に行って、数人の生徒が体調を崩したのです。
ただそれだけのことなのですが……。
もはや偶然で片付けられることではありません。
あれ日以来、たらこは目に見えない未知の存在を信じるようになりました。
でもそれは……多分ですけど、幽霊なんて単純な言葉で片付けられるほど、生易しい存在ではないように思います。
だって生きた人間に干渉してくるわけですから、心霊現象よりもよっぽどたちが悪いでしょう。
いったいあの小屋には何がいたんでしょうねぇ。
え? たらこはどうだったのかって?
全然、どこも悪くなってないですよ。
だってたらこには……霊感なんてありませんから。