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俺と壊れた世界と機械仕掛けの女神様  作者: 遠近
1章 こんにちは、壊れた世界。
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08 機械仕掛けの女神

 何か言いたげな研究員たちを黙殺し、フリオさんは俺の手を引いて保全ルームを出た。


「付き添いはいらないよ? 彼1人、私だけで抑え込めるしね。」


 朗らかに笑って言うフリオさん。

 まぁ種族特性を考えればそうだろう。

 それでも最後までセルフィオーネさんは付いてきたそうな顔をしていた。


「…セルフィオーネくんにも聞かれたくない話でね。」


 悪戯そうに笑って言う。

 導かれるまま廊下を歩き、明らかにエントランスな場所に着く。

 そこでやっと俺が裸足なことに気付いたフリオさんは、俺にサンダルみたいな靴をくれた。

 ついでにローブを渡され、フードをかぶっているように指示を受けた。

 仲間は相変わらず研究員の白衣だけで心許ないけれど、装備品が増えてちょっと安心する。


 やっと外に出られる。

 2Dじゃないトルミラの街が観れるとおれの心は浮き足だった。

 俺たちのギルドハウスはどうなったのだろう?

 よく行っていた店はどうなったんだろう?

 2Dの時でさえ荘厳な雰囲気があった、転移門があった施設はどう見えるんだろう?

 でも、500年以上経っていると言っていた。

 だいぶ様変わりしているんだろうな、なんて思った。


 外に出て、まずこの旧世代遺物研究所がだいぶしっかりしていることがわかった。

 石畳で整備された街道に家や店が立ち並ぶ。

 俺は今いる場所が、俺の知るトルミラのどこなのかさえわからなかった。


「セイジさんは、昔のトルミラをご存知ですか?」


 頷くと「それは重畳。」とフリオさんは笑った。



 俺の知るトルミラ。


 街の中央には噴水があって、そこがログインして入る場所だ。

 だいたい他の街にも街ごとのランドマークがあって、そこがその街のログイン場所だった。


 噴水を中心に東側は商店や工房が並ぶ商業区。南側にはクエストを統括するハンターギルドがあり、その周囲にはギルドハウスやプレイヤーが使う宿屋なんかがあった。

 基本、トルミラではプレイヤーはこの2つにしかいかない。

 たまにクエストで北の行政区に行ったり、西のNPCの家がある一般区に行ったりすることもあったが、そんなの滅多にない。

 

「東と南にはよくいましたけど、北と西は全然。」


 そう言うと、フリオさんは歩みを止めぬまま、右上を見て少し考え込んだ。


「あぁ…昔はそうでしたね。」


 それは、今は違うということだ。


「先程申し上げた通り、『デア・エクス・マーキナー』が起きた後、忽然とヒューマンとそれを囲う者。ようは、ヒューマンに関わる全てが忽然と消えました。」

「なら、南は…。」

「えぇ、ただでさえ街は焼け野原でしたが、あれは異様でした。南は何もなくなりました。」


 フリオさんの目は暗い。


「事態の沈静にハンターのご助力を願おうと北から伺ったのですが、そこには何もありませんでした。」


 もしかしてとは思ったけれど、建物も消えていた。


「街と街を繋ぐ転移門も、まるで前からそんな存在はなかったかのように。」

「じゃあ、商業区は? あそこにはヒューマンと関係ない店だって工房だってたくさんあったはず…。」


 フリオさんが悲しそうに笑った。


「おそらく、消えたものあるでしょう。…残っていたものは焼け落ちました。」


 エルフが水の魔術で火を消そうとしたが、水は現れなかったのだろう。


 俺はここで、もしかして全ての原因ヒューマンのせいにされてないか?と思った。

 そんな焼け野原、人が死ななかったとは思えない。

 なのに、鎮火してみればヒューマンは1人もいない。

 トリガーがヒューマンだと思う人がいても不思議ではない。

 

 それを心配して尋ねると、フリオさんは教えてくれた。


「件のエルフの中にそういう方がいらっしゃるのも事実です。」


 やっぱり過激派活動家じゃねぇか。


「ですが、不思議なことに死者は1人もいなかった。ということになっていますし。」


 揉み消したのか?

 金の力で揉み消したのか!?


「いるとすれば、消えたヒューマン関係だけですし。街もまるでヒューマンがいた痕跡を消すかのように燃えただけでした。」


 まぁ、彼らと取引した物品は残っているのであれですが。

 そうフリオさんは付け加えた。


 街並みを抜けると、あえて整備されていないのか土が剥き出しの地面が広がっていた。

 よく見ればその中心には、穴が空いており、その周りをぐるっと柵で囲われている。


「工事現場がなにかですか?」

「いや、アミナくんが言っていたでしょう。ここが女神が眠る地。そして、かつての街の中心の噴水があった場所です。」


 東西南北なんてわからないから、周囲を見渡した。

 噴水の周囲には何もない。

 ただ、剥き出しの土の地面のまま。


「さきほどいた研究所があるブロックがかつての行政区です。それを南区として、トルミラの街は作り替えられたのです。」


 500年も経っているんだ、いくらなんでも経年劣化で街並みはかわってしまっているだろう。

 そのぐらいの気持ちだった。

 それが、記憶にあった光景は跡形もないなんて…。


「こちらです。」


 柵の一箇所、そこにいた警備兵のような人に声をかけて、フリオさんが中へ誘う。

 規模に対して警備の数が少ないんじゃないかとも思ったが、その兵もよく見れば片足がない。


「ハンターギルドがなくなってしまったので、見様見真似でギルドを設立したのですよ。ここの警備はそのハンターで怪我を負ったら年老いたりで依頼を受けられないものに回す仕事の1つです。」


 ゲームのプレイヤーは死に戻りがある。

 依頼中の怪我なんて回復薬か魔術で治してしまう。

 リアルになるとそういうことに気を回さなければいけないんだなぁとちょっと切なくなった。


 案内されたかつての噴水のあった場所。

 そこは大きな穴が空いていて、すり鉢状になっていた。

 壁伝いに降りられるように手入れてあるが、きちんと整備されているわけではないようだ。


「この穴の1番下で女神は眠っています。」


 気をつけながら徐々に降りていくと、この穴の中央に大きな水晶のようなものがあるのに気付いた。

 薄らと青みがかった白い水晶だ。


「あの中に女神様がいるんですか?」

「えぇ、女神はあの時と全く変わらない美貌でそこにおられるのです。」


 やっと着いた最下層。

 水晶の周りにも穴の入り口のように柵がある。

 そしてその柵にはプレートがあった。


「最上位の鑑定魔術の使い手が、全力で読み取った女神の名前です。『アーケイン』」


 水晶をよく見る。

 白くぼけた視界の中、目を凝らせばその様子が見てとれた。

 腕も脚もまるで機械のようだ。

 配線もメカニカルな部分も剥き出しで無骨な印象を受ける。

 下半身を覆うスカートもまるで鉄板を曲げて溶接したようなそんな感じだ。

 上半身は胸元を大きく開いているが、それも胸に大きく空いた穴を露出させるためだろう。

 そして、顔。

 顔だけは機械らしくなかった。

 いや、むしろ俺はこの顔に見覚えがあった。

 これはまるでうちのギルドマスター、LINDAのリアルの林田あかねちゃんの顔だった。


 ハッとしてプレートを見る。

 そこには『AKANE』と刻印してあった。

 ローマ字を読み間違えたのか?

 そう思っていると、フリオさんが愛おしそうに水晶に触れた。



「私の願いは、…アーケインの再起動です。」

「再起動?」

「この水晶のせいで調べることも叶いませんが、私はこの胸部の穴はアーケインの動力であったとみています。」


 己の胸を撫でながら、


「ちょうどここには…心の臓があるでしょう?」


 その顔は俺が見てきたフリオさんの顔ではなかった。


「私はね、女神が降臨した時、ちょうどこの噴水広場にいたのですよ。天から降り立ち、砂煙が舞う中、彼女はこの世界に火を放った。」


 うっとりと水晶を見つめ、続ける。


「あの光景は私を魅せた。今もこの機械仕掛けの女神の美しさが私を捉え手放さないのだよ。」


 そして、俺を見つめ、



「さぁ、君はアーケインを目覚めさせられるかな?」

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